元放送作家・鈴木おさむ氏はSMAPの独立騒動を思い起こさせるこの動きは「芸能界に大きな変化をもたらす可能性がある」と指摘する(以下、鈴木氏による寄稿)。
「移籍時の妨害はダメ」となるのか
芸能界で大きな動きが出そうだ。公正取引委員会が芸能人と事務所の契約について指針を発表した。正直、このニュースを見た時、「え? 今!?」とツッコミを入れてしまった。だが、ようやく公式に「移籍時の妨害はダメ!」となりそうだ。今回のニュースで、SMAPの一件を思い出す人も多いだろう。事務所を出たら、テレビからパタッと消える。一般の方でも「これって見えない力が働いてるよね……」と生々しく感じただろう。だけど、彼らがくじけずに描いた新しい地図のおかげで、変わった部分はたくさんあるし、その後に大手事務所を辞めてもテレビに出続けられる人が増えた気がする。最近、おもしろいなと思うのは、香取慎吾君とかが「テレビに出られなかった期間」のことを明るくおもしろくテレビで話す瞬間があること。これって本来はタブーだったはずなのに。
今回の指針が公表され、芸能事務所からの独立、移籍はもっと増えてくるだろう。
タレントが売れるまでにかかった労力
そこで、事務所側は自社の俳優がドラマなどで主演を張った時、新人を売り込みその作品に出演させる“バーター”という手法をとる。そうして露出の機会を増やして売れていく人が多いわけだ。事務所によっては「それはやりすぎだろ」ってくらい何人も押し込んでくる場合もあるし、「絶対売れないだろ」って人を押し込む人もいる。だからバーターに嫌悪感を覚える人も存在する。が、僕はチャンスを与える仕組みとしては大切なものであると思う。このバーター含め、事務所はかなりの労力をかけているわけだが、売れると勘違いして「自分の力で売れた」と思い込んでしまう人も少なくない。新しく出た「指針」はタレントを守ってくれるとは思うが、事務所側からしたら非常に残酷なものになる可能性もある。なので、ぜひ、この指針は事務所側のことも考えたものにしてほしいと思う。辞めたあとの妨害行為などは厳しく取り締まるとして、そのタレントが売れるまでにかかった労力を数値化し本人にちゃんとそれを理解させる。
事務所側からしても「ここまで頑張ってくれたから、もう大丈夫だよ」という場合はいいが、やはり「今、辞めるなよ」と思う人もいるわけで、そんな時は数値を共有し、金銭面でもオープンに決着をつけ、互いに気持ちよく離れるべきだと思う。今回の指針は、その第一歩になると信じたい。

【鈴木おさむ】
すずきおさむ●スタートアップファクトリー代表 1972年、千葉県生まれ。19歳で放送作家となり、その後32年間、さまざまなコンテンツを生み出す。現在はスタートアップ企業の若者たちの応援を始める。コンサル、講演なども行っている