書店はここ10年ほどで約3割、およそ1万5000店舗が姿を消しました。読書離れが進んでおり、雑誌の売れ行きも低迷。
書籍市場をけん引するコミックスは電子書籍化が進んでいるため、書店に足を運ぶ人が少なくなっているのです。
 書店の運営会社は、売場転換による生き残り策を急ピッチで進めています。

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1996年からおよそ1.6兆円が消失

 出版科学研究所によると、紙の出版物のピークは1996年の2.6兆円。2024年は1兆円で、およそ1.6兆円が消失しました(出版科学研究所「日本の出版販売額」)。電子書籍の市場規模は5.8%増加しているものの紙が5.2%減少しており、全体で1.5%縮小しています。

 文化庁の2023年度「国語に関する世論調査」では、1ヶ月に本を1冊も読まない人の割合は62.6%で、5年前の調査を15.3ポイントも上回りました。

 出版業界全体が縮小傾向にある中で、紙の本を扱う書店が特に打撃を受けているのです。

雑誌の低迷が書店を直撃…事態は深刻

 日本の書店産業は売上、流通の両面で雑誌に依存してきました。この雑誌の落ち込みが特に顕著。1996年の雑誌の販売金額は1.5兆円で、2024年は4000億円ほどにまで縮小しています。インターネットメディアやSNSの普及で需要が激減しました。

 かつては、定期的に大量発行する雑誌に依存する形で、小部数発行の書籍を流通させていました。これが書籍の安価な配送システムを支えていたのです。しかし、雑誌の低迷でこのシステムが維持できなくなりつつあります。


 日本出版取次協会は2024年7月の説明会で出版社などに対し、雑誌が減って配送効率が低下することで、運賃単価が上昇。もともと不採算だった書籍は状況がより悪化するなどと訴えました。

 出版社が価格を決め、書店が定価で販売する日本の再販制度において、取次がコストの価格転嫁をする余地はほとんどありません。サプライチェーン全体で価格を最適化するほかなく、出版社は将来的に配送コストを含む価格調整が必要になることが示唆されているのです。

 そうすると、紙の出版物は価格が上昇し続ける可能性があります。読書離れ、もしくは安価な電子書籍への移行が一層進むことにもなり、書店への影響は甚大。

 2024年、経済産業省内に「書店振興プロジェクトチーム」を発足させたことからも、その深刻度をうかがい知ることができます。

丸善の取り組みは「簡単に真似できるものではない」

 書店大手は別事業に活路を見出しています。

「MARUZEN」や「ジュンク堂書店」を運営する丸善CHIホールディングスは、2024年度が1.6%の増収でした。ただし、書店運営などの店舗・ネット販売事業は0.2%の減収。成長を支えているのは図書館サポート事業で、5.7%の増収でした。

 図書館サポート事業は、全国にある図書館の指定管理者制度による運営受託、人材派遣などを行っています。丸善の図書館受託館数は1840。
1年で34館増加しました。

 丸善が図書館の運営業務に携わっている背景には、図書館流通センターとの経営統合があります。組織再編によるもので、中小の書店が簡単に真似できるものではありません。

「トレカブーム」が書店の救世主に? 

 そうした中で活路を見出しているのが売場変革。TSUTAYAのメガフランチャイジーであるトップカルチャーは、コスメのECサイトを運営するノインと提携し、化粧品のリアル店舗展開に乗り出しました。

 既存の店舗内に新設した「ノインビューティ」は、20~30のブランドを取り扱うフルセルフ型のコスメセレクトショップ。店内の商品を自由に試すことができ、ブランドを横断した比較を行なうことができます。ECにはできないリアル店舗ならではの強みを持たせました。

 2025年6月に6号店を蔦屋書店龍ヶ崎店内にオープンしています。

 三洋堂書店の三洋堂ホールディングスは、中古のフィギュアやトレーディングカード、同人誌などを販売する駿河屋のフランチャイズに加盟しました。

 2024年度までで5店舗を出店しており、駿河屋を含む新規事業の売上高はおよそ13億円。前年度比で26.7%増加しました。
 三洋堂はトレーディングカードの販売には特に力を入れており、「三洋堂トレカ館」も出店を重ねています。
2024年度の売上高は20億円ほどで、1割増加しました。一方、2020年度に140億円近い売上があった書店部門は91億円まで縮小しました。売場転換を急いでいます。

文教堂は事業再生計画を達成できず…

 苦戦を強いられているのが文教堂グループホールディングス。2025年度は3.1%の減収、8800万円の営業損失を計上しました。

 文教堂も書籍以外の販売に力を入れており、雑貨・文具は3年連続で既存店舗の売上が前年同月を超過しています。プログラミング教室や、シニア向け脳活性教室の生徒獲得を進めているものの、書籍部門の減収をカバーするには至りませんでした。

 トレーディングカードの専用売場を設けたのは2025年度に入ってからで、競合と比較をするとやや後れも取っています。

 文教堂は2018年8月期に債務超過となり、2019年6月に事業再生ADRを申請。債権者からの同意を取り付けて再生の道を歩み始めました。再生計画は2025年度が最終年度であり、2億円近い営業利益を出すというものでした。この計画を達成することができなかったため、2025年10月15日の決算発表時点で、借入金の返済と資金調達に関する合意がなされていません。
債権者と合意に向けた交渉を継続しています。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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