今年9月、神田で行われたライブタトゥーイベントに登壇した、こころんさん(@kokoron_ronron、31歳)。もともとあった背中一面に絵が添えられ、完成に至った。
こころんさんの身体には、腕やお腹、脚などほぼ全身に余白なく刺青が施されている。普段はスナックで深夜まで働く彼女の、奇抜な生き方を追った。
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中学生のころから刺青に憧れていた

――もとから刺青に憧れがあったと伺いました。

こころん:そうですね、憧れは中学生のころからありました。東京で生まれた私は、3歳くらいのときに父親の仕事の都合で岩手県に移り、青春時代を過ごしました。中学のとき、レディー・ガガをみて「こんなにかっこよく、美しく、それでいてセンスのいい女性がいるんだ」と衝撃が走ったんです。いま、身体に花のデザインを彫ることが多いのも、レディー・ガガの影響です。

――ご両親の反応はいかがでしたか。

こころん:私は家族みんな仲が良くて、いろいろ話をする関係性です。「タトゥー入れたい」と言ったときは、「ちゃんと学校を卒業してからね」と言われました。一応、その言いつけは守ったんです。高校卒業後に専門学校を出て、美容師になったあと、20歳でファーストタトゥーを手首に入れているので。

一日中こき使われ「手取り13万円」

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上京して就職した職場はかなり激務だったそうだ
――美容には以前から関心があったのでしょうか。

こころん:それもレディー・ガガの影響ですね(笑)。
「自分がもしもレディー・ガガに会える可能性があるとすれば何かな?」と考えて、歌唱力もないし、楽曲を作る才能があるわけでもないなかで、ヘアメイクなら昔から好きだからいけるかもしれないという一縷の望みがありました。

――美容師は激務と聞きますが、いかがでしたか。

こころん:就職のために上京したのですが、厳しい洗礼を受けました。朝5時に起きて7時に出社、開店準備などをすべて1年目の私たちがやって、営業は21時過ぎまで。それから練習に入るため、毎日終電で帰宅して寝るのは深夜でした。それで当時の手取りは13万円ほど。でももっときつかったのは、私が勤務したサロンでは、なぜか先輩術者に教えてもらうときにお金を支払わないといけなかったんです。お給料もそう多くないなかで、手痛い出費でしたね。そもそも「仕事に必要な技術なのに、お金を払わないといけないのはどうしてだろう?」と疑問でした。

「メンタルを病むことなどない」と思っていたが…

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地元のキャバクラで働いたことでリフレッシュできた
――そうした理不尽なことが重なって、退職に?

こころん:それもありますが、メンタルの不調が身体に影響してしまったことが大きいと思います。これまで、学生時代を非常に楽しく過ごさせてもらった私は、自分がメンタルを病むことなどないと思っていました。けれども、美容師として働くなかで、突然呼吸がしづらくなったり動悸がしたり、耳が聞こえづらくなったり、いろいろな不調が出てしまい、受診しました。医師から「自律神経がやられているから、仕事を休むように」と告げられて、退職を選びました。


 理不尽だなと思うことがあっても共有できればよかったのですが、先輩たちもそれを乗り越えてきているので、「私たちの時代はもっと酷かった」みたいな言説で諭してくるのがちょっとグロテスクだなと思いました。

――現在のお仕事はいわゆる水商売ですが、すんなりシフトできましたか。

こころん:もともと祖母がスナックを経営していて、母がチーママ、父がバーテンダーをやっていた時期もあったので、まったく抵抗がないんですね。私も美容学校に通いながらキャバクラなどで働いていましたし、現在も年上の社会経験豊富な人たちと話せるのが楽しいです。

 実は美容師をやめたときも、地元に帰ってキャバクラで働いていました。そこでは女の子たちのヘアメイクなども任せてもらえて。ちょうどサロンでの苦い経験から働くことにネガティブになっていたので、もう一度社会で働くことができたのはよかったですね。

200万円の借金を背負うハメになり…

――そのあとは、どのようなお仕事を?

