今回は、体格差によって避けがたい状況になってしまった2人のエピソードを紹介する。
肩に降り注ぐ水滴
土砂降りの日、佐藤由香さん(仮名・20代)は、混みあった電車に乗っていた。
「傘をもつ人でいっぱいでした。床がびしょびしょで、傘から滴る水があちこちにありました」
佐藤さんは吊り革につかまり、隣に立っていた男性のほうへ目をやった。すると数分後、自分の右肩が“妙に冷たいこと”に気づいたという。
「肩が濡れていて、上からぽたぽたと水が落ちていたんです」
男性の腕に掛けられた折り畳み傘から、絶え間なく水滴が落ち続けていた。佐藤さんとの身長差は20センチほど。ちょうど肩に当たる位置だったようだ。
注意できないもどかしさ
佐藤さんは視線で訴えたが、男性はスマートフォンを見続けていて気づかない。前の座席に座っている人も様子を見ていたが、状況は変わらなかった。
「せっかく濡れずに電車に乗れたのに、どんどん肩が濡れていくことに腹が立ちました」
男性は貧乏ゆすりをしながらスマートフォンを見ていたため、話しかけにくい雰囲気があったという。
「どう注意すれば角が立たないか考えているうちに、私が降りる駅に着いてしまいました」
男性は最後まで気づくことなく、佐藤さんはホームで濡れた肩を拭った。その日は、ずっとイヤな気分が続いたそうだ。
「折り畳み傘なら袋に入れるべきだと思いました。悪気がなかったとしても、あまりに無神経だと感じました」
吊り革からおろされた肘が脳天に直撃
「私は背が低いので、吊り革には手が届きません。代わりにその横にある手すりを握っていました」
すると、隣に高身長の男性が乗り込み、吊り革を握ったという。そして、男性が電車を降りる際に、肘を勢いよくおろしてきたのだ。
「頭のてっぺんに肘が直撃して、すごく痛かったのを覚えています」
男性は「イテっ」とつぶやき、中村さんを一瞬睨むと“舌打ち”をしてそのまま降りた。
「こちらのほうが痛かったのに、どうして睨まれなければならないのかと腹が立ちました」
その後、中村さんは別の場所に移動。再び誰かの肘が当たらないよう、扉付近に立った。ただし、痛みと苛立ちで頭がいっぱいになり、勉強には手がつかなかったそうだ。
「謝ってくれれば気持ちは落ち着いたのに、一言もなく去っていったことが許せませんでした」
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
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