しかし、多くの企業が営業人材を求める一方で、転職活動が思うように進まなかったり、転職後にミスマッチを感じて早々に退職したり、“不幸な転職”に陥るケースが後を絶たない。営業とはいわば「売り込むプロ」だ。しかし、転職という「自分を売り込む場所」で失敗してしまうのは、どんな原因があるのか?
そこで今回は、「セールスエバンジェリスト」として効果的な営業ノウハウの伝導を行う今井晶也氏と、営業職の転職支援を手掛け『営業の転職』という著書を上梓した梅田翔五氏による対談を実施。転職におけるリアルな課題から、年収1000万円を目指す方法、さらにAI時代における“最強の営業”とはどんな人材なのか?……という話題まで、様々なテーマについて語ってもらった。
職務経歴書はどこまで“盛って”いいのか?
——転職市場では、職務経歴書を「盛る」テクニックも広まっています。この「盛り」と「ウソ」のボーダーラインはどこにあると思いますか?梅田 過去に対する「盛り」はウソだと思います。やったことのないことを「やりました」と言うのは経歴詐称ですから。一方で、未来に対して「こういうことをやります」と宣言するのは、意思表示であり「盛り」ではない。そこが境界線ですね。要は「回収可能かどうか」です。今はハッタリでも、それが回収可能ならいいと思います。
今井 ただ、採用活動はある意味で自分という商品を売る模擬商談です。自分を魅力的に語れない人が、自社の商品を魅力的に語れるとは思えません。
例えば、「製造業の顧客の導入事例を1つ作った」という事実があったとします。これを、転職希望先が今後製造業にアプローチしたいという方針を知った上で、「私は製造業での支援事例が豊富にあり、御社のシンボリックな事例を作れると思います」と表現する。これは、事実を相手に合わせてカスタマイズし、物語として魅力的に伝える力です。こういう「合わせ力」は非常に重要だと見ていますね。
年収1,000万円になれる営業職の条件
——年収で言えば、やはり営業職も「年収1,000万円」は一つの目標として意識されるのでしょうか?梅田 年齢によりますが、20代では600万円、30代では800万円程度を目標にする転職者が多い印象です。そこに自信が加わると1,000万円というワードが出てきます。外資系IT企業などでは1,500万円~2,000万円という数字も聞かれますね。
正直なところ、営業職で年収1,000万円に到達するのはかなり希少です。役職を上げるか、平均年収が非常に高い業界(総合商社や人気メーカー、外資系など)に入るか、インセンティブで稼ぐか——。この3つのいずれかしかありませんが、どれもハードルは決して低くありません。
今井 僕が思うに、1,000万円の壁を越えられるかどうかの分かれ目は、「リスクをとれる人」になれるかでしょう。外資系は年収が高い分、業績次第でレイオフされるハイリスク・ハイリターンな環境です。
また、部長などの役職に就く場合も、既に仕組みが完成した大企業より、これから仕組みを作るベンチャー企業に入り、事業を大きくすることでリターンを得るという道があります。これもまた、リスクを取る行為です。1,000万円の壁の裏には、リスクを取れるかどうかが存在しているように思います。
梅田 まさにその通りで、転職によって営業として年収を上げるには「リスクをとる」ことが不可欠です。転職は株式投資に近いです。みんなが「爆伸びしている」と言う人気のスタートアップに入っても、もう“旨み”は少ない。まだ無名な会社や、外資ITのようにプレッシャーの大きい環境を選ぶなど、アップサイドを狙って投資する感覚が、年収を上げるための転職の筋道だと思います。
梅田 今でも「35歳」は一つのポイントだと思いますね。限界説が薄れたのは、「スキルがある人」という前提付きです。例えば、エンタープライズセールスの経験やマネジメント経験など、専門性があれば35歳を超えても転職は可能です。しかし、未経験の業界や全く異なる種類の営業職に挑戦する場合、今でも35歳がボーダーになることが多いですね。
今井 採用する側から見ると、35歳という数字自体に深い意味はありません。問題は、その年齢になると一般的に給与水準が高くなっていることです。その方を今の年収を下げずに迎え入れると、「なぜ業界経験もないあの人が、自分たちより高い給料をもらっているんだ」と、既存社員の不満に繋がり、組織崩壊の引き金になりかねません。
私たちは35歳という記号を見ているのではなく、その年齢の人が入ってくることで起こり得る“社内のハレーション”を懸念しているのです。
——では、40歳なら「役職がなく年収も高くない人」のほうが採用しやすい?
