秋のG1シリーズ開幕戦のスプリンターズSが、今週末に中山競馬場で行われる。
 人気の中心は春秋スプリント制覇を狙う6歳馬のサトノレーヴ。
3月に高松宮記念を勝利した後も、香港、イギリスと海外を渡り歩き、強豪相手にG1で連続2着と安定したパフォーマンスを披露している。

 今回も鞍上には、マジックマンことJ.モレイラ騎手を迎え、やや抜けた1番人気に推されることになるだろう。

サトノレーヴに挑むライバル勢と伏兵の台頭

<スプリンターズS>「武豊×ジューンブレア」に立ちはだかる“...の画像はこちら >>
 そして他の有力馬もサトノレーヴと同じ6歳世代の馬が多い。2年前の当レース覇者ママコチャは、大崩れしない安定感が持ち味。スプリントG1で2着が3度ある“シルバーコレクター”のナムラクレアも侮れない。そして、昨年の2着馬で、重賞5勝の実力派トウシンマカオまで、名前を挙げた4頭は全て同世代のライバルたちだ。

 この中から今年のスプリンターズSを制する馬が出る可能性が高いが、そこはスピードがものをいう電撃の6ハロン戦。切れ味勝負になれば、若い世代から伏兵が台頭してもおかしくない。

 過去10年のスプリンターズSを見ても、4歳馬が最多の4勝を挙げており、勝率11.8%もやや抜けている。6歳馬の勝率6.7%と比べても、馬券的には4歳馬を狙い撃ちしたいところだ。

4歳馬の中で注目すべき馬

 そこで6頭がエントリーしている4歳馬の中で注目したいのが、5~6番人気が予想される牝馬のジューンブレアだ。アメリカンファラオ産駒の同馬は、これまで10戦4勝と成績自体は平凡で、重賞も未勝利。さらに今回がG1初挑戦で、メンバーレベルが一気に上がる今回はあくまでも格下扱い。

 それでも、近2走は函館スプリントSとCBC賞で連続2着に好走しており、いつ重賞を勝ってもおかしくない実力の持ち主であることに間違いはない。
そして、2走前にマークした芝1200mの持ち時計1分6秒6は、同レースを勝ったカピリナと並びメンバー最速。年齢的にも今が充実期の可能性が高く、ここで重賞初勝利を飾っても不思議ではないだろう。

 また、ジューンブレアは芝1200m戦で【4-2-0-0】と、まだ底を見せていないのも魅力。7枠13番とやや外目の枠に入ってしまったが、スタートセンスは抜群で、陣営が「スピード特化型」と話しているように、差し馬が多くそろった今回は内の各馬を見ながら3~4番手の絶好位を確保できそうだ。

ジューンブレアにとって心強い「武豊騎手」の存在

 G1初挑戦のジューンブレアにとって、何より心強いのが鞍上の存在だろう。跨るのは同馬と過去5回コンビを組み、【2-2-0-1】の成績を残している武豊騎手である。

 これまで数々の大レースを制した競馬界のレジェンドは、56歳となった今年も6月の宝塚記念を優勝するなど一線級で活躍中。本人の視界には、3か月越しのG1連勝が入っているはずだ。

 2着に敗れた前走のCBC賞は「3コーナーの手前でごちゃついて、折り合いを欠くところがありました。きょうはあまりうまく乗れませんでした。もったいないレースになってしまいました」と武騎手が振り返ったように悔いの残る騎乗だった。武騎手なら前回の反省を生かして、100%の騎乗をしてくれるだろう。

武豊騎手の「2つの不安要素」

 ただし、そんなレジェンドにも幾つか不安がある。

 実は武騎手はスプリンターズSとそれほど相性がいいわけではない。
昨年のオオバンブルマイまで通算20回騎乗し、【2-3-3-12】という成績が残っている。これは並みの騎手なら十分すぎる成績だが、春秋の天皇賞を15勝、日本ダービーを6勝しているレジェンドにとっては平凡そのもの。

 しかも、2002年にビリーヴで勝利したのを最後に、目下14連敗中である。特に2016年以降は7回騎乗、うち6回が2桁着順と惨敗も目立つ。鞍上の経験がものをいう中長距離戦に比べると、短距離戦ではベテランの技がそれほどアドバンテージにはならないのも大きいだろう。

 また、もう一つの不安要素はジューンブレアが外国産馬であること。武騎手はこれまでマル外とのコンビでJRAのG1を7勝しているが、そのすべてが2002年以前。同年11月のエリザベス女王杯をファインモーションと制したのを最後に、目下29連敗を喫している(2018年に京都で開催されたJBCスプリントを含む)。

 奇しくも武騎手が最後にスプリンターズSを制したのも、マル外の馬でG1を制したのも同じ2002年。当時は小泉純一郎氏が首相を務めていた頃といえば、相当の時間が経過したことがわかるだろう。

3ヶ月前には“ジンクス打破”に成功

 武騎手には2つのマイナスデータが立ちはだかるが、思い出したいのが3か月前の宝塚記念。それまで武騎手には、5番人気以下の馬でJRAのG1を勝てないというジンクスがあった。
しかし、7番人気のメイショウタバルとのコンビでジンクス打破に成功。それ以来となるG1騎乗で、再び大仕事をやってのけてもおかしくない。

 今年の凱旋門賞は不参戦が濃厚で、その悔しさもあるだろう。秋のG1開幕戦でいきなり、豊マジックを披露し、年末まで続くG1戦線に弾みをつけられるか。注目の大一番は28日、15時40分に発走を迎える。

文/中川大河

【中川大河】
競馬歴30年以上の競馬ライター。競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。競馬情報サイト「GJ」にて、過去に400本ほどの記事を執筆。
編集部おすすめ