―[貧困東大生・布施川天馬]―

 みなさんは、もうNintendo Switch2を手に入れましたか?
 私は、ちょうど今週の頭に招待販売で購入した分が家に届いたばかり。用もないのに通勤カバンの中へSwitchを忍ばせて、「少しでも遊ぶチャンスはないか」と時期をうかがう毎日を送っています。


 任天堂からの公式発表によれば「第二回招待販売をもって約220万人の応募者全員の案内を完了」したそうで、2026年の安定供給を目指しつつも、喫緊の需要は解消されたとのこと。

 コロナ禍でのSwitch、PlayStasion5の時は転売ヤーに相当苦労させられましたが、その反省を踏まえたのでしょう。

 さて、いまSwitchで最も熱いゲームと言えば、10月16日に発売されたばかりの「Pokémon LEGENDS Z-A」(以下ZA)でしょう。

 メインナンバリング作品「ポケットモンスターX・Y」(以下XY)に登場する街「ミアレシティ」を舞台に、人とポケモンが共存する暮らしを体験できるRPGです。

 私はちょうどこの記事を書き始めるちょうど1日前に始めたばかりの「にわか」ですが、それでも本作の面白さは良く伝わってきます。

 同時に、「今までのポケモンとは何かが違う」と感じられる違和感も生じました。

 こうした「異変」を見逃さず、原因を追究していくことで、思考力は磨かれます。ZAは親子で考えられる最高の教材になるはず。

 自ら「ゲーム脳」になることで得られる思考メソッドの重要性についてお伝えします。

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新作ポケモンはプレイヤーも狙われる

 本作ZAは、通常のポケモンとは異なり、アクションRPGとなっています。

『ポケットモンスター赤・緑』から続く伝統的なポケモンでは、トレーナーはあくまで安全圏から指示を出す監督のようなポジショニングでした。

 一方で、ZAを含むLEGENDSシリーズでは、主人公とポケモンがフィールドを共にします。

 ポケモンを繰り出してバトルするのは同じですが、野生のポケモンが容赦なくプレイヤーを狙ってきて、一定以上の攻撃がヒットすれば気絶させられて拠点送りとなります。


 従来のポケモンでは「野生のポケモンに直接襲われる」なんてありえないシチュエーションであり、受け入れがたい方もいらっしゃるかもしれません。

 とはいえ、死なないだけマシともいえる。愛くるしい姿のポケモンたちですが、「インドぞう」を2秒で気絶させるガスで構成されていたり(ゴース)、「とうきょうタワー」を一回のジャンプで飛び越したり(ポニータ)と、恐ろしい力を持っているのは間違いない。ただの人間が狙われたらひとたまりもありません。

 もちろん、これはゲームの話。

 仮に現実とゲームを混同したら「ゲーム脳」などと謗られて、危険人物認定されてしまうのは間違いない。ただ、私は「いい意味でゲーム脳になる」ことこそが、思考力を鍛えるきっかけになると考えています。

「いい意味でゲーム脳になる」ことが大切

「いい意味で」とは、「現実とゲームを切り分けながら、それら2つの相違点を比較する」ような思考実験のこと。たとえば、ポケモンなら以下のように考えられます。

「どうやったら、こんな化け物と共存できるんだろうか?」

 ポケモンをプレイする中で、どうしても浮かんでくる疑問でしょう。

 現実にはポケモンの半分の力も持っていないクマの対処に追われて四苦八苦させられている。それ以上の能力を持った動物たちがうごめく世界で、しかもZAでは街中を野生のポケモンが闊歩する始末。どう考えても、無事でいられるはずがない。


 それに、そんな強大な力を携えた動物が辺りをうろついていて、誰でも捕まえられる状態にあるのなら、まず考えることは「ピカチュウの電撃はどれくらいの出力と安定性を持つのだろう」とか「ケーシィのテレポート能力で転送できる物体の重量限界はどれほどだろう」とかではないでしょうか。

「一緒に仲良く」はもちろんですが、それでも「力の利用法」を考えずにはいられない。逆に、ポケモンを信仰したり、その意思を尊重したりと、人の世界と切り離そうとする勢力だって出てくるはず。

「正々堂々」が通用しないリアル

新作ポケモンは「親子で勉強になる」と東大卒国語講師が語るワケ。今までのポケモンとまったく異なる設定とは
公式サイトにも「目と目が合う前に、不意打ちを仕掛けよう!」と記載されている
 実際にポケモンは、昔から妙なところが現実的でした。

「赤・緑」でもポケモンを違法労働させたり転売したりして稼ぐ悪の組織「ロケット団」が登場しましたし、「ブラック・ホワイト」では「ポケモンを人の支配から解放する」をスローガンに活動する「プラズマ団」が暗躍しました。

 また、ポケモン世界では、トレーナーとのバトルに勝利すると、名誉と共に賞金をもらえます。

 であれば、「ポケモンバトルのルールはどこまで整備されているのだろう?」「審判不在ならば、闇討ちして身ぐるみを剥ぐ犯罪も横行しているのでは?」などと考えが及ぶのもまた自然。

 効率よく稼ぐなら、正々堂々と戦うより、不意打ちで相手ポケモンを戦闘不能にしてから脅した方が早いからです。

 実際にZAでは、「待ち構えているトレーナーの背後から不意打ちすることでバトルを有利に進められる」と明言されました。

 むしろ、「見つかって勝負を仕掛けられると不利になるから、積極的に闇討ちせよ」と奨励されるほど。あまりにもシビアすぎる価値観に、ギャップを抱いた方もいらっしゃるのでは。

「面白い」に本気で向き合う

 LEGENDSシリーズは、大人の「なんで?」を誤魔化さず、極力リアルな「ポケモンとの付き合い方」を描写した作品群です。

 ゲームと現実は切り離せ。
そう教えられるのが一般的ですが、本当にリアルから切り離されたフィクションは、面白くありません。

 フィクションだからこそ、逆説的にリアリティが必要になってくる。『呪術廻戦』では、呪術師たちの発するエネルギーを発電に利用する案が出ました。

『鬼滅の刃』では失われた手足が生えてこないからこそ、どんなに強いキャラクターでも四肢が欠損すれば戦力外になりました。

「上手にウソをつきたいなら、真実の中に混ぜ込むとよい」と聞いたことがあります。面白い作品を作るには、きっと現実を誰よりも深く理解しなくてはならないのでしょう。

「ゲームはゲーム」と完全に切り分けて別物とするのは、「勉強は机の上だけで行うもの」とレッテルを張るようなもの。そして、そういう人に限って、大体成績は振るわないものです。

 必要なのは、それぞれの性質や属性で分類し、それらの違いを比較するような学際的な学びの態度でしょう。

「子どもがゲーム漬けで……」と悩まれる親御さんは数多くいらっしゃいますが、ゲームからでも思考を深められるような問を投げかけられるように、ご自身も「ゲームに隠れたリアリティ」について学ばれてみてはいかがでしょうか?

 親目線からでしか気付けない「現実味を持たせる描写」を指摘できれば、きっと親子で学べる最高の教材になるはずですよ。

<文/布施川天馬>

―[貧困東大生・布施川天馬]―

【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。
著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。MENSA会員。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)
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