YouTubeで公開されてからたった4週間(2025年9月末時点)で、400万回以上再生された動画がある(現在は公開終了)。
フジテレビ系列のドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』が、大浦きららさん(撮影当時38歳)に密着した回だ(2017年2月放送)。


男性として生まれながら性自認は女性のきららさんは、「450万円の借金」を工事現場での日雇いバイト(日給8千円)で返済しつつ、地下アイドルとしても奮闘。生活は困窮しており、ガスの契約をしていないために冷水で行水をしたり、鳥のエサ用の「くず米」を食べる姿はショッキングでさえあった。

あれから8年、きららさんはどのような生活を送っているのだろうか。本人を直撃した。

『ザ・ノンフィクション』で話題。くず米を食べ、冷水で行水…借...の画像はこちら >>

“返済生活”のその後は…

ーー2017年の時点では、お金を貸した知人と連絡が取れなくなったり、返済してもらえなかったりしたことから、ご自身が借金の返済に追われる生活でした。あれから8年が経ちますが、完済できましたか?

大浦きらら:番組の放送があった年の終わりごろに、自己破産をして。翌年に免責許可が降りて返済義務がなくなりました。

ーー番組内で「自己破産して返済義務がなくなると、貸してくれた人を裏切るようなのでしたくない」と発言されていましたが、心境の変化があったのでしょうか。

大浦きらら:“状況”の変化ですね。返せるうちは頑張っていましたが、バイト中の転落事故で腕を骨折して働けなくなり、復帰してからは日給が下がり……。それにくわえ、借金を返すためにほかの金融機関で借りることもあったのですが、信用が下がったのか、カードの審査が通らなくなりました。今までのサイクルが止まったことで返済が滞れば、先方に迷惑をかけると思い、その前に自己破産しました。

ーー返済義務がなくなり、生活に充てられるお金は増えましたか?

大浦きらら:少しは。
でも、年収は250万円くらいで、そこから税金などが引かれるので、使えるお金は200万円以下です。

ーーくず米は今も?

大浦きらら:もう食べていません。くず米は虫が湧くのも早くて、一番困っていた時はそれでも食べていたんですが、やっぱり嫌ですしね。今は、「古古古米」を食べていますが、くず米に比べたら格段に美味しいですよ。

実はショーパブが辛かった

『ザ・ノンフィクション』で話題。くず米を食べ、冷水で行水…借金返済生活に追われていた「きららさん」の“その後の人生”
2016年ごろの自室
ーー番組は、ショーパブの仕事をはじめたものの、「ブログのアクセス数が伸びて収益化のチャンスだから、店と距離を置く」というところで終わっていました。その後、ブログで稼げるようになったんですか?

大浦きらら:結論から言えば、なりませんでしたね。ただ、ブログに力を入れたいからという理由は、正直言って建前でした。

ーー本音を教えていただけますか?

大浦きらら:「お店が悪いわけじゃない」という前提で聞いてください。実はショーパブが辛かったんです。ダンスがとても苦手だったこともあって、毎日のレッスンが精神的にもキツくて。あと、お酒を飲むことも仕事なんですけど、二日酔いで何もできない状態が続いていたんです。家は汚くなっていくし、ブログにも手がつけられなくなって……。やむをえず距離を置こうと思い、週一くらいの勤務にしてもらいました。


ーー辞めるのではなく、距離を置いたのは、なぜですか?

大浦きらら:放送を見て来店された方がいた時に「もう辞めました」というのは、あまりにも義理が立たないと思って。番組の撮影にも協力してもらったわけですから。

「気持ち悪い」「キモい」と指摘され、丸坊主に

『ザ・ノンフィクション』で話題。くず米を食べ、冷水で行水…借金返済生活に追われていた「きららさん」の“その後の人生”
悩んだ末、坊主にしてしまった時期も
ーーブロガーとしてうまくいかなかったのはどうしてですか?

