―[すこしドラマになってくれ~いつだってアウェイな東京の歩き方]―

ただ東京で生まれたというだけで何かを期待されるか、どこかを軽蔑されてきた気がする――。そんな小説家カツセマサヒコが“アウェイな東京”に馴染むべくさまざまな店を訪ねては狼狽える冒険エッセイ。
前回のサウナロウリュ初体験後に、カプセルホテルに泊まることになった著者の願いは今日も「すこしドラマになってくれ」

カプセルホテル★レポート【蒲田駅・カプセルイン蒲田(後編)】vol.24

 前回「ガーデンサウナ蒲田」にて人生初めての辱めならぬロウリュデビューを果たした私は、その後、交互浴3セットもバッチリ決めて、しおしおに干からびていた。

 こんなに疲れることを率先してやりたいだなんて、サウナ好きの皆さんは一体どんな体力してるんですか!? あとは眠るだけという状況でなければ絶対に無理。無理だわ。でも今日だけはできる。なぜなら私はこのまま、施設内のカプセルに泊まるから!

 ということで、まずは腹ごしらえに食堂でグラスビールと生姜焼き定食をいただくことにする。がらんとした食堂。パンクバンドかプロレスラーをイメージさせる長髪の男性店員が、生姜焼き定食を運んできてくださる。サウナで死にかけた体に活力が生まれる。そこにすかさずビールを流し込む。電流のように体が痺れる。サウナ後の肉とビールは本当に美味しい。みんなこのためにサウナに通っているのだとしたら深く納得できる。


 食事をゆっくりと堪能したあとは(実際は爆速で完食)、マッサージチェアに座ってみたり、5000冊の蔵書量を誇る漫画コーナーで読みかけだった漫画の続きを読んだり、持ってきた文庫本を消化したり、仕事のメールを何本か無視したりして過ごした。

 あっという間に日付が変わりそうになり、改めてカプセルに向かう。さーて、寝心地はどんなもんでしょうかね~!と、なぜかテンションが上がっている。

「カプセルイン蒲田のカプセルは側面から入るタイプなので、他のカプセルホテルよりも窮屈に感じにくいんですよ」

 担当編集の話を思い出すが、初心者カプセルホテラーの自分としては、比較のしようもない。ということで、さっそく2階建てになっているカプセルの自分の部屋(1階)に入ってみる。

 カプセルは足元の側面から入れるようになっており、奥行きは2mあるかないかといったところ。高さは胡座をかいて座ることができる程度しかなく、横幅は寝返りをギリギリ打てるくらいの長さである。

 ハイハイする要領で奥まで進むと、とても静かで、空気が停滞しているような感覚もある。狭いが、その狭さがかえって落ち着く。冬眠するクマの気分である。幼少時代に段ボールで秘密基地を作ったときのことや、兄弟喧嘩して押し入れの中でうずくまっていた記憶を思い出す。

 カプセル内の電気をつけてみる。
すると、天井からぶら下がるようにテレビモニターが付いていたり、ビジネスホテルのベッドサイドのように、ラジオを流すボタンや照明を調整できるボタン類が壁からせり出して並んでいたりすることに気づく。

「寝ながらなんでもできまっせ!」とアピールされている気がして、堕落のにおいがして怖くなる。

 試しに、そのまま横になってみる。

 これならすぐにでも眠れそうだ、と思った瞬間にはウトウトしていて、慌てて飛び起きて、歯磨きに向かう。

 館内は広い。どのスペースにもゆとりがあって利用者としては最高なのに、10月末には再開発の関係で閉店するという。おそらく再開発後の建造物はここまで贅沢に空間を使うことはないだろうと予想がつく。それが寂しい。

 翌朝。体がバキバキになっていて、本当に冬眠明けのクマの気分を疑似体験する。

 マットレスが自分と合わなかったことへの後悔を除けば、あとは素晴らしい宿泊体験だったと、昨夜の怠惰を噛み締める。

 チェックアウトして、外に出る。
外界は、時の流れが速く感じる。また来たくても叶わない場所から一歩踏み出す。

サウナ入って飯食って寝る…閉店直前の『カプセルイン蒲田』で怠...の画像はこちら >>
<文/カツセマサヒコ 挿絵/小指>

―[すこしドラマになってくれ~いつだってアウェイな東京の歩き方]―

【カツセマサヒコ】
1986年、東京都生まれ。小説家。『明け方の若者たち』(幻冬舎)でデビュー。そのほか著書に『夜行秘密』(双葉社)、『ブルーマリッジ』(新潮社)、『わたしたちは、海』(光文社)などがある。好きなチェーン店は「味の民芸」「てんや」「珈琲館」
編集部おすすめ