極上のパウダースノーを求め、世界各国からウインタースポーツを楽しむ人々が集う北海道のニセコ。’24年のインバウンドは過去最多を記録したが、地元ではさまざまな社会問題が表面化している。
その真相を追った。

住人の10倍の外国人観光客が訪れる「スキーの聖地」の現状

「地元民の怒りは限界」外国人観光客は住人の10倍…北海道・ニ...の画像はこちら >>
 北海道・新千歳空港から特急電車でおよそ3時間。日本が世界に誇るスキーリゾートは、交通至便とは言い難いエリアにもかかわらず、右肩上がりの活況を呈している。

「ニセコの雪質は粒子が非常に細かく、まるで水の上を滑っているかのような浮遊感が味わえます。30年以上前、オーストラリアから来たスキーインストラクターが惚れ込み、口コミによって世界中に魅力が広まりました。『雪』が観光資源となる事例は長野の白馬や新潟の妙高高原も注目されていますが、パイオニアとなったのは間違いなくニセコです」(地元の観光業従事者)

“蝦夷富士”の別称で知られる羊蹄山を囲むように、複数の自治体に跨がるニセコエリアの人口はおよそ2万人。

 だが、インバウンドだけで住人の10倍もの観光客が冬に集中して殺到し、一大マーケットが立ち上がり、その結果、現地には違法建築や無許可伐採などモラルなき開発が横行しているというのだ。

「地元民の怒りは限界」外国人観光客は住人の10倍…北海道・ニセコで横行する“モラルなき開発”の実態
スキー場のゴンドラ近くは、火鍋屋が流行
 10月中旬、SPA! 記者はオフシーズンで閑散とする現地を訪ねてみた。目についたのは、ハイシーズンに向け急ピッチで工事を急ぐ街の様子だ。

 高級別荘が立ち並ぶエリアで清掃業を営む日本人女性に声をかけると、こう語った。

「観光客の8割以上が12月から3月の間に押し寄せるので、今はその準備をしているところ。人手は全然足りなくて、私たちは小樽からバスで1時間かけて派遣されているんです。時給は2000円、移動時間もカウントされるので待遇はよいですが、それでも働き手が集まらない。
そのせいか、アジアからの労働者がめちゃくちゃ増えてます」

 中心部のひとつ、「ニセコひらふ」で飲食店を営む男性もこう言う。

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ニセコ価格を象徴する人気の銘柄「十四代」。相場の10倍だ
「太客はもっぱら中国人。わかりやすく高いメニューがウケていて、メニューに10万円のコースを用意すると皆それを注文します。お酒も高額で『十四代』という日本酒は1本14万円ほど。車で10分ほどの隣町に行けば1万円ちょっとで飲めるお酒ですがね」

北海道新幹線の延長でニセコバブルがさらに過熱

「地元民の怒りは限界」外国人観光客は住人の10倍…北海道・ニセコで横行する“モラルなき開発”の実態
郊外にも分譲地が点在している
「ニセコが日本人の街ではないってことは、冬に来たらわかりますよ」──清掃業の女性も、飲食店を営む男性も、口を揃えてこう言う。

 事実、現地で見かける別荘やコンドミニアムの販売を呼びかける看板は英字表記が主だ。

 ニセコひらふや花園といった人気エリアにあるコンドミニアムは100㎡未満の2ベッドルームでも億超えが当たり前で、土地の公示価格も前年比で10%近い上昇を見せている。

「地元民の怒りは限界」外国人観光客は住人の10倍…北海道・ニセコで横行する“モラルなき開発”の実態
北海道新幹線の工事が急ピッチで進む倶知安駅界隈
「東京―函館間で開通した北海道新幹線が札幌まで延長されることが決まり、’30年を目標に工事が進められています。ニセコに近い倶知安という駅にも停まることからさらなる地価上昇が期待され、ニセコに外資のカネ、人が雪崩を打って流れ込んでいる。あまりに急速に膨張しているので、地元民からは心配の声が上がるほどです」(前出・飲食店経営者)

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※数字は倶知安、ニセコ、蘭越の外国人宿泊客の延べ数
 ニセコに蠢く“欲望マネー”を象徴する存在といえば、外国人労働者向けの共同住宅だろう。倶知安駅から10分ほど歩いた農地に30棟からなる共同住宅を建設し、最大1200人の外国人労働者に向けて貸し出す計画なのだ。

「土地を所有するのはシンガポールの法人で、入居するのはスキー場界隈で働く外国人労働者。地元の人から『治安悪化を招く』と不安の声が上がるのも無理はありません。
地元団体による反対署名運動もむなしく、行政はこの計画を通してしまった」(同)

相次ぐ違法建築&伐採に水資源トラブルまで勃発

「地元民の怒りは限界」外国人観光客は住人の10倍…北海道・ニセコで横行する“モラルなき開発”の実態
地価が高いエリアは物件の転売&開発が同時並行で進み、重機を使った宅地造成も頻発
 地元民が外資に不信感を抱く根底には、今年に入って起きた開発トラブルが大きく影響している。

 6月、行政は羊蹄山の麓にある倶知安町巽地区で無許可で3.9haもの森林伐採を行ったとして、札幌の不動産会社に工事の停止を勧告した。

 また10月にはニセコ町に建てられた賃貸用のアパートが無許可で増築され、あろうことか下水管にも接続していないことが判明し、こちらの事業者にも行政は工事の停止と使用禁止を勧告。

 この2件とも主導していたのは中国資本だったことから、地元民の外資アレルギーに拍車をかけているのだ。

「地元民の怒りは限界」外国人観光客は住人の10倍…北海道・ニセコで横行する“モラルなき開発”の実態
[欲望マネーの街]ニセコの真実
「無許可伐採があったエリアはリゾートとは程遠い森林地区で、中国系企業は200戸もの豪華別荘地を開発するとYouTubeで宣伝していました。違法建築で建ったアパートもでたらめな工事で造られており、『下水道につなげられないからトイレは汲み取り式にする』と開き直る始末。『建てれば儲かる』と信じてルールを守らない中国系企業のやり方に、地元民の怒りは限界に達しつつあります」(地元紙記者)

現状に対する制度づくりの努力が不足している

「地元民の怒りは限界」外国人観光客は住人の10倍…北海道・ニセコで横行する“モラルなき開発”の実態
[欲望マネーの街]ニセコの真実
 外資に土地を買われ、乱開発に遭うニセコは、水源の問題も取りざたされた。

「外国人に買われた土地の地下に流れる水源も彼らのものになる。日本から水が奪われる」という類いの主張だ。だが、ニセコの現場を知る不動産関係者は、一刀両断する。

「水源の問題で言えば、ニセコ町は日本企業から土地の所有権を巡って多額の和解金を吹っかけられており、『外資だから』『中国だから』と批判するのは安直すぎます。問題の核心は、外資が開発する際に行政が適切な説明や指導を行えず、問題が大きくなってから立ち往生すること。無許可伐採や違法建築はたしかに目に余りますが、外資からすればアナウンス不足で『知らなかった』『注意もなかった』となっている。
法制度や条例の周知がなされていないことが問題の根にあるのです。ニセコが外国人によって価値を見いだされ、ここまで発展したのは紛れもない事実なのだから、地元に雇用を生み、税が落ちつつ、景観や自然をしっかり守れるようにする努力がまったくなされていない」

 雪国に舞う巨額のマネーが正しい方向に使われることを祈るばかりだ。

※週刊SPA!10/28発売号より

取材・文/週刊SPA!編集部 写真/産経新聞社

―[[欲望マネーの街]ニセコの真実]―
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