科学万能の時代にあっても、人はなお「見えないもの」に惹かれ続ける。その欲望を体現する存在が、角由紀子だ。
令和の“オカルト界の女王”と呼ばれる角由紀子。テレビやYouTubeでも知られ、(※1)著書『引き寄せの法則を全部やったら、効きすぎて人生バグりかけた話』(扶桑社刊)は発売1か月で5万部を突破するベストセラーに。オカルト研究者として超常現象からスピリチュアル、都市伝説まで幅広く探究し続ける彼女は、かつて伝説的サイト(※2)「TOCANA」の創刊編集長も務めた。見えない世界を追い続ける理由と、“引き寄せ”の極意に迫る。
信じないほど「引き寄せ」はできる!
――著書も売れ行き絶好調で、オカルト界隈では角さんのお名前を聞かないことがないほどの活躍ぶりですね。角:いや……実は私の人生のピークが小学校3年生で、それ以降はずっと挫折続きなんです。
――ずいぶんと早い絶頂ですね。
角:それまでは成績も悪くなく、誰からも好かれて人気者でした。でも、ニキビができ、太って周りからの扱いが180度変わったんです。発言権もどんどんなくなって。子供の世界のルッキズムは残酷ですから。中学から本格的に太り始め、勉強も振るわず、いよいよ“取り柄”がなくなって。

角:何もせず、寝そべって天井ばかり見てました。大学には何とか入れたのですが、朝起きられない体質が定着して授業に行きづらくなり、テストで悪い点を取るたびにモチベーションが下がり、悪循環に陥りました。一時期は毎日死ぬことしか考えられず、完全なうつ状態。結局、大学も中退してしまいました。
――そこから、現実を超越した世界観、“超現実”に興味を持つようになった?
角:いえ、最初はまったく信じていませんでしたね。大学をやめ、アルバイトとして採用されたスピリチュアル雑誌の編集部が発端です。そこではヒーリングストーンマッサージ、(※3)アーユルベーダや(※4)エサレン研究所が主宰する脳マッサージなどスピ系のサロンを一日5~6件取材する日々。それでも当初は半信半疑でした。
トレーニングをして1か月で、“幽体離脱”ができるように

角:別の出版社で精神世界の書籍編集になったのがきっかけです。一冊の本を作るうえで深い取材をするうちに、不思議な現象が本当にあるなら、私も体験したいという方向に変わっていったんです。突破口となったのが、中島修一さんという方が提唱する「(※5)タマエミチトレーニング」の書籍を担当したことです。そこで提唱されている(※6)幽体離脱の方法を真剣に実践したら、本当にできちゃったんですよ。
――それはどんな方法ですか?
角:「記憶の逆回し法」といって、その日やったことを逆順に思い出していくワークを1か月ほど練習していたら、ある日、ポンと体からもうひとつの体が抜け出てきたんです。その後、幽体離脱をもっと上手にできる方法はないかと思って出合ったのが(※7)ヘミシンクです。CDを聞いて、ナレーションに従うと幽体離脱ができるようになるというので、やってみると本当だったんですね。「(※8)引き寄せの法則」に興味を持つようになったのも、そこからですね。
「引き寄せの法則」のコツと落とし穴とは?

角:ヘミシンクにはたくさんの種類があるのですが、その中に自分の願った通りの現実を具現化するCDがあったんです。文字通り「具現化」というタイトルで。幽体離脱が本当にできたのだから、このCDも効果があるのではと試してみたら、怖いほど次々と願望が実現して……。
――そのCDは、どんな内容なんでしょうか?
角:悩みなど今抱えているストレスを、一度、箱の中に全部詰めることをイメージするんです。
――どのような感じで願望が実現したんでしょうか?
角:当時は前述の出版社を辞めて再就職先も決めておらず、失業保険が下りる間はプラプラしていたいけど、遊ぶお金は欲しいという状態でした。だから「在宅でできる割のいいバイトが欲しい……」と思っていたところ、知人から「そういえば角ちゃんって結構絵がうまかったよね」と依頼が来て。イラストレーターとして活動していたわけでもないのに、ですよ。次は別の知人が、書店のPOPを描ける人を探していると。それがまた、相場よりもすごくギャラが良くて。その後、入りたかった出版社・サイゾーにもスムーズに採用され、担当記事がバズり続けた結果「TOCANA」創設にも繋がるなど、ほとんどが実現したように思います。
――まさに狙った通りのことが起きたわけですね。
角:引き寄せの法則は、一度始まり出すと加速度的に効いてくる感じです。ただ、私が願ったのは、ぼんやりと「1億円欲しい」とかではないんですよ。就職するにも自分で履歴書を作って、自分で会社を探さなきゃいけないじゃないですか。ちゃんとそういうプロセスを含めて、現実的な願い事をしていました。
――自分がイメージできる範囲の願望を設定すると。
角:100万円をイメージしたら100万円が来ると提唱する人も多いですが、それは違うと思うんです。自分がイメージできるレベルの幸運がどんどん引き寄せられてきて、最終的に100万円として形を結ぶかもしれないという話です。叶えられない人は、やはりどこかで疑っている。だから、すごく身近なレベルからやってみてほしいですね。「目覚まし時計なしで明日8時に起きられますように」ぐらいから始めてもいい。
“真実”への近道は、必ず疑いから開かれる

