元メガバンク行員の金融ライター、渡辺智です。筆者はメガバンクに11年間勤めた経験があり、FP1級の知識を活かして5000人以上のお金に関するコンサルを行ってきました。
富裕層からマス層まで多くの顧客の資産運用の相談に乗ってきましたが、銀行でやってはいけない商品の筆頭は“仕組預金”と強く思っています……。
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じつは銀行員には、厳しいノルマが課せられています。 今回は、筆者の実体験を交えながら「銀行がすすめる“仕組預金”をワケもわからず買ってはいけない理由」について解説をします。

そもそも仕組預金とは?

銀行員がすすめる“仕組預金”をワケもわからず買ってはいけない理由「最初からこんな商品だとわかっていたら…」
画像は「全国銀行協会」仕組預金である外貨償還特約付預金の例より
仕組預金とは、通常の定期預金にデリバティブ(金融派生商品)を組み込んだ金融商品です。

為替や金利、株価などの条件によって利息や元本の扱いが変わり、高金利が得られる可能性もありますが、条件を外れると利回り低下や元本割れのリスクがあります。途中解約が難しい点も特徴です。

仕組預金の代表格は、日本円の定期預金に「条件付き為替予約」というオプション取引をつけることによって、通常の定期預金よりも高い金利を設定するものです。

3か月ものの商品で金利は6%程度出るものが多いようです。現在の3カ月ものの定期預金の金利は 0.25%なので金利だけ見ると魅力的な商品かもしれません。 しかしこの仕組預金は絶対におすすめすることができない地雷商品なのです。

代表的な仕組預金の仕組みとしては、円で預け入れをして米ドルに転換する可能性があります。仕組預金は預け入れをするときに「予約相場」というものを決めます。

この予約相場よりも満期のときの為替相場が予約相場よりも円安の場合、元本と利息は全額円で戻ってきます。


一方、満期のときの為替相場が予約相場よりも円高だった場合は、 利息は円で戻ってきますが、元本は米ドルで戻ってくることになります。為替レートはどのレートが適用されるかというと予約相場のレートが適用されます。

例えば、予約相場のレートが1米ドル=100円で満期時の相場が1米ドル=90円の場合、予約相場のレートが適用されるので1米ドル 100円のレートで戻ってくることになります。

実勢の相場は90円なので、もし満期時に円に戻した場合、 大きく損をしてしまうことになります。

この仕組預金がおすすめできない最大の理由は、円安のときの利益は、利息のみに限定され、円高になったときのリスクは無限大にあることです。

仕組預金は顧客にとってメリットがほとんどない商品なので、購入することはやめた方が無難です。

仕組預金は銀行が儲かるから銀行員は販売したい…

私の実体験を話します。

銀行の窓口に座ると、定期預金の相談に来るお客様が多くいらっしゃいました。

そんなとき、私はよく「通常の定期預金より高い利率の商品があります」と声をかけました。それが仕組預金です。

お客様は低金利時代に少しでも利息を増やしたい気持ちを持っており、「高金利」という言葉にすぐに反応してくれます。正直、説明が浅くても契約につながるケースは多かったのです。

しかし、その「高金利」は条件付きであり、最終的な利回りは保証されません。


為替や金利が一定のレンジを外れれば、利息は想定より大きく下がります。中には「元本割れ」や円からドルに代わってしまうリスクを抱える商品もありました。

私はパンフレットを見せながら「こういう可能性もあります」と説明はしましたが、実際にはお客様の頭には「高金利」という言葉だけが残ってしまうことが多かったのです。

ノルマと営業の現実

銀行員がすすめる“仕組預金”をワケもわからず買ってはいけない理由「最初からこんな商品だとわかっていたら…」
部下を責めるビジネスマン
銀行には厳しい販売目標があります。毎月、投資商品をいくら販売したかを上司に報告し、数字が悪ければ叱責される。これは多くの支店で共通している光景です。

だからこそ、本当にその人に適した商品かどうかよりも「契約につながるか」が優先されてしまうのです。

特に仕組預金は金利が通常の定期預金よりも高く、一見するとリスクも低そうに見える商品です。しかも、銀行に入ってくる手数料は非常に高く、多くの銀行員が売りたがる商品なのです。

私は正直なところ、「この方にはリスクが大きすぎるのでは?」と疑問に思う場面もありました。しかし一度そう感じても、「上司からの圧力」「チーム全体の目標」という現実の前では、断る勇気を持つのは難しかったのです。

今思えば、お客様よりも銀行側に立ってしまっていました。

一度、忘れられないケースがありました。
高齢のお客様が仕組預金を契約され、数年後に急な入院費用で資金が必要になったのです。

通常の定期預金なら利息が減るだけで解約できますが、仕組預金はそうはいきません。

評価損が発生し、解約すると元本が大きく減ってしまう。私は窓口でその説明をしながら、お客様の顔が曇っていくのを見ました。銀行員として非常に心苦しい瞬間でした。

結局その方は損を覚悟で解約されましたが、「最初からこんな商品だと分かっていたら契約しなかった」と言われたのを今も忘れられません。

銀行にとってのおいしい商品

仕組預金は、お客様にとっては複雑で分かりにくい商品ですが、銀行にとっては大きな利益を生む仕組みになっています。

デリバティブを組み込むことで、リスクの一部を顧客に押し付けつつ、銀行は手数料や収益を得られる。つまり「銀行に有利に設計された商品」なのです。だからこそ、営業現場では常に重点商品として扱われていました。

しかも2025年現在、日本の金利は上昇局面にあります。金利が高くなるとその分、お客様に販売しやすくなるため、今後多くの銀行が仕組預金に力を入れることが想定されます。


しかし、仕組預金は表面上の金利が少し高いだけのリスクが極めて高い商品です。

もちろん、リスクを100%理解したうえで購入するならば構いませんが、こんなリスクの高い商品に投資をするくらいなら、他の投資をしたほうが良いと私は思います。

<文/渡辺智>

【渡辺智】
某メガバンクに11年勤務。リテール営業やプライベートバンカー業務を経験。その後、外資系保険会社で営業。現在は金融ライターとして独立。FP1級保有。難しい「お金の話」をわかりやすく説明することをモットーにしています。公式SNS(X)は、@watanabesatosi7
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