難産の末に生まれた高市政権。日本では初の女性首相とあってすんなり決まるかと思いきや、ここまでもつれたのはやはり高市氏につきまとう“極右”のイメージゆえだろう。
では、世界と比較した時、日本は客観的にどのような地点に今、位置しているのか?
そこで、元国連職員でロンドン在住の著述家・谷本真由美氏(Xでは“めいろま”としてフォロワー25万人)による新連載「世界と比較する日本の保守化」がスタート。一般的な“保守VSリベラル”の対立軸とは異なる、世界のリアルな実情をお伝えする。
日本人は世界の保守化の本質を理解していない
世界では、ここ最近、これまではリベラルや左翼が強かった国でも保守的な考え方を支援する人々が激増しており、大きな波になっている。この保守化の流れはアメリカを始めとして欧州の主要先進国だけではなく、東欧や南アジアまでも含んだ大きなうねりになっている。日本ではこの保守化の流れは特定国や政治家によって仕込まれたものであると言う論調がメディアを賑わせているが、 しかし実際にそうなのだろうか?
また、他の国の保守化の流れと日本との違いはなにか?
日本のメディアだけを見ていると、なぜ世界がこんなに保守化しているのかわかりにくいが、 欧州と日本を往復している私からすると日本人はその背景を充分理解していないように思う。
日本人が無視してきたグローバル化の流れ
先進国の保守化に関して 日本人が 一番最初に思い起こすのがアメリカだろう。例えば、90年代のクリントン政権の頃はグローバル化を推進し、当時の世界経済の自由化の波に乗る「経済的リベラリズム」と「治安・国境管理の強化」の二つが共存する政策を実施していた。
1990年代のアメリカは、冷戦終結により、国家間の移動がより緊密になり、より開けた世界、より自由な貿易、より自由な人の移動を促進し、世界経済の繋がりが強化される中で、自国をより豊かにするという課題を抱えていた。
1994年には貿易協定であるNAFTA(北米自由貿易協定) を締結し、関税の撤廃、投資の自由化、労働条件の均一化によりカナダとメキシコとの経済的結びつきを強化した。
しかし人の移動や貿易の自由化は様々なマイナス面ももたらした。
アメリカの調査機関であるピューリサーチによれば、90年代には年間平均でおよそ110万人程度の移民がアメリカに流入し、ピーク時の2000年には150万人に達している。
ところがその一方で、当時のクリントン政権はIT改革の波に乗るために技能労働者向けのビザである「H1-B」の上限を大幅に上げた。
高度な技能を持つIT系技術者等は主にカリフォルニアや東海岸に在住し、そのままアメリカに移住した。
その一方で、クリントン政権下では、カリフォルニアなどでの不法移民問題が顕在化し、不法滞在者や低賃金移民には厳しい政策を取っていた。
今であれば 超保守系の排他主義と言われてしまうような厳しい移民政策を行っていたのである。これは、日本だけではなく各国のリベラルや左翼が指摘しない非常に都合が悪い事実である。
グローバル化に飲まれていたアメリカのリアル
当時のアメリカはITバブルで大変な好景気にあり、私の同級生の少なからずが卒業後に高度技能者としてIT系の会社やコンサルティングファームなどに就職し、そのままアメリカに定住している。 当時はビザの申請枠が非常に多く、申請さえすればほとんどの大学院レベルの外国人留学生は就労許可を取得することができた。
一方、当時のアメリカは産業構造が変化していたので、従来は安定した仕事を得ることができた製造業は田舎からどんどん減っていた。1980年代までは地元の高卒の人々でも安定した雇用を得ることができ、家を買うこともできたが、親世代のように安定した雇用を得ることができなくなった私の知り合いたちは、学歴もそれほど高くないので、軍に応募したり、本当はやりたくないサービス業などについていた。
私たちのような外国人留学生がIT系の会社やコンサルティングファームに就職して高い報酬を得る影で、彼らの報酬はどんどん下がっていく一方だった。
その後、好景気に沸くアメリカでは大学の学費がどんどん上がっていった。
私が90年代に在籍していた大学の学費は、今や6倍になっている。学費だけで年に500万円かかる大学も珍しくない。
