9月、公式製造元の株価が急落し「ラブブブーム終焉」と報じられた。だが、日本では今も入手困難な状況で人気はむしろ過熱。
その裏で、偽物市場も活況を呈している。日本への密輸ルートを追う!

一体200円の粗悪品も! 偽ラブブ工場は大繁盛

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 近年、世界中でブームとなっている中国発のキャラクター「ラブブ」。ぬいぐるみ型のフィギュアで本物は公式ショップでしか買えない。

 日本でも春頃から争奪戦が過熱。夏休み期間中は公式ショップに親子連れが連日殺到し、長い行列をつくった。

 国内での定価は2000円台だが、常に品薄状態のためフリマアプリや中古流通では5000円以上、72分の1の確率で出現するシークレットアイテムは2万~4万円ほどで取引されるほどだ。

 一方で、人気が高まれば、模倣して利益を得ようとする輩が現れるのは世の常。すでに数多くの偽物が世界中で流通している。

 8月に中国税関は、61か国に輸出予定だった183万点の偽ラブブを押収したと発表。これは氷山の一角でしかなく、実際は何倍もの偽物が輸出されているという。日本でも状況は同じだ。

幼心をコケにする夜店まで

世界的ブーム「ラブブ」に偽物が大量流通…一体200円の粗悪品も。中国の“偽ラブブ工場”は大繁盛、実際に入手したそのクオリティは
関東某所のゲームセンターにて景品として並ぶ大量の偽ラブブ
「今夏は、全国的に夏祭りのくじ引き夜店に大量の偽物が並びました。子供たちは本物だと信じて遊んでたのでかわいそうですよ。あとクレーンゲームの景品でも偽物が多いですね。
地方都市に行くと雑貨店やリサイクルショップでも堂々と売られています」

 こう話すのは関西に住むECショップのバイヤーだ。

「知り合いのバイヤーは、大阪のテキヤの元締に大量の偽ラブブを卸して大儲けしてた。そいつはメールで中国の業者とやりとりし、着荷したら相手に渡すだけだと言ってましたね。越境ECや個人輸入をやってる人なら、誰でもできちゃうから個人で仕入れてネットで売ってるヤツも多いんだろうね」

偽ラブブ業者は“よりどりみどり”

世界的ブーム「ラブブ」に偽物が大量流通…一体200円の粗悪品も。中国の“偽ラブブ工場”は大繁盛、実際に入手したそのクオリティは
「1688」上には多数の偽ラブブ卸売製造業者が存在していた
 記者は、さっそく教えてもらったアプリにアクセスしてみた。中国EC大手・アリババが運営するBtoBプラットフォーム「1688」では、卸売業者やおもちゃ工場と直接、連絡がとれるという。

「拉布布(ラブブ)」で検索してみると、案の定、大量の業者が出現した。どの業者も一体あたり200~500円と激安価格で提示している。

 そのうちの一つ、広東省深圳の業者にバイヤーを装ってメッセージを送ると返事が来た。

「単価は500円。100個以上買うなら460円。『1:1(本物と同レベル)』の高品質だよ。ホログラムやQRコード付きの場合、単価は800円。箱もインクも本物と同じものを使用しているので問題ない。
日本にも送ったことあるから安心してください」

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卸売業者が送ってきた在庫の画像。大量にある
 この業者は在庫が豊富だとアピールするためか、いろんな種類の偽ラブブの動画や画像を送ってきた。

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偽ラブブ製造工場から送られてきた作業の様子
 さらに、工場の摘発や輸出時の押収についても「安全だ」と言い張るではないか。配送費に関しては別の業者を紹介された。

 日本への輸送費を聞くと、「容積換算重量30㎏で約1万4000円、15㎏で7600円。EMSの直行便だ」との返信があった。

偽物を入手! そのクオリティは…

世界的ブーム「ラブブ」に偽物が大量流通…一体200円の粗悪品も。中国の“偽ラブブ工場”は大繁盛、実際に入手したそのクオリティは
届いた230円のサンプルは縫製が粗く模倣レベルがかなり低かった
 次に接触したのは、世界最大の日用品輸出マーケットを持つ義烏(浙江省)の工場だ。

