「#P活」「#動画売ります」――そんなタグを見かけたら、軽い気持ちで近寄ってはいけない。DMを送った瞬間、あなたは“犯罪者”にも“被害者”にもなり得るのだ。
いまSNSで蔓延する、デジタル美人局の闇を追った。

下心を巧みに刺激し、「一線」を越えさせる

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 2畳一間、一泊4400円の漫画喫茶。簡易な板で仕切られただけのスペースが、奥山優奈さん(仮名・23歳)の“城”だ。

 床には電子タバコの吸い殻が散乱し、大人のおもちゃや膣内用の潤滑ゼリーなどの“商売道具”も転がっている。

「去年まで都内のデリヘルで働いてたんですけど、太りすぎでクビに。店の寮も追い出されて、立ちんぼもしたけど、客がつかず。結局、地元の埼玉に戻るも、実家には帰れないのでネカフェ暮らし。支援してくれる男性をXで募集しています。物価高の影響で生活はギリギリ。“大人”だけじゃなく、オプションでも稼がないと生きていけなくて。今までNGだった動画撮影にも仕方なく応じています」

SNSに蔓延する“美人局ビジネス”

「気の弱い男が多いから楽勝」女子高生になりすましカネを強請る男も…SNSに蔓延する“デジタル美人局”の巧妙な罠
[SNS美人局]の怖い手口
 こうした女性は少なくない。X上には「#P活」「#裏垢女子」などの投稿が溢れている。彼女のように「大人(本番行為)1万5000円」「プチ(=口淫)5000円」といった料金設定で客を募る投稿は実に多い。

 だが一方で、SNS上の「パパ活」や「援助交際」を装い、悪質な恐喝を行う美人局ビジネスが急増している。


「SNSで買春相手を探す男をカモにして、わざと法律の一線を越えさせてからカネをむしる。気の弱い男が多いですから、楽勝ですよ」

 そう語るのは、自らもSNSでの買春が趣味だという上林誠二さん(仮名・42歳)。彼の語る“スキーム”は、男の心理を巧みに突いたものだった。

「一線を越えさせるといっても、実際にアポを取って会って行為に及んだ後に『不同意性交だ』と騒ぎ立てるような大げさなやり方じゃない。多くはスマホだけで完結します。典型は“面会要求罪”に誘導してから、ゆすりをかける手口です」

 上林さんの手口は、まず「#FJK」のタグを使って、カモをおびき寄せるところから始まる。

「FJKとは『First JK』の略で、高校1年生の女子を指します。相手が『2万円でどう?』なんて軽い気持ちでDMを送ってきた瞬間、自分は投稿者の“父親”を名乗り、『娘は16歳未満です。あなたの行為は面会要求罪に該当します。示談金100万円を2週間以内に支払ってください。支払いがなければ被害届を提出します』といった内容の脅迫メッセージを送る。こうしてカネをむしるんです」

“要求しただけ”でも罪はすでに成立!

「気の弱い男が多いから楽勝」女子高生になりすましカネを強請る男も…SNSに蔓延する“デジタル美人局”の巧妙な罠
「SNSで買春相手を探す男は気が弱いのが多い。『今から○○駅で会える?』なんて投稿はほぼ詐欺。カモをおびき寄せる口実です」(上林さん)
 では、実際に会わずに動画のやり取りだけなら罪に問われないのか。答えは否だ。


「映像送信要求罪は16歳未満に卑猥な画像や動画を要求した時点で成立します。このため『17歳ならセーフだろ』と思い込んで動画を求めるカモ男が少なくない。けど、児童ポルノ禁止法では18歳未満の性的画像そのものが処罰対象。つまり、17歳と名乗る女に釣られて送信した時点で、犯罪成立→脅迫ネタ化と男側はすでに違法行為の構図に巻き込まれている。私はその“違法状態”をわざとつくり出し、『通報されたくなければカネを払え』と脅すのです」(上林さん)

