「終活」ともまた違う「デス活」なるものがある。その現場には「死」を語りたい若者が集まっているという。
彼らを突き動かすものとは何なのか。デス活に励む20代を直撃した。

若者は「死」を語ることで今を生きようと奮い立つ

「今を大切にする感覚が得られる」死について語り合いたい若者が...の画像はこちら >>
 カジュアルに死について語り合う活動=“デス活”に興味を持つ若者が増えている。遺言を書いたり、葬儀を具体的に考えたりする終活とは大きく異なる。

 もともとは妻を亡くしたスイス人の社会学者が、重くなりがちな“死”というテーマを、お茶や食事を楽しみながら気軽に話し合おうと始めた“デスカフェ”が発祥。

 欧米を中心に注目を集め、今や日本でも全国各地で開催されている。

 今年4月、渋谷ヒカリエでは、死をテーマにしたトークセッションや、棺に入れる入棺体験などを行うデス活の祭典「Deathフェス2025」が6日間にわたり開催された。

 第2回となる今回は約4200人が参加し、全体の約4割が10~30代。死を語る活動が中高年だけでなく若い層に浸透しているのがわかる。

「今を大切にする感覚が得られる」死について語り合いたい若者が増加しているワケ。死を“疑似体験”できるスポットも
昨年2000人だった来場者数は、今年4200人に倍増した
 なぜ今、多くの若者が死を意識し、語りたがっているのか。昨年、初回のDeathフェスに参加した会社員の立花隼人さん(仮名・26歳)は、その理由をこう語る。

「サービス付き高齢者住宅で介護ヘルパーとして4年間働き、10人の方が病気などで亡くなり、看取りました。いつも“死”は僕の身近にあった。
介護職を通じて、『生きるのも大変だけど、死ぬのも多くの人の手が必要なんだ』という現実を強く意識するようになったんです」

 介護の現場で死と日常的に向き合いながら、立花さん自身もまた、現代社会に漂う閉塞感と“ゆるい希死念慮”に長年悩まされてきたという。

「給料は安いし、何かする気力も湧かない。人生はしんどいイベントの連続で、今までずっと『なんとなく死にたい』という希死念慮を抱えて生きてきました。自殺するほどではないけど希望をまったく見いだせない、みたいな状態で」

「死を語っていい場所がある」衝撃と感動

「今を大切にする感覚が得られる」死について語り合いたい若者が増加しているワケ。死を“疑似体験”できるスポットも
宮越さん「もっとポジティブに死生観を語りたい」
 そんなときに、SNSでDeathフェスという存在を知った。

「まず、死について話せる場所があることに感動しました。初対面の人にも、『ときどき死にたいと思う』と素直に打ち明けられた。そこには僕の話をちゃんと聞いてくれる人がたくさんいたんです」

 立花さんが「希死念慮がある」と打ち明けた相手は、「死ぬのが怖い」と真逆の悩みを抱える同年代の若者だった。

「考え方は正反対のはずなのに、『それって紙一重かも』と言われて。話していくうちに、僕らの根底には『今をよりよく生きたい』という共通の思いがあることに気づいたんです。締め切りがあるから仕事を頑張れるように、命の終わりを意識することで、今を大切にする感覚が得られるんだと感じました」

 死から人生を逆算する。不安定な現代を生きる若者らしい、合理的な死生観だった。

「今を大切にする感覚が得られる」死について語り合いたい若者が増加しているワケ。死を“疑似体験”できるスポットも
経済的な問題から、母に戒名をつけられなかった宮越さんは卒塔婆を自作。「故人を思い、家族が戒名を考えるという選択肢があってもいい」
 商社営業マンの宮越裕哉さん(仮名・23歳)は、大学時代に母を亡くしたとき、周囲の過剰な気遣いに強い違和感を覚えた。

「友人との会話で母の死について少し触れただけで、すぐに話を逸らされてしまう。
相手は気を使ってくれているのでしょうが、葬式の話や当たり障りない程度の内容でも、死を語るとあからさまに気まずい空気が流れる。死をタブー視するのではなく、もっと話せる機会があればいいのに」

 人々が死を語る機会をつくるべく、大学時代には「故人の戒名を家族で考えるきっかけになれば」と、戒名を書いたり消したりできる手作りの“卒塔婆”を完成させた。

「作品は今年のDeathフェスで展示しました。その展示を通じて、死について話せる“デス友”ができました。死生観をポジティブに考える場所がもっと増えてほしいと強く思います」

棺に入ったら「生きる気力が湧いた」

「今を大切にする感覚が得られる」死について語り合いたい若者が増加しているワケ。死を“疑似体験”できるスポットも
[死を語りたい]若者たち
 東京都江東区にある、死について語り合える「終活スナックめめんともり」では、棺に入って、ふたを閉じた状態で数分間過ごす“入棺体験”というデス活を体験することができる。

 取材班が足を運んでみると、友人が入った棺を前に大粒の涙をこぼしている20代の女性が目に飛び込んできた。広告代理店で働いているという武井里奈さん(仮名・25歳)。彼女はなぜ死を疑似体験したかったのか。

「20歳のときに幼なじみが突然病気で亡くなって、『若くても死はこんなに身近で、突然来るものなんだ』と怖くなったんです。以来、SNSを眺めていても、戦争や殺人事件など死に関する情報に触れるたびに怖くなる。でもその不安を友達に打ち明けると、『え、疲れてるの?(笑)』『めっちゃ病んでるじゃん(笑)』っていうひと言で片づけられてしまう。語りたいのに語れない。語れないからより不安になる。
感受性が強いのに惰性でずっとSNSを見てしまうので、最近はアカウントを消しました。でも、死についてリアルに向き合える場所があったら、漠然とした死への恐怖が薄れると思ったんです」

棺桶はほんのり暖かかい

「今を大切にする感覚が得られる」死について語り合いたい若者が増加しているワケ。死を“疑似体験”できるスポットも
武井さん(右)に誘われ、好奇心から参加したという30代の吉野さん(仮名)は「棺の中で生きる気力が湧いた」
 緊張した様子で入棺した彼女は数分後、どこかすっきりとした表情で棺から出てきた。

「自分の本音と向き合えたような……。ゆっくりと前向きになれる気がします」

 その後、取材班も入棺体験をすることに。自分に向けて書いた弔辞を司会者に読んでもらい、真っ暗な棺の中からこもった声を聞く。死んだときの予行演習をしている気分だ。

 だがそれが思いのほか心地よい。ほんのりと暖かい暗闇の中で、自分は何が好きで何をしたいのか、やり残したことはないかと考える。死に触れたのに、いつの間にか生き方について考えていたのだ。

 Deathフェスの共同代表を務める市川望美氏は「若者には居場所が必要」と語る。

「デス活に参加している若者たちは、生きることに一生懸命で真面目。ただ死についてふと考えたとき、共感したり話せたりする人や場が少なすぎる。
だからこそ、デス活の場が、死を語れる仲間と出会い、死に触れ、死を知り、自分を再確認できる居場所になるのだと思います」

 若者たちは今を生きるために「死」を語り続ける。

「今を大切にする感覚が得られる」死について語り合いたい若者が増加しているワケ。死を“疑似体験”できるスポットも
「カラオケないけど、カンオケあります」がキャッチコピーの、日本初の棺おけ常設店「終活スナックめめんともり」。グラス片手に死を語る。◯東京都江東区森下1-11-8 2F ◯18:00~23:00 (定休日は日・祝)
取材・文/青山ゆずこ 撮影/杉原洋平

―[[死を語りたい]若者たち]―
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