一昔前まで「月5万円あればタイで悠々自適に暮らせる」といわれていた。しかし物価高や為替の変動により、その夢は年々厳しさを増している。

タイ・パタヤ南の港町で月5万円の生活費で暮らす家族がいる。韓国・済州島出身の李知勲(ジフン)さん(41歳)と友子さん(40歳)の夫婦、そして長女・柚奈さん(11歳)だ。

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友子さん夫妻はパタヤ・バンコク・プーケット発のフィッシングツアー「Mokoley Fishing」を経営している。どのようにやりくりをし、どんな日常を送っているのか。タイ移住に至った経緯や、現地でのリアルな暮らしぶりまで話を聞いた。

出会いと結婚、タイ移住のきっかけ

「生活費は月1万バーツ(5万円以下)」タイに家族で移住した日韓・国際結婚夫婦の日常。苦労の中で見つけた節約の工夫とは
結婚当初の友子さんと柚奈さん(当時1歳)、ジフンさん
大阪府出身の友子さんとジフンさんが出会ったのは、今から14年前。友人を介した食事会がきっかけだったと話す。

「最初は友達として付き合いが始まり、数年後に交際に発展しました。交際する時点で結婚を意識していて、親に紹介したタイミングで夫の父が末期がんで入院していたんです。そんな中で私のお腹に娘が舞い降りてきて、結婚することになりました」

当時ジフンさんはアパレルの仕事から大型トラックのドライバーに転職。運送会社は給料こそ悪くなかったが、夜勤が多く、夫は娘と顔を合わせる時間さえないほどすれ違いが続いたという。

「もともとは私の曽祖父が設立した会社で、戦後から木工を中心に製造業をしてたんです。けれど、父の代になって日本での製造が難しくなり工場をタイに移したんです。
今も木工の工場はタイのスパンブリーにあります。それから日本のフィッシング・アウトドアメーカー『SHIMANO』代理店として釣りの事業も広げていき、その流れでバンコク、パタヤを中心にツアー事業も展開していきました。その後コロナが明けたタイミングで父から声をかけられ、釣りツアーをジフンが任されることになったんです」

ジフンさんも運送会社での仕事に疲れており、友子さん自身は「家族で海外に挑戦することで、それぞれが成長できるのではないか」と考えた。

「でも夫はとても現実的な人なので、本当にやっていけるのかとずいぶん悩んでいました。でも友達や家族も私たちの決断を応援してくれて、『失敗したら帰ってきたらええやん!』と笑いながら背中を押してくれたこともあり、せっかくのチャンスなのでやれるところまでやってみようと思いました」

タイへ移住…しかし、苦労の連続

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フィッシング
こうしてタイのパタヤへと移住した友子さん一家。ただし、事業を引き継ぐにあたって、さまざまな苦労があったという。

「コロナ明けや円安の影響、さらにタイから多くの日系企業が撤退して、駐在員が減ったこともあって……。コロナ前は社員旅行など、団体で利用してくれる日本人のお客さんが多かったのですが、最近はほとんどいなくなってしまい……経営は正直、いまでも厳しい部分があります」

さらに追い打ちをかける出来事もあった。

「事業を継いで1年も経たないうちに、ツアー用の船が動かなくなってしまって修理続きでした。日本から輸入した船ということもあり、タイで修理ができる整備士が少なく大変でした。修理しても、別の箇所が故障するという事が続き、結局新しい船を購入することになったのですが、新しい船の購入をするのにもいい船がなかなか見つからず苦労しました」

船を停泊させるマリーナ代も大きな負担だった。現在は別のマリーナを見つけ、費用はかなり抑えられているというが、日々の生活は決して楽ではないと語る。

苦労の中で見つけた「節約生活の工夫」

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友子さん手作りのキムチとヨーグルト
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ベランダ菜園をすることも
貯金を切り崩す、決して楽とはいえない生活。そんな中で友子さんは節約しながら工夫する日々を送っている。
家族3人、食費と日用品をあわせた生活費は月わずか1万バーツ、日本円にして5万円以下だという。

「食事は基本は自炊で業務スーパーで買ったり、野菜や果物はタイのローカルの方たちと同じようにタラート(市場)で購入するようにしています。たとえばバナナの場合、スーパーだと1kg100バーツ(約460円)ですが、タラートなら60バーツ(約270円)で手に入ります。魚介類は夫が仕事で余ったものを持って帰ってくることも。また、現地の人たちが利用するおかず屋さんで惣菜を買ったり。現地の人と同じ行動を意識しながら、工夫しています」

