サッカー日本代表が、“まだ見ぬ景色”を見せてくれた。
 2025年10月14日、FIFAワールドカップで最多優勝5回を誇るブラジル代表と対戦し、3-2で勝利を収めた。
来年6月にワールドカップ本大会を迎える強化のタイミングでの親善試合とはいえ、これまで「2分11敗」と未勝利だったサッカー王国を相手に2点を先制されながらの大逆転劇。日本列島を大いに沸かせ、本大会での躍進を期待を感じさせてくれた。

 日本代表の目標は、あくまでもワールドカップ優勝。「最高の景色を2026」というスローガンを実現させるためにも、まだやるべきことが残っている。

「ブラジル、ドイツ、スペイン」に勝てるのに…天敵である「同等...の画像はこちら >>

ブラジル戦の勝利は“焼き増し”?

 ブラジル戦においては、格上のチームを相手に自分たちがどこまでやりたいことをできるかが、テーマのひとつとなっていた。それを踏まえると、前半は思うような守備ができず2点を奪われた。それでも後半はしっかり修正し、“いい守備からいい攻撃”へつなげ怒涛の3得点。終わってみれば、総体的にある程度思い通りに試合を運べた結果になった。

 ドラマチックな逆転劇で王国に初勝利ということもあり、浮かれる気持ちは十分に理解できるし、親善試合とはいえ快挙であることは間違いないので素直に喜んでいい結果だと評価できる。

 先に、「まだ見ぬ景色を見せてくれた」とは表現した。事実そうではあるのだが、個人的には“焼き増し”だと感じている。ブラジル代表には初勝利ではあったが、格上の優勝経験国を相手にした逆転劇はこれまでもあった。前回大会のドイツ戦やスペイン戦が当てはまり、強豪相手にも勝てることを再認識できたという点では、既視感が否めない。
内容を比較すると、日本代表が思い通りに試合を進める時間は短くなかった。3年前よりも強くなっていると断言できる。しかし、このままの状態で目標を達成できるかというと、決してそうではない。

パラグアイには土壇場で引き分け…

 ブラジル戦の4日前に対戦したパラグアイ代表との試合は、2-2で引き分けている。日本代表は試合の大半で主導権を握っていたものの、思うように決定機を作り出せず、試合終了間際のギリギリで追いついた。称賛できる内容ではない。

 パラグアイ戦、ブラジル戦の2試合を通してわかったことがある。ブラジルのような格上といわれる相手との試合で、勝つための戦術はある程度の算段がついているということ。しかし、パラグアイのような同等クラスの堅守を誇る相手に勝ち切る術はいまだに模索中であるということだ。

「同等クラスの堅守速攻チーム」をどう倒すか

 前回大会を今一度思い出してほしい。ドイツ戦やスペイン戦のインパクトが強すぎて忘れ去られがちだが、グループリーグでコスタリカ代表に敗れており、決勝トーナメントではクロアチア代表にPK方式の末に負けて敗退した。日本代表が試合の主導権を握る時間帯が多かったにもかかわらずである。当時から変わらず、「同等クラスの堅守速攻チーム」を相手にした場合は、大きな成長は見せられていない。

 FIFAワールドカップの抽選会は12月5日(日本時間6日)に予定されており、11月に予定されているガーナ戦(11月14日)とボリビア戦(11月18日)までの結果を受けたFIFAランキングをもとにポッド分けされる。
ブラジル戦の勝利で日本はほぼほぼポッド2が確定したわけで、前回大会のように優勝経験国2チームと同グループになることはまずない。

 うち1チームは優勝経験国に匹敵するような強豪、あるいは開催国になるが、残りは同等クラスとの対戦になるといっていい。まだ対戦国が決まる前で尚早ではあるが、同等クラスを相手にどう勝つかという策は本大会を勝ち抜くうえで絶対条件になる。

サイド攻撃のみでは行き詰まる可能性が高い

 同等クラスとの対戦を想定したときに、ピックアップすべきは攻撃面になるだろう。そういった相手からどう得点を奪うかが課題といっていい。

 現在の日本代表が攻撃面で強みとしているのは、サイドからの攻撃になる。実際に、今回のパラグアイ戦とブラジル戦でも伊東純也からのクロスが得点に結びついている。また、三笘薫、堂安律、中村敬斗、久保建英のように単身で突破できる選手もおり、サイド付近からのフリーキックやコーナーキックなどセットプレーの数が増えることも想定できる。

 サイド攻撃を中心にセットプレーなども含めて磨きをかけていくのはもちろんなのだが、それだけでは一辺倒の攻撃となり本大会を前に研究してきた相手には守り切られてしまう可能性が高くなる。2014年のブラジル大会でもサイドから多くのクロスを入れたが、守り切られてしまっている。

キーマンは鎌田大地か

 ワールドカップ本大会まで残り8カ月ほどである。できることならサイド攻撃だけでなく、中央から崩す形もつくっていきたい。守備を固めてくる相手に対して、中央突破をしかけるのはなかなか困難であり、森保一監督もそう話している。
着手しなければ勝つ確率は上がらない。今の日本代表メンバーには遂行できるポテンシャルを持っている。

 そのためにはフリーの認識、スペースのつくり方、ポジションの取り方、パスの精度やタイミング、3人目の動きなど精査しなければならないことは多岐にわたる。まさに今回の対戦でブラジル代表がよきお手本を見せてくれていた。

 キーマンとして、中盤の底を担うことが多くなった鎌田大地を推したい。これまで以上に効果的な縦パスを供給してチャンスの起点をつくっており、自身がゴール前に入って得点できる能力も持っている。鎌田ができるだけゴールに近い位置でプレーできることが得点への近道と考える。ここからは鎌田を中心としたコンビネーションの構築にも磨きをかけていき、ワールドカップで最高の景色を目指してほしい。

<TEXT/川原宏樹 写真/六川則夫>

【川原宏樹】
スポーツライター。日本最大級だったサッカーの有料メディアを有するIT企業で、コンテンツ制作を行いスポーツ業界と関わり始める。そのなかで有名海外クラブとのビジネス立ち上げなどに関わる。その後サッカー専門誌「ストライカーDX」編集部を経て、独立。
現在はサッカーを中心にスポーツコンテンツ制作に携わる
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