―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは新潟からの最高のお土産弁当。
果たして、お味はいかに?

シンプルなのに最高の『新潟お土産弁当』に狂喜!<人生の最後に...の画像はこちら >>

孤独のファイナル弁当 vol.13 「新潟からの最高のお土産弁当」

 取材で新潟のおいしい米を食べさせる店に行った。契約農家の無農薬のコシヒカリを、選び抜いた湧き水を使って、鉄の大釜で、薪で炊いたごはんを食べさせる店。

 まずいわけがない。おかずは佐渡のフグの幽庵焼き。蟹の味噌汁と自家製の漬物。まあ、食べる前から特上極上の定食だ。当然うまかった。

 その後も三条市の鍛冶屋の取材などがあり、夕方燕三条から帰りの新幹線に乗った。

 駅でスタッフに「昼のお店からおにぎり預かっています」と渡されたのがこの弁当。パックに白飯のおにぎりと付け合わせ3種。

 狂喜。1泊2日の疲れ吹っ飛ぶ。
ビール1缶と、吉乃川のカップ酒を購入して乗車。

 列車が走り出してすぐビールをプシュッ。すぐに弁当を開ける。わー。冷めてなお光り輝いて見える真っ白いおにぎり一個。付け合わせは、筋子、神楽南蛮味噌、海苔の佃煮。あぁ、見ただけで幸せ。わかってらっしゃる。

 おにぎりの角を大きめにひと口。……うまい。冷めてなおうまい。このごはんだけでいい。
と言いながら、割り箸で筋子をひと口。あー最高。口の中でちゃんと味わって呑み込む。有り難い。と漢字で書きたくなる。神楽南蛮は刻んだ青唐辛子が入った味噌。辛いだけでなくスバラシイ風味。無論、メシに嫌というほど合う。これでめし一膳軽い。

 海苔の佃煮も絶対自家製だ。市販の瓶詰とは別物別料理。海の香りがする。
もうこの辺から、おにぎりを食べるペースを抑えるのが大変だ。たった一個だから大切に食わねばならないのに。

「白いごはんって、どこまでうまいんだ」

 というのは、10年前にボクがドラマで松重豊演じる井之頭五郎のために書いたセリフである。同ドラマのロケ中に新潟の棚田で塩むすびを食べたボク自身の心の叫びだ。

 まだ午後5時ぐらいで、そんなに空腹ではなかったが、うまいごはんの破壊力はそんなことは関係なし。ぐいぐい食べてしまい、惜しみつつもあっという間におにぎり一個は消えた。

 だが、この弁当を見た瞬間から思っていたのが第2ラウンドだ。ビールを飲み干し、空き缶を片付け、日本酒を出す。少しずつ残っている(残した?)3種のおかずが、全て最高の酒の肴に生まれ変わる。

 常温の吉乃川をちびりとやり、筋子を3粒ほどつまむ。ウヒー、うめえ。呑み込んで、酒をもうひと口くぴり。
いやぁ、ごめんなさい。上越新幹線は夕刻の新潟の風景の中を走っていく。

 日本人の我々にとって、これほどの心尽くしがあるだろうか。これほどの旅の終わりがあるだろうか。

 海苔の佃煮も、ごはんと一緒の時とは違った匂い立つような色気を放って、酒に寄り添ってくる。海苔の香り。日本海の味。

 そして神楽南蛮味噌の深い味わい。

 飲み終わって片付けるとたちまち心地よい睡魔。目が覚めたら上野だった。

シンプルなのに最高の『新潟お土産弁当』に狂喜!<人生の最後に食べたい弁当は?>/久住昌之
日本きっての米どころ・新潟県で育ったこだわりのコシヒカリを、こだわりの方法で炊いたごはんでできたおにぎりは、お弁当を何よりも輝かせ、幸福で包んでくれる


シンプルなのに最高の『新潟お土産弁当』に狂喜!<人生の最後に食べたい弁当は?>/久住昌之
孤独のファイナル弁当「新潟からの最高のお土産弁当」


―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。
代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi
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