日本では先週末に侍ジャパンシリーズの日韓戦2試合が行われたが、アメリカはすでにオフシーズンモード。先週には4日間かけて、新人王やサイ・ヤング賞など全米野球記者協会(BBWAA)の投票で決まる主要4賞の発表が行われた。

 例年通り、トリを飾ったのは両リーグのMVPの発表。文字通りMost Valuable Player(最優秀選手)に贈られる賞だ。

大谷は3年連続4度目の満票受賞

 ア・リーグは、予想通りアーロン・ジャッジ(ヤンキース)とカル・ローリー(マリナーズ)の一騎打ちだった。記者30人中17人の1位票を獲得したのはジャッジで、同13人のローリーを抑えて2年連続3度目の受賞。捕手ながら60本塁打を放ったローリーを推す声も少なくなかったが、打率なども含めた総合力でジャッジがローリーを退ける形となった。
 ア・リーグが僅差の決着となった一方で、文句なしの満票MVPに輝いたのがナ・リーグの大谷翔平(ドジャース)だ。30人の記者全員が大谷に1位票を投じ、2位カイル・シュワーバー、3位フアン・ソトを寄せ付けず、大谷は3年連続・通算4度目の受賞で、そのすべてが満票という前代未聞の記録となった。

 SNSなどでは、大谷の“満票受賞”に納得の声が多く上がったが、それも当然だろう。近年、MVPの投票で重要視されている「WAR」という指標において、大谷は2位以下を大きく突き放していたからだ。

 打者だけの数値でもナ・リーグトップクラスだったが、それに投手としての成績も加算されれば、大谷を2位で投じる理由は一つもないといったところだろう。

選手間投票ではシュワーバーが選出

 一方で、今年は大谷以外の選手に1位票を投じる記者がいてもおかしくないという予想も少なからずあった。その理由が、10月に行われた選手間の投票で選ぶナ・リーグの最優秀野手「アウトスタンディング・プレーヤー」に、シュワーバーが選出されていたからだ。

 シュワーバーは今季、フィリーズの2番打者として56本塁打、132打点をマーク。本塁打部門は1本差で大谷に競り勝ち、打点部門でも2位のピート・アロンゾ(メッツ)に6点差をつけ、2冠王に輝いた。


 低打率(.240)とDH専任だったことがネックとされていたが、チームメートやライバル選手らは大谷ではなく、シュワーバーを上に評価した。

SNSで巻き起こったファン同士の応酬

 こういった経緯もあり、30人の記者の中にはシュワーバーを1位に選ぶ者がいてもおかしくなかったが、現実は大谷による独壇場。これには一部の熱狂的なフィリーズファンからSNSなどで不満の声も上がった。

「まったくのでたらめだ!シュワーバーは大谷よりずっと良いシーズンを送っていた」

「カル・ローリーとシュワーバーがMVPを受賞すべきだった。彼らはともにチームの成功に非常に大きな影響を与えた。大谷とジャッジがまた勝ったのは、MVPがまだ人気投票のコンテストであることを示しているだけだ」

「申し訳ないが、ドジャースは大谷がいなくてもプレーオフには進んでいた。フィリーズはシュワーバーがいなければ今年はプレーオフに進めなかった。定義上、シュワーバーこそ真のMVPだ」


 ドジャースとフィリーズはともに豊富な資金力を武器にスター選手をそろえ、毎年のようにワールドシリーズ制覇を期待されるチームだが、今季に関していえば、フィリーズにとってシュワーバーの価値は何事にも代えがたかった。

 守備での貢献度がゼロとしてもなお、シュワーバーに1位票が全く入らなかったことに納得がいかないファンがいてもおかしくないだろう。

記者が自らの投票内容を公開して話題に

 それでもシュワーバーは、30人のうち23人が2位、5人が3位に投票。残る2人は4位と5位に投じたが、二冠王を最も低く評価した人物が自らその素性を明かしたことも、現地アメリカではちょっとした話題になっている。

 その人物は、カージナルスが本拠地を置くセントルイスの老舗新聞社「セントルイス・ポストディスパッチ」の野球担当主任記者、デリック・グールド氏だ。

 グールド氏は自身のXにて、ナ・リーグのMVP結果が発表された直後に手書きのメモを公開。自ら投じたとみられる10人の選手の名前とその順位を記載していた。


 当然一番上には大谷の名前があったが、2位にソト、3位にヘラルド・ペルドモ(ダイヤモンドバックス)、4位にポール・スキーンズ(パイレーツ)があり、シュワーバーの名前はようやく5位に登場。

「これが私の最終投票です。BBWAAに提出しました。フィリーズファンの皆さん、愛しています」という煽りともいえるポストが一部のフィリーズファンの怒りを買った。

思わぬ場外乱闘に発展…

 当該ポストに対して、「おもしろそうなので乗ってみるよ。なぜシュワーバーを5番目に置いたんだ?」「MVPの投票権をもらったのに、それをクリック稼ぎに使うなんて冗談だろ。もう二度と投票できないことを願うよ」など、シュワーバーに低評価を下したグールド氏に不満をぶつけるファンもいた。

 思わぬところで、ちょっとした“場外乱闘”に発展した今年のナ・リーグMVP投票だったものの、最もふさわしい選手が満票で選ばれた事実は変わらない。

 来季以降も大谷が投打でフル回転するようなら、引き続き満票での受賞が続くことになりそうだ。夢は大きく、来季はMVPとサイ・ヤング賞のダブル受賞か、それとも投打での三冠王か……。来季も2位以下の投票が議論の対象になるほど、大谷の圧倒的な活躍に期待したい。

文/八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。
地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。
編集部おすすめ