年末の締め切りや繁忙期のプレッシャーから、職場の雰囲気は緊張し、人間関係も固定化しがちな11~12月。この時期、多忙さに追われるあまり、仕事や自身の役割にやりがいを見失う人は少なくありません。

そんな状況で注目されているのが「ジョブ・クラフティング」。これは自分自身の価値観や強みと仕事を結びつけ、仕事に新たな意味を見いだしながら、自分らしいキャリアを創り出す方法です。

固定化された職場を越え、異なる環境で自分の仕事の価値を再発見すれば、やる気や誇りを取り戻すきっかけが得られるかもしれません。

仕事観を変え、主体的なキャリアを築くためのヒントを400以上の企業や自治体の働き方改革などを支援し、ワークスタイルや組織開発を専門とする沢渡あまね氏に事例とともに教えていただきます。
※本記事は、『仕事は職場が9割 働くことがラクになる20のヒント』(扶桑社刊)より一部抜粋・再構成してお届けします。

「自分の仕事に価値がない」と感じる人でも“見違えるように変化...の画像はこちら >>

人間関係を変える「ジョブ・クラフティング」とは

成果が見えない、約束されない――。答えのない時代の到来は、働き手はもちろん、舵取りを行う経営陣にとっても難しい状況です。何が正解かわからない中で、環境は目まぐるしく変化し、新規事業への投資スピードを速めなくてはならない。

特にかつての勝ちパターンが通用しなくなった業界、企業ほど、皮肉にもイノベーションの土壌となる寛容さが失われ、挑戦や失敗ができない、息苦しい職場になっていきがちです。

失敗できないからと職場のエースにプロジェクトが集中し、一方で、それ以外の働き手のキャリアアップや成長の機会はどんどん失われていく。次第にやる気やモチベーションは失われ、重苦しい職場で、目の前の仕事はただの退屈な作業に感じられてしまう……。

こうした背景もあり、年齢にかかわらず、仕事にやりがいを感じられず、停滞感を覚える人々が増えているように思います。

レンガ職人の教えに学ぶ! 「ジョブ・クラフティング」で仕事に新たな意味を

「自分の仕事に価値がない」と感じる人でも“見違えるように変化”する。『仕事は職場が9割』著者が教える方法
そこで今、注目を集めているのが、「ジョブ・クラフティング」という新しいキャリアの捉え方です。

この考え方を理解するためによく引き合いに出されるのが、イソップ寓話『3人のレンガ職人』のエピソードです。


簡単にまとめると、次のようなものです。

旅人がヨーロッパのとある街を歩いていると、汗水垂らしながらレンガを運んでいる3人の職人に出会った。

それぞれの職人に「何をしているのですか?」と尋ねると、1人目は「親方の指示でレンガを積んでいる(やらされている)」、2人目は「レンガを積んで、壁を作っているんだ(キャリアを積んでいる)」、そして3人目は「お祈りするための大聖堂を造っている(意味を見いだしている)」と答えた。

3人とも、やっている仕事の内容は同じです。しかし、仕事への動機づけや意味づけがまったく違うことがよくわかります。

ジョブ・クラフティングとは、仕事の捉え方を1人目の職人から2人目、3人目へとシフトさせながら、自分なりの意義を見いだしていくことです。

仕事と人間関係を再定義。主体的なキャリアを創る

「自分の仕事に価値がない」と感じる人でも“見違えるように変化”する。『仕事は職場が9割』著者が教える方法
上司の指示や会社のルールで「やらされている」感覚を取り除き、「創意工夫を凝らしながら、仕事に取り組んでいる」と意識を変え、最終的には主体的に仕事を再定義する。

自分の価値観、強み、情熱と合致するように、仕事を自分らしく意味のあるものに変えていく作業とも言えるでしょう。

これは人間関係も同様です。与えられた上司・部下の関係から徐々に離れ、「仕事人として尊敬できるか」との軸で、人間関係を意味あるものに再定義していく。

固定化された人間関係からの逸脱は、明日からでもできる越境です。

まずは、具体的な事例を紹介しましょう。

職場では「誰からも褒められなかった」Sさんの例

ある大手IT企業の子会社で働いていたSさん(40代・男性)の仕事は、業務委託先の中国にある関連会社の管理でした。

ですが、私が出会った時、彼自身は仕事に面白味もやりがいもまったく感じていませんでした。

そこで、私が声をかけて、ワークショップで自分の業務内容について話してもらうようお願いしました。

自分の仕事にはほとんど価値がない。やらされているだけの仕事。

実際、Sさんは社内でも褒められたことがなかったそうです。

そうして自己肯定感とやる気を失っていたSさんですが、彼の発表が終わるや否や、ワークショップに参加していた製造業や不動産業など、異なる業界の人々から拍手喝采が湧き起こりました。

人間関係の“越境”が仕事への誇りを生む瞬間

「自分の仕事に価値がない」と感じる人でも“見違えるように変化”する。『仕事は職場が9割』著者が教える方法
『仕事は職場が9割 働くことがラクになる20のヒント』(扶桑社)
そして、多くの人々が彼の元に駆け寄り、「私の会社でも中国の会社とやり取りをしているが、うまくコミュニケーションが図れていない」「ぜひ、詳しく話を聞かせてほしい」と、彼の仕事ぶりを絶賛しました。

職場では誰からも褒められなかった仕事が、職場とは異なる人間関係の中では、とても価値の高い仕事として尊敬されたのです。

以来、Sさんは自分の仕事に誇りを持ち、見違えるように意欲的に取り組むようになりました。

職場という狭い人間関係から越境し、Sさんの世界は変わりました。

自分の価値に気づけ! 人間関係の“越境”で広がる仕事観

隣の芝生は青く見えると言いますが、自分の足元の芝生の色に気づいていない人は少なくありません。

ぜひ一度、職場の狭い人間関係、固定された上下関係から離れて、人間関係を越境し、自分の仕事への客観的な意見に触れてみてください。


自分が今携わっている仕事の意義や価値は、意外と自分自身ではつかみ切れないもの。

フラットな人間関係の先に、仕事観が変わる出会いが待っているかもしれません。<文/沢渡あまね>

【沢渡あまね】
さわたり・あまね
作家・企業顧問/組織開発&ワークスタイル専門家。
あまねキャリア株式会社 代表取締役/一般社団法人ダム際ワーキング協会代表、『組織変革Lab』『あいしずHR』『越境学習の聖地・浜松』主宰。磐田市”学び×共創”アンバサダー。
大手企業 人事部門・開発部門、食品製造業ほか顧問。労働法大改正戦略コンソーシアム総合顧問、プロティアン・キャリア協会アンバサダー、DX白書2023有識者委員。
400以上の企業・自治体・官公庁 で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディ ア出演を行う。著書『新時代を生き抜く越境思考』『EXジャーニー』『組織の体質を現場から変える100の方法』『職場の問題地図』ほか。#ダム際ワーキング 推進者。
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