沖縄尚学の優勝で幕を閉じた今年の夏の甲子園。大会を通じて最も注目を浴びた高校の一つが、広島県代表の広陵だった

 今年発生した部員間の暴力事案を巡り、広陵の対応がネットで大炎上。1回戦を勝利するも、2回戦を前に異例の出場辞退が決まった。

暴力問題で波紋の「広陵高校」に異変…新1年生の“広陵離れ”で...の画像はこちら >>
 広陵野球部といえば、多くのプロ野球選手を輩出してきた全国でも屈指の名門で、過去にセンバツを3度優勝。夏は全国制覇こそないものの準優勝が4度ある。特にここ20年ほどは、“中国地方の横綱”として、その地位を確立していた。

来年4月の新1年生には“広陵離れ”の兆しも?

 夏の騒動から約2か月が経過し、広陵の新チームは順当に秋季県大会を勝ち進んでいる。すでに決勝進出を決め、今月24日に開幕する秋季中国大会への出場も確定。当然の如く、優勝候補の筆頭として来春のセンバツを懸けた戦いに臨むことになるだろう。

 ただし、来年4月にどれだけ優秀な1年生が広陵に入学してくるかは微妙なところだ。中国地方の高校野球事情に詳しいA氏によると、今後は広陵への進学を避ける、いわゆる“広陵離れ”が始まるのではないかと予想している。

「暴力事案の真偽はともかく、あれだけの大騒動になってしまったことで完全にヒール役になってしまいましたからね。私の周囲にも確実に“広陵離れ”が起こるという見方をしている関係者も多くいます。実際に進学先を広陵から他の有名校に変更したという話も耳に入ってきていますよ。


現在の1~2年生がいるうちはともかく、来年以降、果たして広陵はどれだけの有望選手を確保できるか……。今回の件を機に、広陵とともに“3K”と呼ばれる私学の2校に浮上の気配が漂っています」(A氏)

島根県・開星高校は8年ぶりに甲子園出場

 A氏がいう3Kとは、広陵、開星(島根)、関西(岡山)の頭文字だ。2000年以降、中国地方でしのぎを削ってきたのがこの私学3校である。

 開星は2001年から17年の間に春夏合わせて10回以上も甲子園に出場。野々村直通監督の下、糸原健斗(阪神)らがいた2000年代後半に黄金期を迎えた。

 しかし、2010年センバツで野々村監督の“末代までの恥”発言が炎上し、同監督は2012年3月に退任。開星はその後、勢いを失っていたが、今夏の甲子園に8年ぶりに出場し、14年ぶりの勝利も味わった。

 2020年に現場復帰していた野々村監督が存在感を見せつけ、名門復活の兆しを見せたといえるだろう。

関西高校は江浦監督の現場復帰で名門再建へ

 その一方で、2014年の夏を最後に甲子園から遠ざかっているのが、3校目のK、関西である。

 関西はこれまで春夏合わせて甲子園でベスト8が6度、そのうち3度でベスト4入りしている名門だ。特に2002年に就任した江浦茂監督が常勝チームを築き上げ、上田剛史(元ヤクルト)らを擁した2000年代半ばには5季連続で甲子園に出場。広陵とともに中国地方の両雄に君臨していた。

 ところが近年はかつてのように有望選手がなかなか集まらず。県内でも上位進出はままならない状態で、今夏は2回戦敗退という屈辱を味わっていた。


 そんな関西に希望の光をともしたのが、他でもない江浦監督である。江浦監督は、2018年春に監督を退任し、顧問に就任していたが、今夏の新チーム結成とともに8年ぶりに現場復帰。すると、夏の間に東西の名門校と相次いで練習試合を重ね、チームの底上げを図ってきた。

 その結果、秋季県大会初戦では、優勝候補筆頭の岡山学芸館を延長タイブレークの末に撃破。準決勝の玉島商戦はコールドで敗れたが、これはエースの連投による疲労の影響が大きかった。

1年生中心の“新生・関西”が存在感

 そして中国大会への出場を懸けた3位決定戦で、関西は岡山理大付と対戦。この大一番を横綱相撲で完勝し、見事に5年ぶりとなる中国大会へ駒を進めた。

「関西の新チームは、エースの存在が大きいですね。制球力にはやや課題があるものの、テンポ良く低めに集める投球ができる技巧派投手です。内外野の守備もよく鍛えられており、この秋はエースを救うシーンが何度もありました。

打線は上位から下位までムラがなく、岡山理大付との3位決定戦では長打も量産していました。このチームの魅力は、バッテリーをはじめとして、打線の主軸に1年生が名を連ねているところ。1年生に伸びシロたっぷりの選手が多い印象です。
また、そんな下級生に刺激を受けたのか、数少ない2年生も秋季大会では奮起していましたよ」(前出・A氏)

 もし1年生中心の新チームがセンバツ出場を決めるようなことになれば、来春の入部希望者の数も増え、その質も一気に上がるだろう。

“広陵一強時代”に終焉の予感…

 また、関西に限った話ではないが、これまでなら広陵に進学していたであろう有望な中学生が、今後は関西を含めた他の強豪私立に行く流れは確実に起きるはず。

 ここ10年ほど大きな後れを取っていた関西と開星。復活の兆しを見せている“2K”が、横綱の座から陥落危機を迎えた広陵に代わって、中国地方の勢力図を書き換えてもおかしくない。長らく続いた広陵1強の中国地方で、数年以内に地殻変動が起こりそうだ。

文/八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。
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