自炊のレベルが上がってきて、ここ最近はグラタンや揚げ物を楽しんでいる。32年間生きてきた中で10分も包丁を握ったことないにもかかわらず、ホワイトソースも作れるし、天ぷらも揚げられるようになったのだから、大したものだろう。

そんな自信をつけていた折、大戸屋に昼食で入った。そこで、期間限定のアボカドタルタルのハワイアンチキン南蛮と、今が旬のサンマを一尾を食べたところ、あまりにも美味しすぎた。

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大戸屋に入るのは「バカ」だと思っていた過去

10代や20代の頃は、大戸屋に入るのは「バカ」だと思っていた。なぜなら、家で食べられるような料理を、わざわざ外食で食べる必要はないと思っていたからだ。それに、どのメニューも優しい味付けで、ジャンクフードや牛丼で鍛えられた若者の舌には物足りなく感じていた。

それが、32歳になった今では、定食のバランスが信じられないくらい「ちょうどいい」と感じる。長らく母親の手料理を食べていない……。30代独身に欠けていた栄養素が、すべて賄われている気がする。テレビゲームでは、きのみや骨付き肉を食べると体力が回復するが、それと同じように、大戸屋で食事をすると体が浄化されるような感覚に見舞われた。

改めて、自信満々に作ってきた自分の料理は、料理なんて代物ではないと思い知らされた。

再び、自炊キャンセル界隈に戻ってしまいそうなほどのクオリティの食事を、2,000円で目一杯堪能するには、どのような組み合わせが良いのだろうか?

「大戸屋風チキン南蛮定食」を主軸に

大戸屋に入るのは「バカ」だと思っていた32歳記者が“豹変”…定食のバランスが「ちょうどいい」「浄化される」と感じるようになるまで
今回のラインナップ。すべてのメニューに必然性が存在する
平日の夕方、バスがひっきりなしに通る再び吉祥寺駅前の大戸屋に入った。席は空いているが、ピークタイムだったらしく、厨房にいる店長のような人がアルバイトの男性に「まず、お客様に水を! 配膳はあとでいい!」と叫ぶと、バイトの男性は「タブレットが表示されない問題の優先順位は!?」と逆に質問していた。最悪のタイミングに入ってしまった。

幸い、筆者が通されたテーブルのタブレットは正常に作動し、水も運ばれてきたため、冷静に組み合わせを考える。
そして今回は、大戸屋風チキン南蛮定食(1030円)、白ごはん特盛り(110円)、ミニ香味唐揚げ(350円)、生さんまの炭火焼き一尾(630円)という布陣に決めた。足が少し出て、合計2120円。

定食を基本ベースにして組み立てていくのが、セオリーというものだろう。チキン南蛮以外にも、大戸屋にはもろみチキンの炭火焼き、鶏と野菜の黒酢あん、肉野菜塩こうじ炒めなど、魅力的な定番メニューがある。しかし、前回食べたアボカドタルタルのハワイアンチキン南蛮の味が忘れられなかったのだ(なお、このときにはすでにメニューから外されていた)。

勘違いしている読者も多いようだが、筆者はフードファイトをしたいわけではない。いかに2000円という制約の中で、美味しく、そしてお腹いっぱい食べられるかという「最適解」を探りたいだけだ。

白ごはん特盛りとミニ香味唐揚げを頼んだワケ

もしも、ただ腹いっぱい食べるのが目的であれば、連載1回目の日高屋ではチャーハンの大盛りを2つ頼んでいただろう。確かに腹は膨れるが、それでその店を堪能できるかと言ったら、そうではない。むしろ、損をしている。

別にはなまるうどんや丸亀製麺でうどんを頼まず、ご飯単品だけを注文して、無料の天かすをトッピングし、卓上のソースをかけて「これが最適解だ!」と言いたいわけでもない。その辺は、しっかり読者にも理解していただきたい。

大戸屋に入るのは「バカ」だと思っていた32歳記者が“豹変”…定食のバランスが「ちょうどいい」「浄化される」と感じるようになるまで
炊き立ての米を満喫するため、おかずは盤石の布陣に
そのうえで、ご飯は特盛りにする。
たくさんのおかずを前にして白ごはんを食べ続けることが理想図だ。

チキン南蛮定食であれば、唐揚げを追加するのは「鶏かぶり」になる。300円台のサイドメニューであれば、かぼちゃコロッケ、肉じゃが、ひんやり豆腐サラダなどもある。

ただ、筆者は別に野菜が食べたいわけではない。あくまでも必要なのは「米のおかず」だ。その点、唐揚げという食べ物は非常に便利だ。一口サイズになっているため、その倍の米を口の中に放り込めばいい。それが3つもあるのだから、唐揚げを選ばないという選択肢はないだろう。

生さんまで「食の旬」を感じる

大戸屋に入るのは「バカ」だと思っていた32歳記者が“豹変”…定食のバランスが「ちょうどいい」「浄化される」と感じるようになるまで
ある意味同調圧力に屈したと言えなくもない
そして、おかずとしてもう1品選んだのが、生さんまの炭火焼き一尾。季節メニューを選ぶのはこの連載の「御法度」かもしれないが、生さんまの魅力には抗えなかった。

同じ魚であればミニさばの炭火焼きにしておけば2000円に収まった。しかし、今いる客の半数はさんまを食べている。
だったら、筆者も食べないわけにはいかない。

結論から言うと、生さんまを頼んで正解だった。普段、なんとも言い難い野菜炒めばかり食べている筆者は、「食の旬」というものがわからない。というのも、野菜炒めはパックに入ったカット野菜を、フライパンで肉と一緒に炒めているだけだからだ。

しかし、生さんまは確かに「今が旬」だということを、食べているうちに十分理解できた。身も分厚く、秋にしか食べられなかった「懐かしさ」も味わえた。

仮に家のグリルで焼いても、このクオリティにはならなかっただろう。どうやら、しばらく、また自炊キャンセル界隈に戻りそうだ。

大戸屋に入るのは「バカ」だと思っていた32歳記者が“豹変”…定食のバランスが「ちょうどいい」「浄化される」と感じるようになるまで
満足度の高い晩餐だった
【今回の摂取カロリー:2357kcal】

<TEXT/千駄木雄大>

―[「チェーン飯」を2000円で爆食い]―

【千駄木雄大】
編集者/ライター。1993年、福岡県生まれ。出版社に勤務する傍ら、「ARBAN」や「ギター・マガジン」(リットーミュージック)などで執筆活動中。著書に『奨学金、借りたら人生こうなった』(扶桑社新書)がある
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