そんな子供たちは左翼系のイデオロギーを大学で学び、LGBTQや環境保護、女性の人権、多様性などを日常的に口にする。だが、彼らのいう「多様性」には、食品工場や建設資材を扱う工場で働くごく普通のアメリカの労働者たちは入らない。
「ごく普通」の人々が溜めた怒り
グローバル化の恩恵を受けた人々と、取り残された「ごく普通」の人々の生活圏はますます分断していった。アメリカでトランプ大統領が大人気になり、保守が支持を得るようになったのは、このような社会の分断が拡大したからだ。
その変化を実際にこの目で見てきた私にとっては、トランプ大統領を支持するアメリカのMAGAの人々を真っ向から否定する気にはなれない。
彼らの多くはとてもシンプルで明るい人々で、 私のような外国人に対してはとても親切な人々だ。
バイデン政権時代、テレビでは多様性ばかりが強調され、「不法移民を受け入れろ」と言うメッセージが繰り返された。
不安定な雇用の中で食肉工場で不法移民のメキシコ人と働き、安くはない税金を払う気の良いアメリカ人たちが心の中に溜めた怒りは、相当なものだった。
民主党は彼らにもっと貧しくなれ、法を犯す外国人を受け入れろ、それが多様性なんだと繰り返していたからだ。しかし寛容になっても、毎日ハンバーガーを焼き、床を掃除する彼らはまったく感謝されない。子供を大学に入れることさえできない。老後は野垂れ死に確実だ。
欧州先進国が保守化する理由
そして、このような流れは私が働いていたイタリアや住んでいるイギリスでも似たようなものだ。かつてに比べ、一般の人々の生活はかなり苦しい。アメリカと同じように製造業は海外に移転してしまい、かつては見習いとして中学を卒業した後に働き、それなりの給料を稼げた人々も、今は飲食店やスーパーで非正規の仕事をしなければならない。
その一方で、不法移民や自称難民の人々が大量にやってきて1泊2万円から3万円のホテルに無料で宿泊し、難民認定が下りると生活保護になって地価の高い地域にある公営住宅に住んでいるのである。
都市部の高価な不動産は外国人が買い漁っていて、一般の人々が購入するのは不可能だ。 皆郊外の辺鄙(へんぴ)なところに住んで長時間通勤する。
大学を出ても昔のように良い仕事はなく、条件が良く給料の高い仕事にありつけるのは、ごく一部の超高度な理系の知識を持った人々やコネがある人々に限られている。独裁国出身の外国人オーナーや客の使用人として給料を稼ぐ日々だ。他に選択肢はない。
イタリアでメローニ政権が成立し、イギリスでは超保守系のリフォームUKが大人気になるのは必然的だった。
これらの国で保守層が台頭する理由はシンプルなものだ。
「昔のように、ごく普通の人々が安定した仕事を手に入れ、家を買い、子供を大学に入れられる収入を得られるようにしてくれ」という要望を反映しただけに過ぎない。彼らは決して排外主義ではない。
日本も保守化の流れに追随するのか?
それでは、このような保守化の傾向は日本でも同じであろうか?日本は経済的な自由を推進する一方で、福祉などは大変手厚く、賃金格差は先進国の中でも最も低く抑えられ、機会の平等だけでなく経済状況の平等も維持されていた。
他の国の人々から見ると、日本というのは資本主義でありながら極めて社会主義的な国である。つまり、保守主義とはかなり距離がある国だった。
ところが、今回自民党の総裁に保守系の高市氏が選出されたことからわかるように、日本でも他の先進国のように、特に若い人を中心に保守主義が支持を得るようになっている。
そして、その主張は他の国と非常に似通ったものだ。皆、昔のような人並みの生活を送りたいだけだ。
ただし、日本の場合はまだまだ格差が小さく、多様性やLGBTQの押し付けも他の国よりはマイルドなので、アメリカや欧州より主張には緊急性がない。ただ、この先はどうなるかわからない。それは、今後の自民党の政策次第だろう。<文/谷本真由美>
―[世界と比較する日本の保守化]―
【谷本真由美】
1975年、神奈川県生まれ。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。
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