ジャーナリストの岩田明子氏はその背景に「地方政治への関心低下とモラル崩壊がある」とみる(以下、岩田氏の寄稿)。
地方政治を停滞させる市長はなぜ増えたか?
このまま悪しき慣例となりはしないか? そう危惧せざるを得ない。学歴詐称疑惑から不信任を突きつけられて議会を解散した静岡県伊東市の田久保真紀市長や、男性職員とのラブホ密会を報じられながらも不倫を否定し続ける群馬県前橋市の小川晶市長ら、“居座り首長”たちのことだ。記憶に新しいところでは、不倫騒動を起こした永野耕平・前岸和田市長の例もある。不信任案可決後の議会解散から2度目の不信任で市長の座を追われ、9月には収賄容疑などで逮捕された。セクハラ問題で4度も不信任案が決議された沖縄県南城市の古謝景春市長と告発者を一方的に処分したことが公益通報者保護法違反に当たると非難されている齋藤元彦・兵庫県知事は同類か。ともに第三者委員会で〝罪〟が認められても居座りを続ける。
言うまでもなく、首長には模範的な言動が求められる。李下に冠を正さずというように、疑惑を持たれるふるまいからして禁物だ。税金を原資とする予算の執行や人事まで含めた巨大な権限を有するからにほかならない。
政治空白が地方自治を停滞させる
実際、伊東市では市政の混乱から補正予算案の提出さえできなくなり、まったく審議されることもなく、市長による専決処分というかたちで2億円超もの予算が執行された。さらに、前橋市ではラブホ密会相手の職員だけが降格処分されたとの報道が火に油を注いだ。後に、当該職員自ら希望しての降任だったと明かされたが、これもまた市長の強権を背景にした炎上騒ぎだ。もちろん、居座ること自体に違法性はない。不信任を突きつけられても議会を解散して市民に信を問う権利が首長にはある。だが、そのための負担を強いられているのは、ほかならぬ市民だ。非難の声が役所に殺到して行政サービスは悪化し、議会は紛糾して新たな施策は遅々として進まなくなる。選挙で多くの時間とカネが費やされ、政治空白が地方自治を停滞させる。
一体なぜ、こうも居座りに躊躇がなくなったのか? 思うに、地方政治に対する関心の低さやモラルの低下が一因ではないか。以前から指摘されているように、地方議員を志す人材は減り続けている。一方で、その隙間を縫うように、過激な言動で支持を集める政治家が増えている。
それだけに、居座り首長は今後も増え続けるように思えて仕方がない。2度の選挙で事実上の不信任を突きつけられながら50日間も首相の座に居座った石破政権を見ても、その不安が強まるのだ。

【岩田明子】
いわたあきこ●ジャーナリスト 1996年にNHKに入局し、’00年に報道局政治部へ。20年にわたって安倍晋三元首相を取材し、「安倍氏を最も知る記者」として知られることに。