ニューヨーク在住23年、人気ブランド「Supreme」でテクニカルデザイナーを務めるYouTuberのあっちさん。米国の経済ニュースや現地の様子を伝えるYouTubeチャンネル「NEW YORK STYLE /ニューヨークのリアルな声」は、開設わずか1年余でチャンネル登録者数10万人を突破。
9月には書籍『ニューヨークとファッションの世界で学んだ 「ありのままを好きになる」自信の磨き方』を上梓した。
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 今回は、一時帰国中のあっちさんに緊急インタビューを敢行。物価高が続く米国生活の現状とそこで生き抜く人々のリアルを語ってもらった。

「おにぎりが1000円」ニューヨーク物価のリアル


「おにぎりが1000円」物価高のNYで暮らす人たちのリアル。チップは大盤振る舞い、残高を気にせずクレカ払いでも「なんとかなる」
ニューヨーク・ブルックリンにて。提供写真
 世界でもっとも物価の高い都市ニューヨーク。日本でも10月に入り、値上げラッシュを迎えているが、ニューヨークで暮らす人々は日々の生活をどう送っているのだろうか。

「コンビニのおにぎりは約2.95ドル、日本円でおよそ440円。そしてちょっと良いおにぎりなら7ドル(1,000円超)はします。お弁当もかつては10ドル前後だったのが、今は14~15ドル(2,100~2,250円)が相場ですね。

 実はこの取材の前にゴーヤチャンプルー定食を食べてきたんですけど、お支払いは1200円。これをニューヨークで食べようとすれば28ドル(約4,200円)は下らないと思います。一緒にいた米国人のパートナーは“Super cheap!(超安い!)”と驚いていました」

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提供写真
 値上がりしているのは食品だけではない。1年前は23ドルだったキッチンペーパー(12ロール)が、今では30ドルに値上がり。また、昨年あっちさんが買ったカメラ機材の価格も1年で3割以上上昇していたとか。
円安や関税の影響もあるが、日常的に「値上がり」を突きつけられるのがニューヨークの現実だ。

レストランの会食は持ち寄りのホームパーティーに。NYの節約術

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あっち
 こうした物価高は人々の行動様式を大きく変えた。

「かつてTikTokでは“高級バッグを買っちゃった~!”と消費を煽るインフルエンサーの投稿が人気でしたが、今は“どれだけ節約できたか”を発信するのがトレンドです。最近は大量解雇された、車上生活を余儀なくされた……という生活の苦境を訴える投稿も並んでいますね」
 
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 あっちさん自身も数年は割高なディナーは控え、友人との集まりもレストランではなく持ち寄りのホームパーティーが増えたとか。

「外食もチャイナタウンやメキシコ料理店など、比較的リーズナブルな店を選びますね。普段は自炊をしています。私はサーモンを季節の野菜と一緒にオーブンでグリルをしたものや、パートナーはチキンファヒータ(鶏肉をトルティーヤで包む料理)をよく作ってくれます」

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 支出の見直しも欠かせない。これまで月額150ドル(約2万2000円)の会費を支払っていたジムを解約し、自転車通勤にシフトした。

「毎日、ウエスト・ソーホーにあるオフィスまで45分間かけて通っています。混雑した地下鉄に乗らなくなったせいか、最近はあまり風邪を引かなくなった気もします。アメリカの医療費は高額なので、これも運動を兼ねた節約なのかしれませんね」

NYで「家賃ゼロ」の衝撃のカラクリ

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提供写真
 あっちさんは現在、パートナーとふたり暮らし。1か月の生活費は、「旅行など特別な出費がない月であれば、平均して2000ドルほど(日本円にして約30万円)」と明かす。
「とにかくお金がかかる」という印象のニューヨークにしては比較的、リーズナブルな気がしなくもない。

「私が倹約家なことや子どもがいないことに加えて、家賃がかかっていないのも大きい気がします」

 まさかの「家賃ゼロ」の理由は次のとおり。

「タウンハウス(※)を丸ごと購入し、私たちは1階部分に住んで、他の部屋を貸し出しているんです。ニューヨークでは家賃はもっとも高額な支出ですが、これにより家賃が無料、あるいは黒字になっているので、生活費が大きく抑えられているのだと思います」

