―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは「初めて食べた台湾の駅弁、ゴキゲン」。
果たして、お味はいかに?

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孤独のファイナル弁当 vol.14 「初めて食べた台湾の駅弁、ゴキゲン」

思わずゴキゲンになった初体験の『台湾の駅弁』<人生最後に食べたい弁当は?>/久住昌之
孤独のファイナル弁当 「初めて食べた台湾の駅弁、ゴキゲン」
 台湾に行ってきた。『孤独のグルメ』の音楽を制作演奏しているスクリーントーンズでライヴをやるためだ。このバンドの台湾公演は10年ぶり2度目。

 ライヴの翌日、台南に近い雲林という街に行った。移動手段は台湾高速鉄道。台湾の新幹線みたいなものだ。車両には日本の新幹線の技術が使われていて、見た目も似ていて、乗り心地も実に快適。

 乗車にあたって台北駅で「台鐵便當」を買った。いわゆる駅弁だ。これをおいしく食べるために、ホテルの朝食はお粥一杯にしておいた。だから蓋を開ける前から、漏れ出てくる肉を煮た匂いがたまらない。

 乗車10分ぐらいで我慢できず蓋を開ける。
わお! この大きな肉! 立ちのぼる甘塩っぱいような香りに胃袋がせり上がってくるようだ。

 箸でこの肉塊を持ち上げ、端っこにかぶりつく。ん、肉を揚げて煮たものだ。柔らかい。うまい。これは排骨、豚の骨つきバラ肉だ。味は思ったより薄め。でも肉味しっかり。肉の下に野菜がたくさん敷いてあるぞ。大根、人参、じゃがいもなどのボイルした細切り。その下に白米。見た目よりヘルシーだ。
一見茶色弁当だがその下に野菜の色味が隠されているのが心憎い。日本だったらなんとかして野菜を表面に見せるだろう。

 卵は烏龍茶で茹でたものらしいが、これも実にうまい。卵焼きでなく、茹で卵なのがいい。卵の隣はなんだろう、おでんの練り物系の煮物。たぶん大豆製品。おいしい。どれもやさしい味付け。だから、ごはんが少なめなのもちょうどいい。塩っぱいおかずで白米をガバガバ食う日本の牛丼弁当的なのとは考え方が違う。

 台湾の緑茶のペットボトルを飲みながら食べたが、実に合っている。これはビールで食べる駅弁ではないな。


 さらに食べていたら歯が「ゴツッ」と骨を噛んだ。ほー、確かに排骨だ。そこを避けて食べる。野菜が嬉しい。こういう時にじゃがいもが入っているのが台湾式だ。日本だと、もやしキャベツ玉ねぎあたりになりそうだ。

 食べていて思い出したのは、吉祥寺の台湾弁当屋のルーロー飯。あれは本場の味なんだな、と現地で食べて納得する。大好きだ。

 肉、ごはん、野菜、卵、大豆系煮物、これらをついついバランスを考えつつ均等に食べすすんでいる、食べ方が几帳面な自分に今さら気づく。きれいに食べ終わってくると嬉しい。

 最後、骨にへばりついている肉まで全部前歯でこそぎ落として食べた。
こうなりゃきれいに骨だけにしたい。その作業がかなり難しいが楽しい。しまいには骨を指でつまんでしゃぶった。残った骨は、クリオネのような翼手竜のようなシルエットだ。満足感と達成感があった。値段は日本円にすると400円くらい。台湾ののんびり電車旅の供に、最高じゃないか。

思わずゴキゲンになった初体験の『台湾の駅弁』<人生最後に食べたい弁当は?>/久住昌之
台湾高速鉄道で雲林に向かう道すがら蓋を開けた、台北駅で購入した台湾版駅弁「台鐵便當」。容器の中央にポツンと残った骨が、その満足度の高さを物語る


―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi
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