「単価は230円。包装は普通のOPP(透明のプラ袋)。日本に送ったことはないけど、たぶん大丈夫だ。輸出は問題ない。まず中継地点の倉庫に送る形になる」

 ここで記者は「たくさん買う予定なので、サンプルをまず送ってほしい」と返した。協力してくれる中国在住日本人の住所を送付先として伝えると、3日後に商品が届いた。

 しかし、クオリティは相当低かった。
頭部から糸が飛び出ており、鼻の色が一部欠けていた。左右の耳の大きさも異なり、ラベルのQRコードは読み込めなかった。

 高品質なものから粗悪品までさまざまな偽ラブブが大量に流通しているようだが、中国事情に詳しいライターの広瀬大介氏はこう述べる。

「偽ラブブは『祖国版』や『東莞版』など産地によって格付けされていて、クオリティが異なります。真贋判定のQRコードを突破する精巧なものもありますが、そこから飛ぶ真贋判定サイト自体が偽物というケースがほとんどです。先日の中国税関の大量没収のニュースは、いわば対外的なアピール。実際は国内の工場が摘発されることはなく、野放し状態です」

米中関税戦争が偽ラブブを生んだ

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ある工場はPRのため堂々と偽ラブブ製造の模様をアップ
 では、こうした偽ラブブは日本の税関で押収されることはないのだろうか。前出のバイヤーはこう証言する。

「偽ラブブは衣類や他のぬいぐるみ、おもちゃと交ぜて送るようで、バレにくいのでしょう。ラブブに似たようなキャラグッズはたくさんあるので、日本の税関も見分けがつかないと思います」

 配送費を含めても一個あたり千円以下で仕入れた偽ラブブは、日本で数倍、ときには10倍以上の価格で販売される。ひと儲けを企んで、商材として扱う国内業者が出てくるのも当然だろう。

 真贋鑑定システムを導入するフリマプラットフォーム「スニーカーダンク」によると、7月の偽ラブブの流通量は1月に比べ、2.7倍に増加したという(同社プレスリリース)。

 日本だけでなく、欧米でも偽ラブブは社会問題化しているが、中国政府はなぜ本気で摘発しないのか。
中国に拠点を置く調査会社・アライジェンスコンサルタンツの太田基寛氏はこう述べる。

「近年、中国における模倣品関連の摘発は食品や医薬品、自動車部品がメインです。これらは生命に関わるので、最優先事項となっています。一方、ラブブのようなおもちゃは優先順位が低いというのが実情です。さらに米中関税戦争の影響も大きい。おもちゃ産業は対米輸出が激減し、どこも苦境に喘いでいます。昨年に続き今年もクリスマス商戦向けの輸出は絶望的です。偽ラブブの黙認は、苦境に立つおもちゃ産業への救済だという声もあります」

 ブームが続く限り、偽ラブブの国内流入は続きそうだ。

偽ラブブにもいろんなバージョンが!

世界的ブーム「ラブブ」に偽物が大量流通…一体200円の粗悪品も。中国の“偽ラブブ工場”は大繁盛、実際に入手したそのクオリティは
「QRコードはある? ホログラムの品質は?」「QRコード付きは800円だ」(編集部訳)
•祖国版……出荷単価:400~800円
中国全土の工場で作られている偽物。主に中国内で流通している。作りは粗く、容易に偽物だと判別が可能

•東莞版……出荷単価:800~2000円
広東省東莞市の工場で作られた高品質の偽物。QRコードの真贋判定を突破するものも。
欧米向けに輸出される

•義烏版……出荷単価:200~400円
浙江省義烏市で作られた粗悪品。途上国を中心に海外にも数多く輸出される。縫製は雑で模倣レベルは著しく低い

•台州版……出荷単価:700~1200円
浙江省台州市で作られた、東莞版と義烏版の中間的存在。価格と模倣レベルのバランスの良さから最近増えている

取材・文・撮影/週刊SPA!編集部

―[中国発[偽ラブブ密輸ルート]の実態]―
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