さらに、できる限り手作りすることで節約を心がけている。

「ベランダでゴーヤーやかぶを育てたり、キムチやヨーグルト、グラノーラなど、自分で作っています。最近はタイの工場で生産されている日本の調味料が手頃な価格で買えるようになり、とても助かりますね。昔はマヨネーズも日本のものしか受け付けなかったんですが、今ではタイのものでも平気になりました。日本のに比べると少し甘いんですけどね(笑)」

娘の柚奈さんは、タイカリキュラムを採用したインターナショナルスクールに通っており、学費も比較的抑えられている。

「学費は年間12万バーツ(約55万円)程度で、一般的な小学校のインターナショナルスクールが、年間30万~ 60万バーツ(約140万円~278万円)なので、かなりリーズナブルです。そのうえで英語の特別授業であるExtra Classも受けさせています」

柚奈さんにも、タイに訪れてから変化があったという。


「元々、少し潔癖なところがあったのですが、いまではそこまで気にならなくなりました。また、学校にはタイ人やロシア人の生徒が多く、時には喧嘩して国籍に触れる言葉を投げかけられることもあるようですが、それも含めて友達と仲良く過ごしています。こっちに来た当初は『YESかNO』しか言えなかったのですが、いまは自分の考えや状況なども相手に伝えることが出来るようになりました。娘にはいろいろな国の良いところを取り入れ、違いも受け入れながら柔軟に歩んでほしいなと思っています」

移住での苦労、タイの魅力

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現在の住まいであるコンドミニアム
そんな中、日々の生活で苦労することもあるという。

「保険料が高額なので、私と娘は入っておらず、ちょっとビクビクしながら暮らしています。また、免許の更新が今度改正され、外国人はタイ語か英語で試験を受けるようになるかもしれないので、語学面で心配しています。スタッフや関係者のタイ人との意思疎通もなかなか伝わらないことがあって、そういうときは本当に苦労しますね」

タイ特有の気候や環境による苦労もある。

「交通インフラの整備がまだ十分でないため、不便を感じることがあります。特にパタヤでは車移動が中心なので、道路の陥没や時期によっては冠水箇所もあり、注意しなければ身動きが取れなくなります。天候が悪いと海に出られず、やむなくツアーを中止することもあります」

また、韓国人の夫・ジフンさんとは文化の違いで衝突することもあるという。

「夫は小学校の頃から日本と韓国を行き来し、中学から本格的に日本に住み始めたので言葉の壁はほとんどありませんが、それでも習慣の違いで戸惑うことがあります。たとえば、娘の生後100日とお食い初めが重なったときは、日本の料理と韓国の料理の両方を用意しなければいけなかったりとか。
娘の世話をしながらだったので本当に大変で、朦朧としながらなんとか間に合わせた記憶があります。あと、これはお互いの性格なのかもしれませんが、私が困っているときにサッと助けてくれないと『何なん?』ってなって怒ることもしょっちゅうです(笑)」

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家族
最後に、タイでの生活の魅力について聞いた。

「ゆったりした時間の流れや温かい気候、ローカル食も美味しく、南国好きには本当に最高です。可能であれば、ずっとここで暮らしたいと思っています。日本や韓国に戻る可能性は全くわかりませんが、今後は事業を盛り上げつつ、タイの魅力も伝えていきたいです」(友子さん)

「タイ人のおおらかで親しみやすい性格も魅力です。その雰囲気に触れると自然と笑顔が増えていきます」(ジフンさん)

李知勲(ジフン)さん・友子さん
2023年に家族3人でタイに移住。パタヤに移住し、夫婦でフィッシングツアー「Mokoley Fishing」を経営。Instagram Mokoley Fishing:@mokoley、友子さん:@moco_pa234

<取材・文/カワノアユミ>

【カワノアユミ】
東京都出身。20代を歌舞伎町で過ごす、元キャバ嬢ライター。現在はタイと日本を往復し、夜の街やタイに住む人を取材する海外短期滞在ライターとしても活動中。アジアの日本人キャバクラに潜入就職した著書『底辺キャバ嬢、アジアでナンバー1になる』(イーストプレス)が発売中。X(旧Twitter):@ayumikawano
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