多くの企業が新入社員を迎え入れる春。
入社してからしばらくは研修期間となるはずだが、そこで優秀だった新入社員が、実際に長く続けるとも限らない——。
「行動力がスゴい」新入社員に、周囲は“なんでうちに入社したんだろう?”

大手保険グループの子会社で働く角刈りにメガネの男性、浅野洋介さん(仮名・30代)が同期だった加藤さん(仮名)の第一印象についてこう話す。
「誰もが“なんでうちに入社したんだろう?”と思っていました。彼は東京都内の有名私大を出ていて、親会社にも就職できそうなのに。同期はほとんど中堅以下の大学だし、勉強もスポーツも“そこそこ頑張る”みたいな。加藤は、そんななかでも海外留学していたり、ボランティアにもたくさん参加してきたような行動力とかバイタリティーあふれるタイプで。うちの仕事は地味なうえに大変だから、満足できるのかなって」
とはいえ、入社後の研修においても「とにかくアイツは優秀だった」と振り返る。
研修を通して深まる同期の仲
同期には、女性も少なくなかったという。「一般常識やビジネスマナー、グループワークなどの研修が合同で行われました。加藤は率先してまわりを引っ張っていく。
同期の仲は研修を通して深まり、金曜日の夜になれば飲み会、土日もボウリングやカラオケ、ドライブに出かけるなどしていたそうだ。
「みんな学校を卒業したばかりなので、サークルのノリを少し引きずっていたんですよ。近いうちに“同期でカップルができるかもな”と予感していましたね」
いよいよ配属、実務では全員が苦戦

「さすがの加藤も疲労困憊でした。週末になって会うたびにやつれていく。当時は知る由もなかったのですが、彼の配属先は新卒にはやや厳しい。役職から降格した社員を鍛え直したり、出世させるかさせないか微妙なラインにいる社員を試したり。今思えば、人事部としても鳴り物入りで入社した加藤の実力とか本気度をはかろうと、あえて試練を与えていたのかもしれません」
夏を迎える頃には、死に物狂いで結果を示す新入社員もいれば、退職者もチラホラと出始めた。
社内で有望視されていた加藤さんだったが、ここのところはすっかり影を潜めていた。次第に浅野さんとの飲み会にも顔を見せなくなったという。
街に消えていく同期の男女「あの方向は完全にラブホ街だ!」

「だんだん飲み会の規模も縮小されていき、最終的にはそれぞれが研修で同じグループだった人たちだけでつるむようになっていました。A班、B班、C班みたいな。加藤のいたグループの同期に偶然会ったときに“最近みんなどうしてる?”って聞いたんです。そしたら、知らぬ間にちょっとした“事件”が起きていました(笑)」
それまで真顔だった浅野さんが、少し下品な笑みを浮かべる。事件とは、いったいなんなのか?
なんと、その同期によれば「先日、グループの飲み会で加藤とあゆみ(仮名)が付き合っていると発表した。終電間際、みんなが解散した途端、2人で肩を寄せ合いながら消えていった。
「あゆみも同期の中では“なんでうちに入社したんだろう?”と思われていたひとり。大学時代はモデルとかファッションショーの仕事をかじっていたらしく、ビジネスマナー研修にピンヒールを履いてきちゃう感じの子で少し浮いていた。業界を間違えちゃったのかなって」
以前から「なんだか2人の関係が怪しい」「距離感が近すぎる」と、そのグループ内では交際を疑われていたそうだが、実際にその姿を目の当たりにして驚いたとか。
職場はア然「2人とも、会社辞めるってよ」

「僕は少し前に本人から聞いていました。本当は別の業界を志望していたけど、落ちたからうちに入っただけだと。転職活動をして、そこに中途採用で受かったから辞めるということなんですが、じつは、すでに夏ぐらいから動いていたらしいんです。そりゃ僕たちとの飲み会や遊びにも参加しなくなる。
しかし問題は、親しい先輩と飲んだ際にうっかりしゃべってしまったこと。まあ、先輩からしたら、水面下で動いていたことに対して、“何のために今まで後輩をかわいがって仕事を教えてきたんだよ”って怒りますよね。それが退職届を出す前に上司や人事部の耳にも入ってしまったらしく、別室に呼び出されてツメられたみたいです。
一方、あゆみはシンプルに会社の雰囲気と合わなかったみたいで。同じグループでお互いに辞めたい2人がくっつくのもうなずける。ただ、交際が発覚したかと思えば、まさかの同時に辞めるって、なんか変な感じの空気になりましたね」
「いろんな意味で行動力がスゴい」

その後、加藤さんは念願だった業界で何度か転職しながらも「バリバリと働いている」そうだ。彼女と結婚していたら、めでたしめでたし……なのだが、結局は別れてしまったらしい。今でもたまに開催される同期の飲み会で“新入社員の頃の思い出”として酒の肴になることもあるのだとか。
<取材・文/藤井厚年>
【藤井厚年】
明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスで様々な雑誌・書籍・ムック本・Webメディアの現場を踏み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者として活動中。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。趣味はカメラ。