『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは兵庫県姫路の名物『あなごめし弁当』。
孤独のファイナル弁当 vol.15 「姫路城であなごめし弁当を食べた!」
路の北に位置する福崎町で仕事があり、終わって駅近くの居酒屋に入った。そこがいい店で、生姜醤油で煮る「姫路おでん」を初めて食べて地酒「名城」を飲んだ。「ここで名城と言ったら、もちろん姫路城のことですよね」
と店主に言うと、もちろんという顔で、
「行かれましたか?」
と言われた。実はまだ行ったことがないんですと言うと「じゃあ明日行かなきゃあ」と言われた。姫路に来たらぜひアナゴも食べてください、とも言われた。
翌日は昼には帰京せねばならなかったので、城かアナゴかどちらかひとつだ。なら城だ。正直、アナゴは寿司の時たまに食うくらいで、鰻ほどのご馳走感がない。
と思って、翌日10時に駅前の宿を出て姫路城に歩いて行った。近くで見る姫路城、想像以上に美しかった。青空に映える白漆喰の美しさ。ベージュがかった石垣の色も上品。
見に来てよかった、と思ったら太鼓が鳴りだした。なんと今日はここで恒例の「人間将棋」が行われるのだった。知らなかった。テレビのニュースで見たがこれだったか。城バックで気分満点だ。
が、見ていく時間はない。芝生にはテーブル席が出ていて、空いていたので座って見回したら「姫路名物元祖あなごめし」の屋台が出ているではないか! やったぁ。「炭焼あなご やま義」の出店。城と穴子同時攻略成功!
さっそくそこで「あなご小わっぱめし」1300円を買った。値段もいいが逆に信頼できそうな。
あなごめし、期待していなかった分、素直にうまい。うなぎより軽く、でもやはり山椒が合う。さらにワサビもついていて、これも合う。山椒わさびがいい。穴子と飯の間に佃煮っぽい海苔が入っており、これがまた実にいい働き。アナゴは単体でなくごはんも含め周囲のそれらを巻き込んで実においしい弁当になっている。と、言いながら食べ終わる頃にはアナゴ自体がどんどんおいしくなっていった。俺は寿司屋の穴子しか知らなかった。
城を見上げて飲む昼の酒、実に気分がいい。卵焼きをつついて冷酒をちびり、アナゴをひと口、ショウガをつつき、またちびり。花見ならぬ城見弁当。これはたまらん。どんどん観光客が増えていくが、舞台から少し離れたテーブル席を確保している身としては、悠然としたものである。そのうち、鎧兜を着た人間将棋のコマたちが笛太鼓に合わせてゾロゾロと盤上に上がってきた。楽しい楽しい。これが一生の最後の弁当なら、なんと面白き、佳き日であろうよ。
―[連載『孤独のファイナル弁当』]―
【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi
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