1980~90年代にかけて『るり色プリンセス』(漫画)、『時の輝き』『アナトゥール星伝』(小説)などのベストセラー作品を数多く生み出した「ティーンズレーベルの教祖」、折原みとさん(61)。30代で神奈川県逗子市に単身移住し、’25年には「mito ǀ60代バツなしおひとりさま」(@60life_mito)」の名称でSNSアカウントを開設。
弓道や音声配信など新たなことにチャレンジする姿を世に発信している。結婚への「圧」が今よりも強かった時代をどう生きてきたのか、悩める「おひとりさま女子」へのメッセージを聞いた。

「自分で自分に限界を設けるのはやめようと思った」

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ーーウェブメディアへの寄稿やご自身のインスタグラムを通じて、「60代バツなしおひとりさま」のライフスタイルを積極的に発信しています。同じく出版業界で日々の仕事に追い立てられ、プライベートが後回しになりがちな「バツなしおひとりさま」の一人として、大変に「刺さる」内容でした。そもそもなぜ、このような形で発信を始めようと思われたのでしょうか?

折原みと(以下、折原):私、何年かに一回新しいことが始めたくなる人なんです。今年(’25年)はちょうど、その波が来ていたんですね。

今までは自分の作品を通じてメッセージを伝えるスタイルでしたが、今年はデビュー40周年の節目だったこともあり、「60代バツなしおひとりさま」という生き方を軸にした発信の仕方ができるんじゃないかと、ふと思ったんです。

自分と同じように「おひとりさま」で、かつ将来を不安に感じているような女性に向け、「自分は60代のおひとりさまだけど、すごく楽しく生きているよ」というメッセージを発信することで、そういう方たちに、楽な気持ちになってほしいという意図がありました。

「結婚してあげてもいいわよ」60代バツなし漫画家・折原みとが語る、おひとりさまの“上から目線”戦略
折原さんのインスタグラム(@60life_mito)。「夢に年齢制限はない」「自由に恋するおひとりさま」など、おひとりさま女子を肯定するメッセージが綴られる
ーーいわゆる「シニアYouTuber」のような方は時々ネットニュースになっていますが、先生の発信からは、そもそも年齢という縛りそのものを越えていこうとする意思を感じます。

折原:一種の開き直りですね。自分が若い頃は、「60代=おばあちゃん」というイメージを抱いていました。ただ、いざ還暦を迎えてみると、それまでの生活と何が変わったというわけでもなかった。だとしたら「60代だからこれができない」と決めつけたり、自分で自分に限界を設けるのはやめようと思ったんです。


「早く結婚すれば?」は、数えきれないぐらい言われた

「結婚してあげてもいいわよ」60代バツなし漫画家・折原みとが語る、おひとりさまの“上から目線”戦略
愛犬・ハルちゃんと折原さん(折原さん提供)
ーー20代前半に少女漫画家としてデビューされ、その数年後から少女小説も書かれています。相当忙しそうですが、ご自身としては両方やりたいお気持ちがあったのですか?

折原:そうですね。もともと映画監督になりたくて東京に出てきました。エキストラのバイトをしていたんですが、それだけじゃ食べて行けなくて、雑誌でイラストを描く仕事をしていたんです。1カットあたり数千円でしたが、数をこなせば食べていく分には困りませんでした。
ある時、イラストを担当した小説の原作を読んでいたら、自分にも書けそうな気がしたんです。編集さんに相談したところ、「試しに書いてみては」と言われたことをきっかけに、小説執筆も手がけるようになりました。

漫画の仕事だと、締切間際にアシスタントさんを呼んで最後の仕上げをみんなで一緒にやったりしますが、小説の場合は自分一人で作品に没頭できる。どちらも違う楽しさがあって、片方に絞ることは考えられませんでしたね。

ーー20代の時は、結婚へのご興味はお持ちでしたか?