今井 いえ、今度は逆に「なぜこの人は40歳になっても役職がついていないのだろうか」という、キャリアに対する問題意識が生まれます。だから難しい問題です。
梅田 本当にその通りで、「なぜこのタイミングで転職するのか?」という疑問も湧きますし、受け入れ側の不安もあります。ミドル年代の転職は、特に営業職では難しいのが現実です。
営業職の中で生まれる「AI格差」
——ここ数年は急速にAI活用が広まっていますが、営業の現場では「使う人/使えない人」の格差がすでに生まれていますか?今井 めちゃくちゃ生まれていると思います。使っている人と使っていない人の差はもちろんですが、使っている人の中でも、うまく使えている人とそうでない人の発想には大きな隔たりがあります。
ただ、知識や経験、判断軸を持たない人がAIを使っても、たいしたアウトプットは得られません。逆に、それらを持つ人が使えば、強力な武器になります。
例えば「顧客理解」という業務を分解し、IR情報の要約など、AIに任せたほうが効率的な部分をアウトソースする。
梅田 結局、AIとのコミュニケーションがうまいかどうかが重要ですよね。「対話型生成AI」という名の通り、要件を明確に伝え、何を期待しているかを的確に指示できなければ、いい情報は引き出せない。AI時代だからこそ、国語力のような根源的なコミュニケーション能力が試されるのだと思います。
これからの時代の「最強の営業」
ーー最後に、これからの時代の「最強の営業像」を言葉にすると、どのようなイメージになりますか?梅田 私は、営業の成果は「量×質」という式で表せると考えています。「量」は、AIを活用して生産性を上げ、どれだけ多くの顧客と接点を持てるか。ここはAIとの相性が非常にいい部分です。
一方で「質」は、AIが集めた情報を基に、最終的に人間としてのフィルターを通して価値を高める部分です。たとえば、AIが生成した文章をそのまま送るのではなく、「この人が自分で書いた」と感じさせるような人間味を加える力。AIで量を最大化し、人間力で質を最大化する。この掛け算が、これからの営業の成果に繋がると考えています。
今井 私は、これからの最強の営業は「三河屋のサブちゃん」(アニメ『サザエさん』に出てくる酒屋の店員)ではないかと思っています。
ただしそれだけでなく、これからの時代に強いのは「AIを武装した三河屋サブちゃん2.0」です。要するに、顧客が困ってAIで検索する前に「あいつに聞いてみよう」と電話をかけてもらえる存在になることです。コミュニケーションコストが信じられないほど低く、「どう思う?」と気軽に聞かれる人。そういう営業には、AIがアクセスできない「ここだけの話」という一次情報が大量に集まります。この一次情報こそが、最強の武器になると考えています。
梅田 それはつまり、営業自身が商品の一部になっているということですね。その人から買うという営業体験自体がサービスになっている。最強の営業とは、その存在自体がサービスの始まりになっているような人物なのかもしれません。そういった人は、間違いなく転職市場でも求められる人材になるでしょうね。
■今井晶也
株式会社セレブリックス取締役/執行役員/CMO/市場開発本部長/セレブリックス営業総合研究所所長。
■梅田翔五
営業一筋で10年以上キャリアを積み、医薬品営業、スポンサー獲得営業、人材紹介営業マネージャー、SaaS営業マネージャーなどを経た後に株式会社セレブリックスに入社。営業職に特化した人材紹介事業(SQiL Career Agent)を立ち上げ、事業責任者を務めた後、現在は複数の人材サービスを取り扱うキャリア&リクルーティング事業本部の部長代理を務めている。10月に『営業の転職 成果と納得を手にするキャリア戦略』を上梓。Xアカウント/@job_and_life
<取材・文/秋山純一郎 撮影/荒熊流星>
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