 年齢の問題をクリアしても、油断は禁物だ。18歳以上を装ったアカウントにも、別の手口が潜んでいる。

「動画販売は多くが先払い制。送金の際に個人情報を聞き出して、それを“人質”にカネを巻き上げる材料にします。本名のまま振り込んでくる男は少なくないし、PayPayでの送金でも『開示請求すれば身元は割れるぞ』とブラフで言えば心が折れることもある。最初から動画を送る気がなく、先払いだけさせて逃げるシンプルな詐欺もあります」(上林さん)

アラフォー女性ですらトラブルに発展することも

「気の弱い男が多いから楽勝」女子高生になりすましカネを強請る男も…SNSに蔓延する“デジタル美人局”の巧妙な罠
[SNS美人局]の怖い手口
 一見、児童ポルノと無関係なアラサー・アラフォー女性相手でさえ、油断は禁物だ。

「近年は『既婚者向けアプリ』の影響もあってか、『人妻』『不倫』などのワードが人気。中には『妊婦』と称する悪趣味なものまである。これらも後になって“夫”が登場し、脅しのネタにします」

 実際に「妻に内緒で寝室を生配信」と謳い集客し、美人局に至った事例さえあると上林さんは言う。


「配信後に“妻”を名乗る人物から『性的姿態撮影罪で夫を訴えました。視聴者にも記録罪の可能性があります』とDMを送らせます。本人の同意なく撮影されたものと知りながら動画を保存すれば、『性的姿態撮影記録罪』で罪に問われる可能性があるから。むろん、DMを送るのは本当の妻ではなく、私のような男が大半ですけどね」

美人局はむろん悪だが、買春自体もまた違法

「気の弱い男が多いから楽勝」女子高生になりすましカネを強請る男も…SNSに蔓延する“デジタル美人局”の巧妙な罠
DMでのやり取りの例。料金を先払いすればブロックされ、動画を受け取れば脅される
「気の弱い男が多いから楽勝」女子高生になりすましカネを強請る男も…SNSに蔓延する“デジタル美人局”の巧妙な罠
DMでのやり取りの例②
 こうしたSNS美人局が横行する背景について、弁護士の加藤博太郎氏が指摘する。

「いまの司法は、女性が性被害を訴えれば客観的証拠がなくても警察が被疑者として取り調べ、勾留もためらわない。のちに不起訴や無罪となっても、“性犯罪事件の容疑者だった”というレッテルは消えません。だからこそ、恐怖から示談金を支払ってしまう男性が後を絶たず、その構造を利用した美人局集団が跋扈しているのです」

 では、万一こうした状況に陥った場合、どう対処するべきか。

「脅されても焦って支払わないこと。ただのおっさんが15歳のふりをして脅迫目的でやっていることも多いので、要求に応じるのは危険です。弁護士に相談するなりして相手の身元を確認することから始めるべきです」

 美人局集団が悪なのは言うまでもないが、SNSで買春しようとした時点で、男性側も法を犯している可能性があることを忘れてはならない。

デジタル美人局に悪用される3つの法律

•面会要求罪……1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
16歳未満にわいせつ目的で面会を求める行為を罰する罪。威迫、偽計、誘惑、または金銭的な利益の約束をして面会を求めることなどが該当

•映像送信要求罪……1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
16歳未満にわいせつな画像や動画を求める行為を禁じた罪。2023年、SNSを通じた性的搾取を防ぐ目的で面会要求罪とともに新設された

•性的姿態撮影罪……3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金
性的な姿態を本人の同意なく撮影した場合に成立。
撮影者だけでなく、その事実を知りながら動画を保存した人も「記録罪」に問われる

【弁護士・加藤博太郎氏】
加藤・轟木法律事務所代表。性的搾取全般の法的リスクと対策に詳しい。著書に『セックス コンプライアンス』(扶桑社新書)

※週刊SPA!10/28発売号より

取材・文・撮影/週刊SPA!編集部

―[[SNS美人局]の怖い手口]―
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