一向に減らない”あおり運転”。ただ、ドライブレコーダーやSNSの普及により、その包囲網は狭まっていることも事実です。
 
 今回取材に応じてくれた男性も、そうしたツールを駆使し短期間で犯人検挙ができたそうです。こうした冷静な対応で”あおり運転”が減ることを願うばかりです。
 
「まさか、あんなに早く…」あおり運転された映像をSNSにアッ...の画像はこちら >>

恐怖の通勤路で起きた突然の出来事

「いつもの道を走っていただけなんです」と語るのは取材に応じてくれた横溝さん(仮名・36歳)です。

 彼が車を走らせていたのは、通勤で日常的に使う県道。免許を取得したのは30歳を過ぎてからで、運転は今も慎重そのものだといいます。

 その日も制限速度を守り、淡々とハンドルを握っていました。ところが後方から突然、アッパーライトを浴びせるように近づいてくる車が出現したと言います。

「ライトで照らされるたびに背筋がぞっとしました。スピードを上げるわけにもいかず、ただ怖いという気持ちだけが強くて……」と横溝さんは語ります。

 片側一車線の道。追い越しは不可能です。やがてクラクションの連打、左右に大きく揺さぶる蛇行運転と、明らかなあおり行為が始まりました。彼は必死にハンドルを握りしめ、国道に出るまでただ耐えるしかなかったそうです。


冷静さを支えたのは“ドライブレコーダー”

 恐怖に震えながらも、横溝さんはある動画を思い出したといいます。

「最近YouTubeで見たんです。ドライブレコーダーに記録さえあれば、警察はすぐに動いてくれるって。ナンバープレートが映れば割り出しは簡単だそうで」

 その知識が、彼を落ち着かせました。

「この状況を“証拠”として残そう」と気持ちを切り替えたのです。

 幸いなことに、横溝さんの車には360度撮影できる最新型のドライブレコーダーが搭載されていました。前方だけでなく、後方や側面の危険な挙動まで克明に映し出せる優れものです。

「クラクションを鳴らされるたびに心臓が跳ねましたけど、『これで検挙できる』と思って耐えられたんです」
 
 そう語る表情には、当時の緊張がまだ残っていました。

ネットで広がった“あおりの証拠”

 ようやく国道に差しかかったところで、加害車両はどこかへ走り去りました。

 安堵の息をついた横溝さんは、帰宅後すぐに映像を確認。その臨場感のある一部始終をSNSに投稿しました。

「正直、公開するか迷いました。でも、同じように被害に遭う人がいるなら、防止の一助になると思ったんです」

 その判断はすぐに大きな反響を呼びました。映像は瞬く間に拡散され、コメント欄には「危険すぎる」「早く捕まってほしい」といった声が相次いだそうです。


 結局のところ、横溝さんが警察に相談する前に、第三者が通報。SNSの拡散力が後押しとなり、加害者は短期間で検挙されることになりました。

「まさか、あんなに早く動いてくれるとは思いませんでした。SNSって怖さもありますけど、こういうときには本当に力になるんですね」
 
 横溝さんはそう感慨を込めます。

あおり運転の抑止力として

 今回の件を通して横溝さんが強調するのは、冷静さの大切さでした。

「逃げ場がなくて怖いのは確かです。でも、焦ってスピードを上げたり、挑発に乗ったりすると、もっと危険な事故につながりかねません。ドライブレコーダーが“盾”になってくれると思えば、耐えられるんじゃないでしょうか」

 また、SNS拡散の効果についても言及しました。

「僕一人の力では加害者を追い詰めることはできなかったと思います。見てくれた人たちが声をあげてくれたからこそ、早い検挙につながったんです」

 ドライブレコーダーの普及とSNSの力。その二つが組み合わさった今回のケースは、あおり運転の抑止力として大きな意味を持つと言えます。

「もう二度とこんな思いはしたくない。
でも、もし同じような被害に遭った人がいたら、証拠を残すこと、冷静でいることを伝えたいです」

 横溝さんはそう静かに語ってくれました。

<TEXT/八木正規>

【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
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