大浦きらら:放送後、アクセスの急上昇に伴い、コメントも増えました。ただ、辛辣な意見も多くて……。耐えられなくなって、結局ブログは辞めました。

ーーどんなコメントが?

大浦きらら:キレイになりたいと思っても、私が美容にかけられるお金はごくわずかです。どうにかやりくりして、なりたい姿になったのに「気持ち悪い」「キモい」と指摘され、やけっぱちになってしまって……。

ーーSNSを遡ると、丸坊主にされていた時期があるようですが、このころですか?

大浦きらら:そうですね。男らしさ/女らしさのような概念から離れたくて。でも、今はすごく反省しています。

ーー反省?

大浦きらら:一番簡単な二択を間違えたんです。攻撃してくる人、いわばアンチの言動に対して衝動的に動いてしまった。アンチではなくファンの方を見ていないといけないのに。


自分のYouTubeチャンネルがついに収益化

ーーファンの方は、きららさんのどんなところに魅力を感じているんでしょうか?

大浦きらら:私のライブに来てくださる方は1人なので、歌や踊りではないでしょうね。

ーーSNSでは、きららさんの「生き方」「哲学」「人生観」のような投稿に反応が大きいように思います。

大浦きらら:そうかもしれません。自分のYouTubeチャンネルだとそんなに再生されないんですが、ほかのYouTuberの方にインタビューされた動画は10万回以上再生されることも多いんです。だから、そこに需要があるのかなと思っています。

ーーご自身のチャンネルもやられているんですね。

大浦きらら:今年の春に、「底チャンネル」というチャンネルの方々と知り合って、いろいろとアドバイスをもらえました。おかげで私のチャンネルも8月に初めて収益化できたんです。9月末に3万円くらい、初めての振込があります。

ーーそれは、嬉しい兆しですね!

大浦きらら:「底チャンネル」に関わるようになって、公開しているAmazonの「ほしい物リスト」から贈っていただけるものも増えました。掃除機や電子レンジなど、今年いただいたものだけで21万円分を超えたので、税務申告が必要だなと思って準備しています。本当にありがたいです。

今までの人生で“しっくりきた”ことはない

『ザ・ノンフィクション』で話題。くず米を食べ、冷水で行水…借金返済生活に追われていた「きららさん」の“その後の人生”
地下アイドル時代。当時と比べて考え方が変わったところもあるそうだ
ーー番組では、きららさんが「しっくりくる生き方」を模索してもがく姿がありました。
その後、しっくりくるようになりましたか?


大浦きらら:今までの人生で“しっくりきた”ことはないです。

ーー放送当時も今も、もがいている真っ只中ですか?

大浦きらら:変わった部分もあります。以前は、世間や自分に対して「こうあるべき」に囚われていました。だから、収入もライブの集客も少ない自分をすごく低い人間だと思っていて。今も貧しいんですけど、やっと今年くらいから「どんな形であれ、楽しい気分でいていいし、楽しい人生を過ごしていい」と思えるようになりましたね。

ーーこの先、やりたいことはなんですか?

大浦きらら:「お金じゃない幸せ」を発信したいです。私が就活をしていた時代は「いい会社に入ってお金を稼ぐべき」「学歴や年収が大事」という感覚が強く残っていました。だけど、そこから外れた人生を生きてきて「お金や学歴じゃない幸せってあるよね」と思えてきたので、若い人や子どもたちにも伝えていきたいですね。

ーーそれには、きららさん自身が真に幸せを感じることが大事ですね。

大浦きらら:私もまだ具体的に「お金じゃない幸せって何か」を掴みきれてはいないので、これからも模索ですね。

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放送に反響はあったものの、きららさんの生活や収入は大きく変わったわけではなかった。だが、その内面には明らかに変化が見られた。
自分の気持ちに素直になることの苦しみと幸せを同時に体現し続ける彼女の未来は、きっと明るいはずだ。

<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
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