角:引き寄せの法則の本には方法がたくさん提唱されています。でも「この食事法なら健康になる」と断言できないように、自分の体質や意識状態に合った方法で行わないと逆効果になると思いますね。そういえば、本の編集過程でも“変な現象”が起きたんですよ。
――えっ! どんなことが?
角:校正用紙が届かないので、担当編集に聞くと「すでに送った」と。追跡番号で調べても「配達済み」となっているのですが、夫も不在だったので絶対にそんなはずないんです。それで、業者に受け取りサインを見せてもらうと、明らかに私の筆跡ではない……いまだに理解不能。配達員はいつも来ている人で、「確かに届けた」と言うんです。
――怖いですね……そんな超現実の世界を探索するうえでのモットーはありますか?
角:信用しすぎないことですね。私自身は心霊や精神世界の本を読んで、仮にものすごく感動しても、丸ごと信用することは絶対ありません。常に「これは本当かな?」と疑うことを絶やさないようにしています。仏典でも聖書でも、どんな大物が提唱することであっても同じです。たとえばスピリチュアル界では死後の世界が当然のようにあるという前提で語られますが、それは自分が死なないと検証できないでしょう。幽霊を別々の部屋に5体ほど集め、何日間で成仏するかインタビューし、全員が「49日です」と答えたらようやく信用できる。こうした姿勢は、冒頭で言った小3である日突然世界が変わってしまった経験にも起因していると思います。
人は、見えない世界からも、影響を受けていると思う
――一連の活動は、ご自身にとってどんな意味をもたらしたのでしょうか。角:「見えない世界の存在も、自分に影響を与えている」という気づきを得たことですね。人は山奥で仙人のように暮らさない限りは、周囲との関係性なくして生きられないですよね。しかし実は、“超常的な何か”も人を支えてくれているのではと思うようになりました。自分の核となる意識は曖昧なもので、周囲と多重的・複合的に影響を与え合いながら成り立っていると考えていますが、目に見えない存在も、良くも悪くもそこに関与している。
見えている世界だけが真実ではないー。この信念を証明するために、角は人智を超えた世界の探索を続ける。
【Yukiko Sumi】
上智大学中退後、スピリチュアル系媒体の書籍編集などを経て、サイゾーにて不思議系ウェブサイト「TOCANA」を開設。8年間編集長を務める。YouTubeチャンネル「角由紀子のヤバイ帝国」は登録者数31万人(’25年9月現在)
(※1)著書
角氏が体当たりで試した引き寄せの法則の効果と落とし穴を赤裸々に綴っている。「従来の引き寄せ本では消化できなかった部分が明示されている」という反響が多く寄せられている

UFO、UMA、心霊、予言など世界中のオカルトを「ホントカナ?」とさまざまな角度から取り上げたニュースサイト。’13年に創設。オカルト界隈ではよく知られた媒体
(※3)アーユルベーダ
ヨガに源流を持つインドの民間医療。漢方医療と同様に体全体のバランスを調整することで心身の不調を改善する
(※4)エサレン研究所
カルフォルニアに本部があり、マッサージや瞑想を通じて意識改革を行う精神修練のメソッドを広めている。ヒッピーカルチャーの文化拠点の一つ
(※5)タマエミチトレーニング
アーティストの中島修一氏が開発した能力開発メソッド。意識を自由にコントロールし、自分の望む未来を手に入れるというトレーニング
(※6)幽体離脱
体から意識が抜け出す状態、またはその行為。脳に幽体離脱を知覚させる角回という部位が見つかり、科学的に全否定はされていない
(※7)ヘミシンク
録音技師のロバート・モンロー氏が発明した技術で、音の位相のずれを利用して右脳と左脳を同時に活性化させる。これにより無意識を意識下でコントロール可能になるという
(※8)引き寄せの法則
自己啓発の父、ナポレオン・ヒル氏の「思考は現実化する」という思想を源流とし、自分の考えたことを綿密に計画し行動すれば必ず実現するというビジネスマインドを説くもの。しかし昨今では、無意識を通じて運命を変えるというスピリチュアルメソッドとしても語られる
取材・文/川口友万 構成/安宿緑 撮影/杉原陽平
―[インタビュー連載『エッジな人々』]―