ミャンマーと日本のハーフだという彼女が春先から没頭するのは、筋トレ。その肉体美から、堅実に努力を積み上げていった結果がわかる。一方で、四年制大学を卒業して経験した就職活動の日数はたった1日という世間ずれした側面も。彼女はなぜ新卒カードを捨てて、インフルエンサーという生き方を選んだのか。
卒業間際に就活セミナーから逃亡…
――大学では美術を学んでいたと伺いました。Chimu:そうですね。小学校入学前から絵を描くのが好きで、そのまま美術を勉強するために大学へ入学しました。大学時代は、絵画はもちろん、さまざまな創作を行いました。美術はあいかわらず好きなのですが、日本で美術で食べていくのはとても難しいですよね。
――大学4年生で経験した就職活動の日数が“1日”というのは驚きました(笑)。
Chimu:大学時代はアルバイトで夜職をやっていました。売上のために一生懸命仕事に取り組む姿勢は全然なかったですね。
大学生の終わり頃、これから就職活動をする子たちを集めておこなわれるセミナーに参加しました。みんなでディスカッションをやる様子を企業の人事部がみていて、「逆オファーがくるかも?」みたいなのが売りのイベントです。そこで提示されている給与などの条件をみて、「やりたくない仕事をして、これだけしかもらえないのは私には耐えられない」と判断して、その場から逃亡したんです(笑)。就活はそれきりですね。
「今が一番若い」からこそ
――正確には“1日”ですらなかったわけですね! 日本には「若いうちは安い賃金に耐えて……」という我慢信仰が根強いですよね。Chimu:そうですね。よく「インフルエンサーなどの生き方は若いうちしか通用しない」「先を見通せていない」というような声があるのですが、年齢を重ねてからの生き方は、そのときの自分が考えればいいことだと思っています。「今が一番若い」という言葉がありますが、本当にその通りだと思っていて。何歳の私でもその時その時で上手いことやってくれるという自信と信頼があるので、未来の自分に全て委ねて今を楽しく生きさせてもらっています。
男性の目を惹こうという意図ではなく…
Chimu:いまの自分に対する投資の意味で筋トレはやっています。肉体ももちろん変わりますが、食習慣や生活習慣が変わっていくことによって、自分の変化を実感できるのが楽しいですね。
――Chimuさんが“美”にこだわりを持ったのは、いつ頃でしょうか。
Chimu:高校時代にコスプレにハマってからだと思います。SNSには綺麗なレイヤーさんが沢山いて、憧れや近付きたいという思いから垢抜けの努力をして、気付いたら自分の周囲が好みの顔で埋め尽くされていましたね。推しキャラのコスプレをして集まると、みんな褒め合い合戦になるんです。やはり自分が「綺麗だな」と思う人から褒められたら嬉しいし、自己肯定感も高くなりますね。好みの顔の人と居るだけで幸せになれるという考えが育っていったのは、その頃からだと思います。そこから思考が極端に偏って、「可愛い子としか友だちにならない」という極論に辿り着きましたね。
なぜ「可愛い子としか友だちにならない」のか
――「可愛い子としか友だちにならない」ことで、どんなメリットがありますか。Chimu:相手が何をしても許せることですね。たとえばですが、友人が3時間なんの連絡もなしに待ち合わせに遅れたとしても、可愛い顔で謝られたら全部許せちゃいます。可愛い子は生きてるだけで偉いですから。
――鉄の意志ですね。友人関係で煩わしい経験をしたことはありますか。
Chimu:基本的に、努力ができない子ほど僻みがあるなとは感じます。中学生時代から今も仲良くしている親友がいるのですが、その親友に「Chimuちゃんと付き合うのをやめなよ」と言うためにわざわざ呼び出してきたクラスメイトがいました。そのクラスメイトは私と同じ部活に所属していて、競技成績も悪く、私のことが目の上のたんこぶだったのでしょう。そういう足を引きずられる経験はしましたね。もっとも、親友は「私が誰と付き合うかは私が決める」と毅然と言い放ったようで、その話を聞いて「この子は大切にしたい」と私も思いました。
女性ファンが増えてくれたほうが嬉しいワケ
――Chimuさんのお話を聞いていると、“美”に対するこだわりがある一方で、男性ウケは狙っていないですよね。Chimu:はい、狙ってないです。フォロワーさんも、女性のファンが増えてくれたほうが嬉しいです。高校から大学にかけて、舞台俳優さんに対して“推し活”をしていました。それこそ1週間ずっと同じ舞台の昼公演と夜公演を観て10万円以上を費やしたり、イベントがあれば場所問わず夜行バスで全国飛び回ったり。
自分が一途でアクティブなオタクだったということもありますが、私の周囲のオタク友達もみんな推しへの愛が強くて。女性のほうが“推し”に対して一途で情熱的でいられるのかな、と思うんです。だから個人的に女性のファンの方はとても嬉しいですね。また、日頃から街中で恐怖や不快感を与えられる機会が多く、男性に対してやや辟易しているのもあるかもしれません。
――将来こうなりたい、という像があれば教えてください。
Chimu:インフルエンサーとして、理想の身体になれるように研鑽を続け、自分の発信に説得力を持たせられればと考えています。将来的にトレーナーとして多くの人の肉体改造に寄与することができるかもしれないし、まったく別の人生が拓けるかもしれないし、それは未知数ですが、どんな場合でも、常に自分が納得する選択ができればと思っています。
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Chimuさんには「なりたい自分」を引き寄せる引力がある。それは主軸を自分にした“ブレなさ”からくるのだろう。人生はいつも迷路で、「みんなが◯◯をしているから」の多数決に流されがちだが、それは幸福か。どんな形であれ自分の末路を引き受ける覚悟を決めた女性の瞳は、美しかった。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。
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