なぜ金魚にハマったのか
――游子さんが金魚に目覚めたきっかけは何だったのでしょうか。游子:私は画家の父と書道家の母の間に生まれました。けれども私は芸術系に行くわけでもなく。正直、母が書道家なのに私は悪筆なんです(笑)。一方で、文学は昔からとても好きで、きれいなものに対する憧憬はありました。昔の文学作品にはさまざまな魚が登場しますが、なかでも金魚には個性があり、多様な姿形や色味がある点が魅力的に感じました。両親は美術品としての金魚に興味があるわけではないものの、私が金魚に熱中していくのを理解してくれました。
高校生くらいのとき、愛知県弥富市で毎年おこなわれている金魚日本一大会という品評会に行きました。父から借りたカメラを持って、無心にさまざまな金魚をぱしゃぱしゃ撮っていました。
――目立ったでしょうね。
游子:はい、目を引いてしまったようですね(笑)。
“金魚産業”が置かれた厳しい状況
――金魚を製造する人たちが置かれた状況は、どのようなものなのでしょうか。游子:農業などと状況は似ていると思いますが、金魚を作るには広大な土地が必要です。金魚は生き物であると同時に商品でもあり、金魚は形を売るものですので、“選別”をします。尾が曲がっていたり目がないものなど、美の基準に満たないものを出荷しないようにあらかじめ弾かなければなりません。単純に、池の清掃も重労働です。それでも今の時代は、必ずしも利益が大きいわけではありません。
作り手が高齢化していき、その産業を自分の子どもに継がせるかというと、難しいですよね。昔から製造を担ってきた人たちが廃業していく姿を私もみてきました。
――歴史のある産業ですが、厳しいのですね。
游子:江戸時代からある産業であり、室生犀星などの作品にも登場する金魚ですが、現在の状況は厳しいと言わざるを得ません。かつて金魚の三大産地といえば、奈良県大和郡山市、愛知県弥富市、東京都江戸川区でしたが、いずれも後継者不足やコロナ禍でのイベント中止にみまわれています。
決して「キャラ作り」ではない
游子:卸売業者で働かせていただいいたときは、非常に多くのことを勉強させていただきました。何十年もその業界にいる人たちが毎日力仕事をしている姿は、本当に尊敬します。一方で、フィジカル面で劣る女性の私にできる実務には限界があり、より根本の“金魚離れ”を解消するためにできることを考えました。
まだ“娘”を名乗って許されるうちに、自分のパーソナリティやファッションを活用して存在を知ってもらえればと思って、卸売業を半年で退職して上京した経緯があります。ちなみに、よく「タレントとして有名になりたいためのキャラ作り」だと勘違いされるのですが、それはないんですよね。大学の卒業論文も「金魚が出てくる文学作品」をテーマに執筆したほど金魚に心酔していて、指導教授にも知られていました。
――今後、人々にとって金魚がどのような存在になってほしいですか。
游子:何万円もするような金魚を惜しみなく買えるマニアではなくても、300~3000円くらいの「少し贅沢な金魚」を楽しんでくれる人が増えると嬉しいですよね。それから、可能なら「犬を飼おう」と思ったときに多くの人が犬種でイメージするように、金魚も金魚というくくりで「飼おう」ではなくて、「リュウキンを飼おう」「トサキンを飼おう」というように、種類がポピュラーになるといいですよね。
「触ったり撫でたりすること」ができないからこそ…
――金魚の楽しみ方について教えてください。游子:金魚は触ったり撫でたりすることのできないペットです。
人間が作った生き物ゆえ「儚い存在」
游子:金魚は人間が作った生き物であり、もとを辿れば中国のフナが突然変異をしたものです。それが品種改良されて日本にわたり、武士の副業として始められたものだと言われています。美しさを試行錯誤しながら、現在の姿形になっているわけです。じっくり見ると尾の長さも色艶も身体の形も何もかもが違う生き物であり、一匹一匹に個性があります。
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これまで金魚が儚いと考えたことはなかった。だが游子さんの話に耳を傾ければ、人間の存在にどれほど依拠した生き物なのか理解できる。徹底的に美しく、優雅に泳ぐことでこそ愛される。人々の視線の先にいつまでも金魚がいますように。そう願う金魚娘の奮闘は泥臭く、愛情に満ちている。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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