“ワケアリ”や“クセつよ”を理由に相場よりも割安で住める賃貸物件が、東京で一人暮らしをする若者などを中心に人気を集めているという。
 うなぎの寝床のように狭く細長い形状の物件や、築年数が非常に古い物件に住む若者たちは、いつの時代もメディアで取り上げられてきたが、近頃は“狭小物件”などを紹介する内見動画がSNSでも人気コンテンツである。
物価高に直面する首都圏での生活環境の変化や経済事情を背景に、ひと昔前よりもかなり現実的な選択肢となっているようだ。

 しかし、リアルな住み心地などは当事者にしかわからないことも多い。“そこに住む理由”には、人生観までも映し出されるはず。

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 今回は、不動産関係の仕事をしながら狭小物件に住むフルコミっくん(X:@furukomicn)さんをインタビュー。投資物件なども所有しつつ、10平米強のワンルーム賃貸に居住してきた同氏に、狭小物件に住んで感じたライフスタイルの変化などを聞いた。

5年前に上京、成増の“激安アパート”から始まったフルコミ人生


――フルコミっくん(以下、フルコミ)さんは、SNSのアカウント名通り業務委託というかたちで不動産営業のお仕事などをされているそうですね。

フルコミ:一都三県を中心に賃貸業や、不動産投資家さんの不動産売買の仲介などをやっています。私自身もアパートなどの投資物件を所有しています。

――不動産業界的に狭小物件って、やっぱり流行っているんでしょうか。

フルコミ:狭小をウリにする物件は増えていて、入居者も入っていますね。ちゃんと需要もあるようで、とくに東京で一人暮らしを始める人の選択肢にはなっているのかなと。

――フルコミさんは今年おいくつですか?

フルコミ:平成7年生まれの30歳です。地元・熊本の大学を卒業して、3年間は福岡の不動産会社に勤務していました。
22歳で一人暮らしを始めて、福岡では1LDKの部屋に住んでいましたが、5年ほど前に上京してからは基本的にずっと狭小です。

――心機一転、上京したのはどんな考えがあったんでしょうか。

フルコミ:東京でお金を稼ぎたいなと(笑)。もともと学生時代の就活でも給与面に魅力を感じ、不動産会社に就職したところもあるので。固定給ゼロの働き方になって、少しでも固定費を抑えたい考えもあり、狭小物件に住み始めました。

――なるほど。上京して最初はどんな部屋に?

フルコミ:成増駅(板橋区)から徒歩20分ほどの狭小物件に住んでいました。初期費用1万円で入居者を募集しているアパートのオーナーさんと、「ジモティ」でマッチングしまして。

――「ジモティ」って賃貸物件もやり取りしているんですね。

フルコミ:ただ、夜逃げを繰り返しているような入居者さんも多く、被害に遭っているオーナーさんもけっこう少なくないですけどね。僕自身は狭小住宅に住むことなどに対する抵抗感は全くなかったです。

9万円で神楽坂に住める“ハイスペック狭小”


フルコミ:「ジモティ」で借りた部屋を2年で退去してから、3~4ヶ月ほどホテル暮らしをしていたこともあります。当時、コロナ禍で一泊3000円とかだったので。


――そんな時期もありましたね。

フルコミ:その次が都営大江戸線・新御徒町駅から徒歩1分の狭小RCで、約11平米の部屋へ引っ越し、そこも丸2年住みました。その後、神楽坂徒歩2分・12平米の賃貸へ再び移って現在に至ります。

――わりと短期間で転々としていますが、それぞれ家賃はどんな感じですか?

フルコミ:成増が築10年の木造で4万5000円。新御徒町が7万2000円で、いま住んでいる神楽坂は9万円です。職業柄、いろんな街に住んでみたくて、2年で生活エリアを変えるように意識してきました。

――好立地とはいえ、狭小というわりには、そこそこの家賃だなと正直思ってしまいました。

フルコミ:新御徒町と神楽坂の部屋は、狭小に特化したA社がオーナーの集合住宅で、“ハイスペック狭小”という感じですね。いま住んでいる神楽坂の部屋は3点ユニットタイプで、1口のIHコンロの下に埋め込み式のドラム式洗濯乾燥機が備え付けられています。

――築浅の狭小RC物件で有名な不動産会社なんですね。

フルコミ:外観も内装も今っぽいオシャレなデザインやつくりで、都心の駅近に住みたいけど、高い家賃は払えないという若者などに人気です。風呂・トイレなどの水回りがガラス張りで、なるべく狭さを感じさせない工夫も施されています。


