いろんな意味で見た目は大切です。
“優しそう”とか“かしこそう”など、話したこともない初対面の相手にそのような印象を与えることは、もはや才能なのかもしれません。
もちろんその逆もあります。

今回は、見た目が真逆なコワモテの男性たちと関わることになった男性の挽回エピソードです。

「お前らの敷地じゃねえだろ」幼稚園の隣で路上喫煙する“コワモ...の画像はこちら >>

朝から胸騒ぎのする出会い

「正直、朝から嫌な予感はしてたんです」と苦笑いを浮かべながら取材に応じてくれた宮田さん(仮名・27)。

彼は、都内某所の高級住宅街の幼稚園の先生です。その日は、幼稚園では父兄によるフリーマーケットが予定されていて、準備のため、いつもより早めに出勤しました。

ところが、駐車場に車を入れようとした時、ルーフにハシゴを積んだワンボックス車が駐車場の入り口を塞ぐように停まっていたそうです。

しばらく待っていると、車内から目つきの鋭い男性が出てきて、宮田さんの車が入れない様子に気付き、無言のまま数メートル前に移動させたと言います。

「別に大したやりとりがあったわけじゃないんですけど、こちらを威圧するような視線で。朝からちょっと嫌な気分になりましたね」

胸の奥に引っかかるものを抱えたまま、宮田さんはフリマの設営に取りかかりました。

園児の一言で気づいた異変

フリマが始まると、多くの園児や父兄で園庭は賑わいを見せたそうです。

バザー品を広げる笑顔、久々に再会する母親同士の会話。そんな和やかな空気のなか、事件は小さな声から始まりました。

「ママー、煙がくさいよー。おじいちゃんのお家みたいで嫌だ」
 
砂場で遊んでいた園児のひとことに、宮田さんは最初ピンと来なかったといいます。


しかし視線を隣の区画へ移した瞬間、状況を理解しました。そこには休憩中と思しき作業員風の3人組が、ガードレールに腰掛けながら堂々とタバコをふかしていたのです。

金髪や強面の風貌が目立ち、園庭に漂う煙は子どもたちの遊び場へと確実に流れ込んでいました。

「やっぱりな……と。朝に見たあの車の人たちだと、すぐにわかりました」

さらに追い打ちをかけるように、一人の母親が宮田さんの前まで来たそうです。

「先生、この辺は路上喫煙禁止区域ですよね?園児も嫌がっていますし、なんとかしていただけませんか?」

現場の責任者として対応が求められる立場。けれど相手の雰囲気は、とても注意できるようなものではありませんでした。

震える声を振り絞り注意喚起

それでも、園児と保護者の視線を背に受けた宮田さんは覚悟を決め、意を決して3人組に歩み寄り、声をかけたそうです。

「あのぉ、煙がこちらの方に流れてきて、園児が迷惑しているんです。やめてもらえませんか?」

その瞬間、男たちのひとりが鋭くにらみ返し、声を荒らげました。

「はぁ?俺ら路上で吸ってんだぜ?お前らの敷地じゃねえだろ。ったく、何様だよ」

「もうだめだ」と心臓が縮む思いだったと、宮田さんは振り返ります。後ろに立つ母親たちは不安そうに見守り、子どもたちは遠巻きに状況を伺っている。


宮田さんは勇気を振り絞り目の前の男たちに注意喚起しました。

「ここは都の条例で路上喫煙禁止区域なんです。それに、あそこに防犯カメラがあります。映像を警察に提出したら、あなたたち、すぐ捕まりますよ」

ギリギリの決断が功を奏す

一瞬、その場の空気が凍りついたと言います。ただ、男たちは互いに目を合わせ、舌打ちをしながらも言い返してはきませんでした。やがて立ち上がると、慌てたようすで車に乗り込み、そのまま去っていったのです。

「正直、膝がガクガクでした。でも、母親たちが『先生、ありがとうございます』と声をかけてくれて……。あの瞬間、やってよかったと心から思いました」

宮田さんにとって、それは勇気を振り絞ったギリギリの決断だったそうです。自分ひとりの問題なら黙ってやり過ごしたかもしれない。けれど園児と保護者を守る立場だからこそ、逃げられなかったのです。

「防犯カメラがなかったら、あそこまで言い切れなかったと思います。
でも、あの状況で一歩踏み出さなきゃ、きっと後悔していたはずです」

子どもたちの無邪気な笑顔を守るために立ち向かった一人の先生。その背中は小さくとも、確かな重みを感じさせるものでした。

<TEXT/八木正規>

【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
編集部おすすめ