今回は、電車という公共の場で強い不快感を覚えたという2人のエピソードを紹介する。
“不正乗車”を繰り返す迷惑客
山田和夫さん(仮名・50代)は、地方の小さな駅で駅員としてひとり勤務にあたっていた。窓口で切符を切りながら改札でも対応する必要があり、常にすべての業務をひとりでこなしていたという。
「窓口にお客さんが来れば改札には立てません。“そこ”を狙う人がいたんです」
その客は回数券を使って電車を利用していたのだが、日付印を押されることを嫌い、駅員がいないときを狙って改札を抜けるのだ。
「毎回、発車の5分前に来るんですよ。私が改札にいない隙を狙って待ち構えていて……。でも、ずっと立っていれば不正はできないから、そんなときは直前に諦めて通ってくるんです」
降車駅でも同様で、改札に隙ができる瞬間を狙っていた。そして、山田さんの勤務する駅に戻ると、すぐには改札を通らずにホームで粘ることもあったようだ。
「5分はホームにとどまっていますね。すでに入場時点で不正をしていたので、回数券には日付印がありません」
強い口調で注意すると…
その客は隣駅の大規模な駅までしか乗車せず、駅員がひとりしかいない改札口を狙って通ろうとしていた。日付印が押されていれば不正は防げたが、それを避けて何度も繰り返そうとしたそうだ。
「以前から不満を感じていて、あるとき思わず強めの声で注意したんです。
その瞬間、客は観念したように「ごめんなさい」と答え、それ以降は不正をやめたという。
「60代くらいの男性でしたが、奥さん(らしき女性)はいつも定期券で電車を利用していました。もし旦那さんが不正乗車を続けて警察沙汰になれば、奥さんは恥ずかしくて電車に乗れなくなったかもしれませんね」
山田さんは責任感から注意をしたが、「同僚たちは、逆上されることを恐れて声をかけられなかった」そうだ。
最終的には隣駅の駅員にも注意を促し、情報を共有することで再発防止につなげたという。
優先席で妊婦にかけられた言葉

「その日も3人掛けの真ん中が空いていて、両隣には若い男性が座っていました。マタニティーマークも見える位置につけていました」
発車を待っていると、ホームで落ち着かない様子の中年女性が目に入った。女性は佐藤さんの目の前に立ち、じっと見下ろしてきたそうだ。そして電車が動き出すと、唐突に声をかけてきたという。
「ねえアンタ、ここ優先席なんだけど。アンタって座らないとマズいわけ?」
マタニティーマークを示した瞬間…
女性は隣の男性たちには何も言わず、妊婦である佐藤さんだけに言葉を向けてきた。その態度に腹が立ち、佐藤さんは冷たく返す。
「マタニティーマークを指さして、『妊婦なので』とだけ答えました」
女性は驚いたように固まり、佐藤さんとマークを交互に見て「……あっ、そう」とつぶやいたのだ。その様子に、佐藤さんの怒りはさらに募った。
「両隣の男性たちが気を利かせて席を譲ってくれましたが、その女性は“当然のように”座り込み、次の駅で何事もなかったように降りていったんです」
残された佐藤さんは、やるせなさを覚えたという。
「たった1駅分のために、あんな理不尽な思いをさせられたのかと思うと、本当に悔しかったです。自分が“若い女性だから”狙われたのではと感じ、今思い出しても腹が立ちます」
周囲の男性客の助けもあり、その後は無事に目的地へ到着したが、佐藤さんにとって忘れられない出来事となった。
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。