―[あの日夢見た雲組]―

 2023年6月15日、乃木坂46の公式ライバルグループとして結成した「僕が見たかった青空」(通称:僕青)。
僕青・長谷川稀未、雲組から青空組へ。涙と覚悟の舞台裏「自分の...の画像はこちら >>
 同グループはセカンドシングル以降、シングル選抜システムを採用。
メンバー23人は、表題曲やメディア出演をしていく選抜の「青空組」と、ライブやイベントなどを中心に活動する「雲組」の2つチームに分かれて活動している。

 この連載「あの日夢見た雲組」は、8月6日リリースの6枚目シングル「視線のラブレター」で構成された雲組単独公演のライブとともに、雲組で切磋琢磨するメンバーに注目していく。

公演前、楽屋で涙する長谷川稀未

 いよいよ6枚目シングルの雲組としての活動期間も終わりが近づいている。現体制の雲組の集大成となるライブ「超雲組公演 HYPER(以下:超雲)」が、9月27日に恵比寿LIQUIDROOMで開催。その数日前には、12月17日にリリースされる7枚目シングルとともに新たな青空組11名がメンバーに発表された。雲組からは塩釜那菜と、初の青空組に参加とになる長谷川稀未の名前が呼ばれた。12人での最後の雲組単独公演。長谷川はその景色を目に焼き付けようとしていた。

僕青・長谷川稀未、雲組から青空組へ。涙と覚悟の舞台裏「自分の弱さが情けなかった」
僕が見たかった青空 僕青 雲組 長谷川稀未
「この公演で一区切りという思い、休止を発表した木下藍ちゃんや卒業間近の山口結杏ちゃんが雲組最後のステージということもあったので。いろいろな気持ちを噛みしめながら臨んでいました。寂しさを抑えながらステージ上ではとにかく悔いのないようにやり切ろうと思いました」

 だが、当日。リハーサルを終えて彼女を探して楽屋を尋ねると、部屋の片隅で泣いていた。そのときの心境を聞くと、「自分に自信がなくなってしまった……」と振り返る。


僕青・長谷川稀未、雲組から青空組へ。涙と覚悟の舞台裏「自分の弱さが情けなかった」
1部開幕前、楽屋で涙する長谷川と長谷川に「大丈夫、伝わってるよ」と励ますメンバーたち
「次のシングルが青空組ということで、雲組のメンバーに感謝の気持ちを込めた手紙を渡そうと思ったんです。でも選抜発表で悔しさを抱えたメンバーもいると思うし、その次のシングルでまた雲組に戻ってくるかもしれないのに、そんな自分が手紙を渡すのはどうなのかなと不安になって……。

 だから手紙は自宅に置いてきたんですけど、菜那ちゃんも全員に手紙を書いていて、ひとりひとりの目を見ながら渡していました。それを見たとき、選抜発表後は『前を向いて頑張ろう!』と気持ちを切り替えたはずなのに、私には覚悟が足りなかったな……と思ってしまい、自分の弱さが情けなくて涙が溢れてしまいました」

何度もお願いして実現したソロパフォーマンス

僕青・長谷川稀未、雲組から青空組へ。涙と覚悟の舞台裏「自分の弱さが情けなかった」
この日が最後の雲組公演となった山口結杏の言葉に耳を傾けるメンバーたち
 それでも涙を拭いて楽屋を1歩出ると、気持ちを切り替えて円陣に加わった。今回の超雲では彼女自身、大きな挑戦が控えていた。自らの手で掴み取ったソロ曲のパフォーマンス。選曲は自分を鼓舞してくれた楽曲「タマシイレボリューション(Superfly)」を選んだ。

「5枚目シングル期間の雲組単独公演からソロパフォーマンスがセットリストに組み込まれるようになって、『私もいつか挑戦したい!』という気持ちがあったんです。手を挙げるなら、今回の超雲が最後だと思って、自分の歌唱動画をスタッフさんに送って何度もお願いして実現しました。1部(昼公演)の序盤だったので、公演の雰囲気をグッと上げられるパワフルな曲をファンの皆さんにも雲組メンバーにも届けたいと思ったんです」

僕青・長谷川稀未、雲組から青空組へ。涙と覚悟の舞台裏「自分の弱さが情けなかった」
1部で「タマシイレボリューション(Superfly)」を披露


メンバーの晴れ舞台は「限界を超えて120%」で

僕青・長谷川稀未、雲組から青空組へ。涙と覚悟の舞台裏「自分の弱さが情けなかった」
僕が見たかった青空 僕青 雲組 長谷川稀未
 超雲では、雲組でしか出せない表現にこだわってメンバー同士で話し合ってアイデアを重ねた。オープニングで披露した「青空について考える」のイントロで12人が作る手文字“KUMO”や、足踏みやクラップ、デッキブラシを打ち鳴らしながらリズムを奏でる団体パフォーマンスなどに挑戦する姿が観客の心を動かした。

「私が2部(夜公演)でメインメンバーを任せてもらった『臆病なカラス』では、会場の空気をガラッと変えて厚みを出すために世界観に入り込んでパフォーマンスをしてました。あの曲終わりは体力も気持ちもヘトヘトなんですけど、次曲は藍ちゃんが初めてメインメンバーを務める『好きになりなさい』だったので、限界を超えて120%で盛り上げました」