折原:興味はありましたが、20代なので本気度は低かったですね。それよりは仕事が本当に忙しくてそれどころではない、という感じでした。

ーー少女漫画の仕事は異性と出会う機会が少なそうなイメージがありますが、実際はどうですか。

折原:同世代の同業者では結婚していない方も多く、していても担当編集、というケースも多かったです。
忙しすぎて出会いがないし、仕事のことを理解してもらえるからでしょうね。

自分の場合は30代に入り、やっと「そろそろ結婚せねば」という考えが出てきて、知人にちょくちょく異性を紹介してもらったりしていました。でも、ピンと来るような相手はなかなか見つかりませんでした。

ーー先生が20~30代の頃(1980~90年代)は、世代的にまだ結婚の「圧」が強かったのではと想像します。

折原:「早く結婚すれば?」と軽口を叩かれることは、数えきれないくらいたくさんありました。今のご時世、こんな発言を職場でしたらきっとアウトだと思います。ただ当時はそういった言葉をプレッシャーに感じていたというよりは、「うざいな」と思って聞き流していた感じでした(笑)。

おひとりさまだから実践できる「豊かな暮らし」

ーー未婚女性が不安に感じやすい二大要素といえば、「収入」と「老後」。特に女性の場合、男性より収入が低くなる傾向が高く、「将来のために結婚しておく」という思考回路につながりがちだと感じます。

折原:最終的にはその人が決めることですが、「老後が心配だから結婚しておこう」という考え方はどうなのかな、と個人的に思いますね。もし結婚しても離婚する確率はゼロではありませんし、年を重ねれば、死別する可能性だって出てきますから。

それよりは、配偶者にもしものことがあった時にも、一人で生きていけるような準備を普段からしておくことの方が大切なんじゃないかな、と感じています。

ーー例えばある程度年齢を重ねていたり、非正規雇用だったりすると、今の生活環境から抜け出しにくく、急に収入を上げづらいパターンもあるように思います。
そういう方々はどうすればいいと思われますか。


折原:例え収入が少なくても、おひとりさまだからこそ実践できる「豊かな暮らし」を目指してみるという方向性もあるのではないでしょうか。例えばSNSを見ていると、古いおうちをDIYリノベーションする様子を投稿している女性がいたりします。業者に頼めば何十万円もかかる改修を、自分でやっていかに安く抑えるか……という工夫の仕方を考えるのは、きっと楽しいと思います。

おひとりさま女子よ、「上から目線」を持とう

ーー昨今は夫婦別姓や事実婚についての報道が増え、世の中全体として「多様な結婚のあり方を認めよう」という空気が出てきています。ただ、有名人の結婚がネットニュースになっていたり、SNSで他人の結婚・出産報告が上がってきたりするのを日々見ていると、「結婚して子どもを産むことが一番の幸せ」という社会の価値観は、根本的に変わっていないようにも思えます。

折原:SNSでも、「結婚してない30~40代って何なの?」といった20代の子の書き込みを見かけることがあります。どんなに時代が変わったように見えても、「結婚や出産をしない女性は半人前」という「呪い」のような固定観念を塗り替えることは難しいでしょうね。

「おひとりさま」であることに開き直れていない女性には、いっそのこと、「上から目線」になることをオススメしたいです。「おひとりさまで十分幸せだけど、一緒にいることが楽しいと思える相手がいたら結婚してあげてもいいわよ」というぐらいに(笑)。そのためにも、自力で生きていけるぐらいの生活力やメンタル、知識などを備えておくことが大切だと思います。

ーー「上から目線」、すごくいい言葉ですね。
30~40代ぐらいだと、60代はまだまだ先のことのように感じがちです。先生から下の世代にお伝えしたいことはありますか。


折原:一番言いたいのは、60代になっても今までとあまり変わらないよということですね。結局、老いって見た目より気持ちの問題から来ていることが大きいような気がします。「自分はおばあちゃんだ」と思っていると、本当にそうなってしまう。まずは健康面を含め、日々のメンテナンスをしっかりして老け込まないようにすることが大切ですよね。

70~80代でも生き生きとしている素敵な女性はたくさんいるわけですから「何歳だからダメ」と決めつけず、いくつになっても、自分が生き生きしていられる姿を目指すといいのではないのかと思います。

「多様性の時代」と口で言うのはたやすいが、本当の意味でエイジズム(年齢を理由にした偏見)や旧来の結婚観から自由になるのは、そう簡単なことではない。「おひとりさま」女子が今すぐ折原さんのような生き方をするのは難しいかもしれないが、「上から目線」を持って世の中を眺めてみるだけでも、心持ちは大きく変わってくるのではないのだろうか。

【松岡瑛理】
一橋大学大学院社会学研究科修了後、『サンデー毎日』『週刊朝日』などの記者を経て、24年6月より『SPA!』編集部で編集・ライター。 Xアカウント: @osomatu_san
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