こころん:実は25歳のときに抱えた借金を返すために、オトナのお店で働き始めたんです。当時交際していた男性に別れを告げたのですが、受け入れてもらえず……腹いせだったのでしょうか、私のクレジットカードを勝手に使われてしまって。結局、200万円ほどを私が被る形になったんです。

――元交際相手の方の行動は犯罪ではないのでしょうか。

こころん:犯罪行為なので警察に相談にも行きました。しかし私の名義を貸したことになっているので、警察には「こういう場合は同意があったとみなされちゃうんだよね」と言われてしまいました。
そんなわけで、その年の大晦日は私、警察署で過ごすことになったんですよ(笑)。

 最初は「誰も守ってくれない」「冷たい」とネガティブな感情があったんですが、そのうち「絶対返済してやろう」と思うようになって。それで応募しました。

「借金をしてからが人生なんだな」と思えるように

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手首からはじまり、今では全身に刺青が
――すぐに返済できたのでしょうか。

こころん:結局、最終的には吉原で殿堂入りするまでいくので、借金は遠い昔の記憶になりましたね。でも業界に入るまではかなりダメダメで、面接中に飲酒したのがバレて採用してもらえないこともありました。地元の店で働くことになったときは、やはり地元の人にバレたら困るので、新幹線で2駅先の店に勤務していました。そこは熟女店で、当時25歳だった私は完全にカテゴリーエラーなのですが、お客さんにも「店のコンセプトと別枠で考えてもらえれば」なんて言って(笑)。

 これらの経験を通じて、「借金をしてからが人生なんだな」と思えるようになりました。もともと学生時代も時間とか締め切りを守れなくて、美容師になって初めて必死に働く経験をしたくらいだったのですが、背負うものがあったほうが機敏に動けることを知りましたね。

――お話を伺っていると、思い切りが良すぎますよね。

こころん:確かに、自分でもどうしてそんな思考回路になったのかよくわからないときはあります。数年前、当時交際していた男性からお金を貸してほしいと頼まれたことがきっかけで口論になりました。
主張がまったくの平行線で、男性が明らかに借りる側の態度ではなかったことなどから、私の怒りのボルテージがどんどん上がっていったんです。なぜそうなったのか覚えていないのですが、台所で口論していたので、目の前にあった包丁を握りしめて自分の手首に3回ほど突き刺して見せてやったんです。男性はかなり狼狽していました。もちろん血は止まらず、救急車を呼びました。救急隊がDV案件だと勘違いして、警察も家にやってきて、男性は事情聴取をされていました(笑)。

のんびりとした気質だが、我を忘れるようなときも

――豪快すぎます(笑)。こうして話していると穏やかな印象を受けますが。

こころん:そうですね、どちらかといえば時間に縛られるのが嫌いで、「なんとかなる」と本気で思っている節が強いです。学生時代も結構な劣等生で、宿題などの提出物もすぐに忘れますし、時間も守れないような子でした。基本的に怒ることもあまりなく、ガツガツ働くよりも自宅でのんびりする時間を愛する人間だと思います。ただごくわずか、理不尽な扱いをされたときに怒りで我を忘れることがあるだけで、基本的には温厚だといわれます。

――今後の目標などがあれば教えてください。


こころん:叶わなかったときが辛いので、大仰な目標は設定しないようにしているんです。ただ、現在働いているお店はお客さんもとてもいい人で、私自身いろいろなことを学ばさせていただいているので、このお店をもっと繁盛させたいなとは考えています。スナックは昼の社会で疲れた人たちを癒す場所だと思うので、私自身が社会に適合しない面もあるからこそ、本気の「お疲れ様」を言えるのかなと思ったりもしますね。

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 乱高下するこころんさんのテンションは見ていて爽快、“生”の躍動感を味わえる。夜の職業はまさに雑多を楽しむ世界。規格外を歓迎し、面白がる彼女の生き様そのものだ。

<取材・文/黒島暁生>

全身刺青の31歳女性が“200万円の借金”を背負うハメになった理不尽な出来事「警察に相談したのに…」
こころん


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こころん


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【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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