僕青・長谷川稀未、雲組から青空組へ。涙と覚悟の舞台裏「自分の弱さが情けなかった」
左から萩原、長谷川、木下

環境が変わらないなかで成長し続ける難しさ

 長谷川自身はセカンドシングル「卒業まで」から約2年半、雲組として活動してきた。普段は滅多に弱音を見せない彼女だが、過去のシングル選抜発表後には、「環境が変わらないなかでも成長し続けないといけない難しさ」に悩み葛藤していた。今年3月に早稲田大学を卒業したことを公表したが、学業とアイドルの両立についても「想像していた以上にツラかったです」と振り返る。


僕青・長谷川稀未、雲組から青空組へ。涙と覚悟の舞台裏「自分の弱さが情けなかった」
僕が見たかった青空 僕青 雲組 長谷川稀未
「毎日のレッスンや雲組単独公演、ほかの仕事などで大学に通えないことも多かったんです。だからレッスン行って、帰宅したら徹夜で大学の課題や翌日の振り覚えを終わらせて、そのまま寝ないで大学やレッスンに向かうこともありました。

 私が受けてた講義は最初に出席カードが配られて、最後に回収するから途中で抜けることもできない。それでも頼れる子がいないので自分でどうにかしなきゃいけなくて、単位が危なさそうなところはレポートを勝手に追加で教授に提出したりもしたんですけど救済はされず……。イベントなどでファンの方と会えるのは嬉しかったですけど、『このまま続けていて何かが変わるんだろうか』と何度も心が折れそうになりました」

 それでも留年することなく4年間で大学を卒業したのは、両親との約束と「やっとの思いで進学できた大学だから途中で諦めたくない」という彼女の意地にほかならない。

「就活するなら“ガクチカ”も考えないと」

 アイドルに興味を持ったのは高校1年生。初めて買ってもらったスマホでK-POPアイドルのミュージックや番組に夢中になった。いつしか自分もそうなりたいと思って、大学1年生のときにひとりで韓国に渡り、現地の事務所が開催するオーディションを受けて合格。練習生としてデビューを目指していたが、コロナ禍の影響でプロジェクトが中止になってしまい帰国を余儀なくされた。

僕青・長谷川稀未、雲組から青空組へ。涙と覚悟の舞台裏「自分の弱さが情けなかった」
僕が見たかった青空 僕青 雲組 長谷川稀未
「アイドルの夢は諦めて、『就活するなら“ガクチカ”も考えないといけないか』と思っていたんです。そんなときに両親が僕青のオーディションを勧めてくれて、ラストチャンスのつもりで受けました。受かったときは母のほうが、『本当にやるの?』と驚いていましたけど(笑)」

 アイドルはステージに立って、ずっと輝いている存在。そんな姿に憧れたからこそ、弱い部分を人に見せられなかった。
加えて、「僕青の年長メンバーとして頼られる存在でいたい」という意識がストイックな彼女を余計に苦しめることも多かった。7枚目シングルで青空組として名前を呼ばれた瞬間も、喜びより不安で体が震えていた。

僕青・長谷川稀未、雲組から青空組へ。涙と覚悟の舞台裏「自分の弱さが情けなかった」
僕が見たかった青空 僕青 雲組 長谷川稀未
「雲組メンバーは毎日のように一緒にいたので、私の表情が少し変化するだけでも気づくんですよね。選抜発表のときも私の心境を察して、背中を押すような言葉でたくさん励ましてもらいました。2年半ずっと雲組で苦楽をともにしてきたメンバーも多かったので、仲間の存在に支えられてきたんだなとあらためて思いましたね」

青空組で抱く使命感「爪痕を残さないといけない」

 青空組としての活動が徐々にスタート、環境が大きく変わったことで、新たな課題にもぶつかっている。それでも、「気合いと努力だけは誰にも負けたくない」と力を込めた。

僕青・長谷川稀未、雲組から青空組へ。涙と覚悟の舞台裏「自分の弱さが情けなかった」
僕が見たかった青空 僕青 雲組 長谷川稀未
「私、学校の新学期が苦手で、内向的な性格だから新しい環境に馴染むまでに時間がかかってしまうんです。ただ、努力というのは結果が出てこそだと思っているので、このシングル期間で何かしら爪痕を残さないといけない使命感は強いです。そのために雲組でやれることはやってきたという自負はあるので、もっといけるぞ!という気持ちでギアを上げて、初めての青空組の活動を必ず意味のあるものにしたいです」

 最後に雲組メンバーにあてた手紙は渡したのか?と尋ねると、首を横に振った。「文字にしなくてもお互いの気持ちはちゃんと伝わっていますし、今さら渡すのも野暮じゃないですか。手紙は私の心の中だけに留めておきます」と言って、レッスンに向かっていった。

 雲組で輝きを増した彼女の才能が、青空組で開花する日はまもなくだ。


<取材・文/吉岡 俊 撮影/山田耕司(扶桑社)>

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