「家では水しか飲まない」「スーツ以外の服は持っていない」


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フルコミっくん(X:@furukomicn)さんが住んでいた部屋
――住み心地はいかがですか。

フルコミ:立地のメリットは非常に感じています。手の届く範囲でほぼ生活が完結するので掃除もラクですね。ただ、隣の生活音や電話の声などはけっこう聞こえるので、僕は一人でYouTubeとか観る時もイヤホンしています。廊下などの共用部も窮屈なつくりなので、お隣さんと同時に玄関扉を開けて、ぶつかってしまうこともありました。

――他の入居者はどんな雰囲気でしょう。

フルコミ:20代・30代の男性が多い気がしますが、服装とかも普通に清潔感ある感じで、女性も住んでいるみたいです。エントランスにはオートロックが付いています。

――狭小物件に住んで生活スタイルや価値観も変化しましたか?

フルコミ:それはかなり感じます。まず全く浪費しなくなりました。福岡時代は月25万円の給料を使い果たしていましたが、自然と物欲も消えて最近は人から物をもらうのも嫌になりましたね。“足るを知って”精神的にも安定しています。

――そうして浮いたお金を不動産投資などの資産形成に回してきたと。
いやらしい話、貯金額とか聞いても良いですか。


フルコミ:貯金は最高3000万円ほど、家賃収入は毎月手残り20万くらいですかね。

――ほぼサイドFIREできそうですけど。さすがに電子レンジくらいは部屋にあります?

フルコミ:電子レンジはないですね。家では水しか口にしないので冷蔵庫も食器も箸もないです。ごはんは会社近くの「松屋」とかで済ませていて、会員ランクはほぼ毎月プラチナです。

――当然テレビもない、と。

フルコミ:上京してからテレビは家で見ていません。必要性を感じたこともないです。

――はじめて狭小物件に住んだ時って、逆にどんな荷物を持ってきたんですか?

フルコミ:スーツ・パジャマとウォーターサーバー、ベッドですね。洋服が好きでたくさん持っていたんですが、友人に全部あげて、この5年、私服は一度も着ていないです。それ以外の荷物は「ジモティ」などですべて処分しました。


――普通は我が家に帰ると、ほっとリラックスできる感覚があると思うんですけど、狭小でも自分の部屋で心から落ち着くものですか?

フルコミ:言われてみると、僕はあまりそういう感覚ないですね(笑)。

――出張先のビジネスホテルみたいな。

フルコミ:日中はほぼ部屋にいないですし、お風呂に入って寝る場所です。

「土日・祝日も関係なく毎日働いた」遂に憧れの湾岸タワマンを購入


フルコミ:実は最近またマンションを買って、いま住んでいる部屋はこの11月に退去する予定です。

――次の家も売却などして住み替えていくつもりなんですか?

フルコミ:実は上京した時、福岡の時代から“東京のタワマンに住む”というのが夢だったんですが、次に引っ越すのが憧れの湾岸エリアのタワマンなんですよね。

――フルコミさんの実はけっこう俗っぽいところ、とても良いと思います(笑)。念願のタワマンでやりたいことは?

フルコミ:友達を部屋に招きたいです。せっかく地元の友達が遊びに来ていても、泊まらせてあげられなかったこともあったので……。

――ずっとガラス張りのトイレでしたもんね。いま一番買いたいものは?

フルコミ:ソファですね。洋服もまた少しずつ買い集めたいです。

――ミニマリスト的なライフスタイルに惹かれる人は、思い切って狭小住宅を選ぶのも手だなと思いつつ、プライベートや趣味が入り込む余地がない印象を受けました。


フルコミ:夢を叶えるために狭小物件に住みながら、土日・祝日も関係なく毎日働いた感じですね。

――フリーランスって確かにそういう生活になりやすいですけど、部屋でリフレッシュできないと、病みやすい気もします。

フルコミ:やっぱり僕もたまにメンタルやられそうになったので、そういう時は運動したり、サウナへ行ったりしていました。何かしらストレス発散法を編み出すことが、狭小物件に長く住むコツかもしれないです。

<取材・文/伊藤綾>

―[狭すぎる家、住んでみたらこうだった]―

【伊藤綾】
1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、マイナビニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催。X(旧Twitter):@tsuitachiii
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