 日本で言うところの賃貸併用住宅の「タウンハウス投資」は、家賃ゼロで暮らしながら収益を得る最強のスキームかもしれない。

※タウンハウス……ニューヨークでよく見るレンガ造りの縦長の住居で、ここに数世帯が住んでいることも珍しくない。

「おにぎりが1000円」物価高のNYで暮らす人たちのリアル。チップは大盤振る舞い、残高を気にせずクレカ払いでも「なんとかなる」
あっち
 節約を意識する日々の中でも、重視するのは「安さ」だけではない。

「数年前に『安いものを選ぶのは、“自分はそれだけの価値しかない”と言っているようなこと』という言葉に出合い、一理あるなと思ったんです。もちろん日々の節約も必要ですが、『いつかこれを食べよう』『いつかこういう暮らしをしよう』とただ待っているだけでは、『いつか』は永遠に来ない。まだ見ぬ『いつか』ではなく、行動するのは『今の自分』なのだと40代後半に差し掛かって思うようになりました」

チップは大盤振る舞い、残高を気にせずクレカ払い……NY流お金の使い方


「おにぎりが1000円」物価高のNYで暮らす人たちのリアル。チップは大盤振る舞い、残高を気にせずクレカ払いでも「なんとかなる」
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 インフレが加速するニューヨークでは、日々の食事や住まいに困窮する人も少なくない一方で、低所得者を支援する制度が浸透しているという。

「家賃補助のセクション8、フードスタンプ、低所得者向け医療のメディケイドなど、福祉制度は手厚い。また民間ボランティアも盛んで街角には、余った食料を入れて誰でも持ち帰れる“コミュニティ冷蔵庫”もありますね。

 日本では福祉の恩恵を受けることを “恥ずかしい”と考える人が多いそうですが、こちらでは“当然の権利”と受け止められています。
むしろ中流層のほうが支援から漏れて苦しい立場に追い込まれている印象です」

 あっちさんが折に触れて感じるのが、アメリカで暮らす人々の「お金に対する捉え方」の違いだという。

「アメリカ人と一口で言ってもさまざまですが、私が見る限り、特にニューヨークの人は貯蓄を日本人ほど重視せずに、お金を使う人が多い印象です。“宵越しの金は持たない”江戸っ子気質というか(笑)」
 
 支出を管理する家計簿アプリを使う人もあまり多くないとか。

「他者に対しても気前がいいですね。チップ文化が根付いているのでクリスマス時期には美容師やドアマン、マンションの管理人、配管の修理工など身近な人にそれぞれ100ドル以上ものチップを渡したりします。

 私のパートナーも決して余裕があるわけではないのに、道で凍えるホームレスに手袋や防寒ブランケットなどを買って配り歩いたりしていました。チップは多少、義務感から渡している感もありますが、それでも『感謝の想いを表現したい』という心の表れだと思います。そして色々なステージにいる人と混在しているので、『自分も色々な人に助けられて生きてきたので、できる時は自分も助ける側に回る』というギブの精神を持った人も溢れているのがニューヨークかな、と思います」

 物価高と景気後退に直面するニューヨーク。だが、そこで暮らす人々を支えるのは節約や悲観論ではなく「なんとかなる」の精神なのかもしれない。

あっち
NYでファッションデザイナー、テクニカルデザイナーとしてアメリカの企業に勤務22年、ブルックリン在住。(Catherine Malandrino, Club Monaco, Donna Karan, DVF, 自社ブランドIDeeeN New Yorkを経て現在 Supremeに勤務)。YouTubeではニューヨークの日常、ニュース、経済関連など現地民ならではの情報を発信。
アメリカ経済の問題がわかりやすく解説されていると好評でチャンネル登録者数10万人(2025年10月現在)。初の著書『ニューヨークとファッションの世界で学んだ 「ありのままを好きになる」自信の磨き方』(KADOKAWA)が好評発売中 

<取材・文/アケミン、撮影(インタビュー)/藤井厚年>

【アケミン】
週刊SPA!をはじめエンタメからビジネスまで執筆。Twitter :@AkeMin_desu
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