徹底した品質管理と熟練の注ぎ方で最上の一杯を提供するビアホール。家や居酒屋で飲むビールとの質の違いに驚く人も少なくないだろう。

 来店するお客は“ビール通”の紳士がほとんどとはいえ、アルコールの影響もあってか“ウンザリするような客”に遭遇することも。都内のビアホールで働く筆者が、実際に目の当たりにした迷惑行為を紹介していく。

「注文パネルの上にジョッキが…」飲食店員を悩ませる迷惑客。「...の画像はこちら >>

血を拭いたあとの紙ナプキンがテーブルに

 ビアホールでの接客中、憂鬱な気持ちになるのは食べ終え退店したお客のテーブルを目にした瞬間だ。

 飲食業界で「六つ折り(むつおり)」と呼ばれている紙ナプキンが散乱し、持ち込まれたペットボトルやお菓子のゴミが残されたままという場面は1日に何度も目にする。

 筆者は生理的に外食時に口を拭った紙ナプキンを他人に見られるのは嫌なのだが、その反対にいくらでも見られていいという人種も存在するようで、血を拭いたあとの紙ナプキンがテーブルに残されていたこともある。

 また、食べた枝豆のさやをテーブルの上に直接置きっぱなしという信じられない行為を目にしたものも一度や二度ではない。

 こうした食べ残しや紙ナプキンのゴミならまだしも、テーブルに残されたもので扱いに困るのがお客が無断で持ち込んだペットボトルなどの処理である。

 先日も、飲み放題を利用した団体客の一人がビールを飲む傍ら、持ち込んだ1.5リットル入りのミネラルウォーターを公然とラッパ飲みしていたが、宴会後テーブルには空のペットボトルが当たり前のように残されていた。

 一応、お客の私物なので退店時に「お忘れ物です」と差し出しても、返ってくるのは決まって

「ゴミだから捨てといて」

 という一言。

 ゴミなのは分かっていたが、店はゴミ捨て場ではない。

 とはいえ、底から1センチ程残っているミネラルウォーターのボトルを「ここに水の忘れ物なかった?」と取りに戻るお客もいるので一概に捨ててしまうわけにもいかないのである。

ビールジョッキをゴミ入れ扱い

 このようなゴミマナーで最も憤懣やるかたない気持ちになるのは、ビールジョッキやグラスがぞんざいに扱われたときである。

 筆者が働いているビアホールでは最上の一杯を提供するため、ジョッキやグラスは洗浄後、氷水に一定時間浸けてから使用している。

 その後もできるだけ人肌の温みを与えないように持ち、ジョッキの取っ手をお客の右手の位置にくるように提供する。

 
 そんなビアホールのプライドとも言えるジョッキやグラスに使用済みの紙ナプキンを突っ込んで返されたときは、自分の仕事が否定されたような気持ちになる。

 先ほどの枝豆の殻をテーブルに直置きと同様、アルコールが入った上での何気ない粗相だとは理解しているが、お客が帰ったあとのテーブルからはその人の性根が見えてくるようだ。

注文ミスで逆切れ、テーブルに残された料理

 飲食店で最も多くマナー違反やトラブルの元となるのはやはり注文時だろう。

 筆者が働いている店では数年前から注文はタブレットによるテーブルトップオーダーを採用している。

 お客自ら入力した注文履歴が残るだけに、以前の口頭でのやり取りに比べて認識の相違によるオーダーミスはかなり減ったが、それでもお客側の入力ミスによるトラブルは少なくない。

「二人で来て、パスタとグラタン2皿頼むわけないだろ!」

 ランチ営業時、同僚のホールスタッフが料理を提供した中年夫婦らしき2人客の男性側に詰められている。

 どうやら注文時に「グラタン×1」を「×2」と入力ミスし、注文通りにパスタ1皿とグラタン2皿が来てしまったことに怒っているようだ。

 お客側はグラタン1皿のキャンセルを望んでいるようだが、注文通りの料理を適切な時間内に提供した以上、店側としてはキャンセルを受けることはできない。

 このようなお客側の入力ミスは少なからずあるため、来店数と注文個数に違和感を持った場合はできるだけ提供前に確認を取るようにしている。

 ビールを注ぐ前、料理の調理前なら入力ミスによるキャンセルは受け付けるといった対応だ。

 しかし、ランチタイムや宴会が立て込んでいる繁忙時は目が届かない場合もあり、今回がまさにそれだった。

 結局、その2人客にはその日の店舗責任者が対応。食べきれないのであればテイクアウトも勧めたもののそれも拒否され、規定の料金を支払ってもらったようだが……。


 退店後、テーブルに残されていたのは、箸の刺さった手つかずのグラタン。

 ビアホールで働き始めて以来、これほど心が寒くなった食べ残しは見たことがない。

無残に汚されていくグラウンドメニュー

 また、メニューそのものへのマナー違反も後を絶たない。

 テーブルいっぱいにメニューを広げたままにし、その上にビールジョッキや料理の皿を置いて会食するお客だ。

 特に飲食店のグラウンドメニューというのはその店の看板のようなもの。

 ビールジョッキの水滴や料理の食べ散らかしで汚れていく様は見ていて気分のいいものではない。

 この手のお客はもはや習慣化されているのだろう、メニューが紙だろうがタブレットだろうがお構いなしだ。
 
 タブレットをコースター代わりにビールジョッキを載せている姿はまるで異邦人を見ているようだった。

<文/ボニー・アイドル>

【ボニー・アイドル】
ライター。体験・潜入ルポ、B級グルメ、芸能・アイドル評などを中心に手掛ける。X(旧Twitter):@bonnieidol
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