開幕したワールドシリーズでも活躍が期待される大谷翔平。ナショナル・リーグ優勝決定シリーズ第4戦では打者として3本塁打、投手として10奪三振を記録し、シリーズの最優秀選手(MVP)に選ばれた。
「二刀流」の活躍は米国メディアでも「伝説的な夜」と報じられ大々的な注目を集めた。次の偉業を期待してしまうのは当然ながら、ジャーナリストの森田浩之氏は「二刀流の完全復活を遂げた今こそ、大谷翔平の“限られた輝き”を見つめるべき時」であることを強調する(以下、森田氏による寄稿)。

大谷翔平が二刀流復活

大谷翔平「二刀流の完全復活」。ポストシーズンで10奪三振&3...の画像はこちら >>
 10月17日、ドジャースの大谷翔平が「二刀流」選手としての足跡を歴史に深く刻んだ。ポストシーズンのナ・リーグ優勝決定シリーズ第4戦で、大谷は投手として7回途中までを無失点に抑え、10個の三振を奪った。一方、打者としては実に3本塁打を記録。ドジャースを2年連続のワールドシリーズ進出に導いた。

 これまでもその投打の活躍が「まるでマンガ」と形容された大谷だが、もうマンガをも超えた次元に入りつつある。何しろ先発投手が、打たれたヒット(2本)を上回る数のホームランを打っているのだ。

 大谷が戦うワールドシリーズの結果がどうなろうと、来季も彼への期待はさらに膨らむ。ファンは大谷に、つい次の偉業を期待してしまう。だが、少し冷静になってみたい。私たちは今、大谷翔平の絶頂期を目撃しているのではないか。常に「次」を期待することは、大谷に酷ではないのか。


 大谷は今季、トミー・ジョン手術(内側側副靱帯再建術)後のリハビリから投手として復帰し、14試合、計47イニング(回)を投げた。1勝1敗ながら62三振を奪い、平均球速も手術前を上回っている。

 打者としては自己最多の55本塁打を放ち、MLBトップの146得点を挙げるなど、変わらぬ存在感を示した。これにポストシーズンの「10奪三振&3本塁打」の大活躍が加わったことで、二刀流の完全復活を誰もが確信した。

今が大谷の絶頂期、二刀流は長くは続かない

 これから大谷はどこへ歩むのか。一つ確かなのは、さすがの大谷といえども、超人ではないということだ。

 遠からず直面するのは、投手を続けるかどうかという決断だろう。2度目のトミー・ジョン手術を経て投手として復帰した大谷は、二刀流のシーズンが多く残されていないことを知っているはずだ。

 大谷翔平という存在は、多くの日本人にとって唯一無二だ。どんなに気持ちが沈んでいても、大谷が本塁打を打てば元気をもらえるという人は多い。大谷のMLBでの大活躍を、日本人として誇らしく感じる人も無数にいる。

 ただし5年後か8年後かはわからないが、いずれ彼はグラウンドを去る。
それは避けられない現実だ。けれども大谷の驚異的な活躍を当然のように待つ私たちは、彼がこの時間を限られたものとして生きていることを忘れてしまう。

 来季を迎えるときも大谷は、誰も見たことのない偉業を成し遂げる準備を整えているだろう。見事によみがえった二刀流の今を、私たちは限りある日々として静かに見つめていけばいい。

大谷翔平「二刀流の完全復活」。ポストシーズンで10奪三振&3本塁打の伝説的活躍も“限られた輝き”をどう見つめるべきか
森田浩之
<文/森田浩之>

【森田浩之】
もりたひろゆき●ジャーナリスト NHK記者、ニューズウィーク日本版副編集長を経て、ロンドンの大学院でメディア学修士を取得。帰国後にフリーランスとなり、スポーツ、メディアなどを中心テーマとして執筆している。著書に『スポーツニュースは恐い』『メディアスポーツ解体』など
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