11月7日の衆院予算委員会で立憲の岡田克也氏の質疑に対し、高市首相は台湾有事について存立危機事態に該当しうると言及。すると、中国の大阪総領事はX上で「斬ってやる」と物騒なポスト(すでに削除)をし、中国外務省も撤回を求めることに。
13日には駐中国日本大使を呼び出し、直接抗議する事態に。
 ジャーナリストの岩田明子氏は「首相発言の踏み込みは確かに大きいが、野党の質問自体が国家機密に踏み込みすぎており、責任は双方にある」と分析する(以下、岩田氏の寄稿)。

高市首相の台湾有事発言

なぜ高市首相は台湾有事で「踏み込んだ答弁」をしたのか。日中関...の画像はこちら >>
「戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、存立危機事態になりうる」

 衆院予算委員会での高市首相の答弁が注目を集めている。中国が台湾に侵攻した場合、武力行使の可能性があるという趣旨の発言だったためだ。

なぜ高市首相は台湾有事で「踏み込んだ答弁」をしたのか。日中関係と安全保障の現実
Xより
 歴代首相は「個別具体的な状況に即し情報を総合して判断する」という表現にとどめてきただけに、踏み込んだ答弁だと受け止められた。予想されたとおり、中国は反発の姿勢を強め、SNS上では高市首相を危険視する声も上がった。そのため、野党は発言の撤回を求めているが、「もう少し建設的な議論ができないか?」というのが正直な感想だ。

 まず、野党側の質疑からして“踏み込んだ”ものだった。中国による台湾の海上封鎖に言及しながら、繰り返しどのようなケースが存立危機事態に該当するかを問うたからだ。

 存立危機事態は’15年に成立した安全保障関連法で新設されたものだ。日本が直接攻撃されなくとも、密接な関係にある他国への攻撃が「日本の存立を脅かした」と“判断”される場合に認定され、集団的自衛権を行使する要件が満たされる、としている。

 その判断を明かすことは、仮想敵国に手の内をさらすも同然だ。その点で、高市氏が踏み込みすぎたのは事実だが、日本の安全保障を脅かすような具体的な質疑を行った野党にも責任の一端がある。


 そもそも、前述の安全保障関連法成立以降、情勢は様変わりしている。昨年は長崎の男女群島沖で初めて中国軍用機による領空侵犯があったほか、鹿児島の大隅海峡には今年だけで12回も中国海軍の情報収集艦が航行している。もはや、台湾有事に対する危機感は10年前の比ではない。あらゆるシミュレーションを重ねたうえでの高市答弁だったことには留意しておきたい。

“タダ乗りする国”同盟からの信頼が失墜する可能性も

 気になる日中関係への影響だが、現時点では大きく悪化する懸念はないと考える。

〈汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない〉

 中国の薛剣・駐大阪総領事の過激なポストは物議を醸したが(私は何度か直接お会いしたが、実際にはお酒を飲まないおとなしい人だ)、王毅外相は静観している。レアアースの輸出や、11月に再開された日本のホタテの輸入を停止するといった措置も見られないことから、反発の声を上げながらも中国側はソフトランディングの方向性を探っているとみられる。

 なお、万が一高市氏が発言を撤回するようなことがあれば、「自衛せずに米軍にタダ乗りする日本」として同盟国からの信頼が失墜するだけだ。それが日本の国益に叶うか? 有事の想定は不可欠だが、有意義な質疑にも期待したい。

なぜ高市首相は台湾有事で「踏み込んだ答弁」をしたのか。日中関係と安全保障の現実
岩田明子
<文/岩田明子>

【岩田明子】
いわたあきこ●ジャーナリスト 1996年にNHKに入局し、’00年に報道局政治部へ。20年にわたって安倍晋三元首相を取材し、「安倍氏を最も知る記者」として知られることに。’23年にフリーに転身後、『安倍晋三実録』(文藝春秋)を上梓。
現在は母親の介護にも奮闘中
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