猫のかぶりものは友人が…
――猫のかぶりものはご友人から贈られたと伺いました。なぜ猫なのでしょう。ササヤマメリー:猫が昔から好きなんです。祖母の家で猫を飼っていましたし、非常に親しみのある動物です。引きこもっていて何も気力が起きないときに、友人から「何が好きなんだ」と問われて、「猫が好き」と答えました。ちょうどそのやり取りが2021年6月のことだったと思います。するとその年の大晦日に、友人が大きな包みをもってやってきたんです。精巧な猫のかぶりものが入っていて。聞けば特注で半年間かけて製作されたとのことでした。
洗面所に連れて行かれ、被ってみると、なんともいえない安心感に包まれました。自然に涙が溢れて、「余生は猫として生きていきたい」と思ったのを覚えています。
徐々に“猫姿”で外出するように
ササヤマメリー:目立ちますね。引きこもっていたとき、友人が人が少ない時間に連れ出してくれたんです。たとえばオールナイト上映の映画館などです。あるショッピングモールにも、夜によく訪れていました。猫姿のデビューをどうしようと思案するなかで、この姿で買い物をしようと決めました。
ショッピングモールへ行くと、その途中でいろいろな人から「かわいい」と声をかけてもらえて、意気揚々と中にはいって行きました。でも、買い物をしていて視線を感じたので振り返ると、2人のガードマンがいました(笑)。やはり防犯上、顔がみえない人は店内に入れられないらしいのです。それはそうだなと納得しました。
――ただ、丹波篠山市のイベントなどではその格好でみんなに親しまれていますよね。
ササヤマメリー:ありがたいことに、受け入れていただいています。市長さんに初めてお目にかかったときも、最初から「メリーさん」と声をかけていただいて、地域の発展のために微力ながら貢献させていただいていることをありがたいと思えました。
もともとは占い師。同僚から嫉妬され…
――引きこもるきっかけについて聞かせてください。ササヤマメリー:若い頃、私は占い師として活動していました。当時、大阪梅田で10人程度の占い師を束ねる占い館という組織があって、新人として入れていただいた形です。当初、各々の占術を尊重し合う空気もあり、ランチにみんなで行くなど非常に仲良くさせていただいておりました。
ところが私の占いが評判になり、テレビ番組や雑誌などで大きく取り扱われるようになると、同僚から嫉妬をされるようになったんです。たとえばミーティングの席で「指名が多いのは受付の人に便宜を図ってお客さんを紹介してもらっているのでないか」などの根も葉もないことを言われるようになりました。そうしたしがらみが苦痛になり、私は5年ほどで占い師の職を辞することにしました。それ以来、途中で社会復帰した時期を挟みながら、家にずっといるようになったのです。占い師としてまとまったお金が手に入ったからこそ、長い引きこもり生活にも耐えられたのだと思っています。
有名人の父は自身の現状を「知らない」
――『探偵!ナイトスクープ』では、お父様が超有名芸能人であることも話題になっていました。ササヤマメリー:事実です。しかしそのことは、私の人生にとって必ずしもよいことばかりではありませんでした。
大人になっても、親友だと思っていた人が他人に私を紹介する際に、安易に「こいつ、芸能人の△△の子ども」と紹介するのをみて、心が暗くなったのを覚えています。本当の自分ではなく、大物芸能人の子どもという目でしかみてくれないのではないか――転じて、本当の自分なんて好かれる価値がないんじゃないかというふうに考えてしまうようになりました。
――学生時代はそんなふうに悩んだのですね。お父様は、メリーさんのこのご活躍をご存知ですか。
ササヤマメリー:いえ、知りません。番組出演の際も、父の名前は絶対に明かさないことを条件に出ました。私は父を尊敬しています。もっともっと地域に貢献できる力をつけて、認めていただけるようになって親孝行ができたらと考えています。
世間のイメージと裏腹に、父は非常に厳格な人です。礼儀に厳しく、また時代もあいまって、躾も相当なものだったと思います。
“当事者”に向けて伝えたいことは…
ササヤマメリー:私自身、社会から長いこと隔絶され、「それでいいんだ」と気楽さすら感じていました。あのとき友人が猫のかぶりものを作ってくれなかったら、今でも同じ生活だったかもしれません。人生、今はどん底だとしても、冬がやがて春になるように、浮上するときが必ずやってきます。私の場合は「猫が好き」というのを持ち続けたから、世界がひらけたと思っています。
こうした活動をしていると、かつての自分と同じく社会とつながりを感じられない人たちからメッセージをいただくことが多くあります。他人に気を使いすぎてしまったり、極度の人見知りの人が意外と存在することもわかりました。自分だけが辛いと思わずに、多くの人が無理をしながら、ちょっと頑張って生きているのを知れたことも、良かったかもしれません。
これから、丹波篠山市のために地域をさらに盛り上げる活動をしていこうと思っています。かつて笑顔をなくしていた私でも、みんなを笑顔にするために動ける日が来ました。今はトンネルのなかにいたとしても、光は必ず差すことを私自身の生き様で伝えていこうと思います。
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人生には、失意のなかで誰の声にも耳を傾けられない瞬間がある。立ち上がるきっかけは些細なところにあるのに、それが見つからない。ササヤマメリーさんは猫をきっかけに自らを鼓舞したが、心配してくれる友人の声さえ拒絶していたら、現在の人生はあり得なかっただろう。嫉妬渦巻く人々の煩わしさから逃れ、「余生は猫として生きたい」と願ったメリーさんが、異形となって初めて知る、人や地域の温かさ。この温もりを絶やさないために、メリーさんは今日も活動を続ける。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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