コミュニケーション能力を磨けなかったのは…
――名古屋大学をご卒業されているとのこと、真面目で聡明な方とお見受けします。ヨシオ:ありがとうございます。あまり大人の言うことに反抗や抵抗をせずに生きてきた学生時代だったかもしれません。地元は静岡県で、当時の高校の先生が「頑張って勉強をすれば、いい大学に入っていい企業に行ける」と言っているのを、「そんなものか」と受け入れていました。いわゆる、きちんと勉強をする子だったと思います。一浪の末、名古屋大学にも入学できました。
反面、高校2年くらいからは受験勉強に時間を割いたぶん、あまりコミュニケーション能力を磨くことができなかったのかもしれません。
苦労の末に就職するも、35歳で地元に戻ることに
――コミュニケーション能力が低いことで、不利な立場になることはありましたか。ヨシオ:名古屋大学農学部を卒業し、そのまま院進をしたのですが、就職活動の段になって、あまりに企業から“お断り”をされることが多くなりました。食品や薬品の開発職という、もともと狭き門を志望していたことも要因ではあると思いますが、40社近くの選考に落ちてしまいました。
本当に頭のいい人であれば、勉強をしながら他の経験を積むことができたのだと思いますが、私はそこまで器用な人間ではなく、仕方がなく愛知県内の別の業界に就職することになりました。
――その企業の待遇はいかがでしたか。
ヨシオ:年収は350万円くらいからのスタートでした。私は30歳で退職をしましたが、その時点で400万円未満だったと記憶しています。
――なぜ退職をしたのでしょう。
ヨシオ:部署異動に伴って、圧の強い上司になってしまいまして。ストレスを抱えて勤務するなら、別の方法でお金を作ろうと思って退職しました。ちょうど35歳くらいのときに実家に戻って、地元で就職することにしたんです。
「年収を見た女性」から無視された
ヨシオ:婚活は36歳の誕生日当日に始めました。最初の1年半ほどは、主に婚活パーティーへの参加です。昔から漠然と、「将来は自分も家庭を持っているだろうな」というイメージがあったんです。親戚などの周囲に家族連れが多かったことも関係するかもしれません。
――婚活開始当初は、年収400万円未満だったヨシオさんですが、不愉快な思いをしたことはありませんか。
ヨシオ:始めた当時、結婚相談所が主催する婚活パーティーにほぼ毎週参加していました。ひどいときは土日に2回ずつ(昼、夜)参加するなどの熱の入れようでした。そのなかで感じたのは、婚活パーティーは終了すれば関係性が終わってしまう一期一会なものだからこそ、本音がわかるということでした。
婚活パーティーは女性と対面する際、プロフィールカードを渡すシステムになっています。そこには私の学歴や年収が書かれているのですが、カードを一瞥した女性から、話しかけても一切答えてもらえず、無視を貫かれたこともありました。それから、私を含む男性2人、女性1人で話していたときも、乗っている車種を知った途端に、女性があきらかに片方の男性とだけ話すこともありました。
「お母さんとご飯でちゅか~?」という煽りLINEが
――くわえて、“実家暮らし”も相当なハードルになるのではないかと勝手に想像するのですが。ヨシオ:おっしゃる通りです。女性からすると、「家事ができない男」のレッテルにつながりやすいのでしょう。私の場合、15年近く一人暮らしをしてきたので、その点をアピールするように務めていたのですが。
また他にも、何度かデートを重ねたことのある女性とLINEでやり取りをしていたとき、送った写真のなかに誤って母親の背中が写っていたことがありました。
学歴と世渡りの上手さは別物
――ヨシオさんのように学歴において優秀な人が、そもそも希望の職に就けずに低収入に甘んじて、婚活においては女性から値踏みされて蔑まれるというのは、やりきれないですね。ヨシオ:もちろん私はある程度、勉強を頑張ってこられたと思いますが、学歴と世渡りの上手さは別物なので、その点については受け入れるようにしています。たとえば現在の職場でも、学歴は高卒でも仕事のできる人は多く存在します。仕事は、その場その場の状況判断を適切で迅速に行える能力のことであり、私にはあまり自信がない分野です。自分にない能力を持つ人を、素直に尊敬します。
また婚活も、女性に対して「この人と結婚すれば幸せになれる」と安心してもらえなければ、成婚に至らないと思うんです。誠実に生きるとか、真面目に生きてきたことも大切ではありますが、それ以上に、それをアピールできることが重要ですよね。ある意味では、これまでの人生で学ばなかったものを、社会人になってから学べたと思っています。
「あきらめずに努力を継続できる性格」を褒めたい
ヨシオ:場数をこなすうちに、だんだんと女性との会話、行ったことのあるデートコースが増えてきました。
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人の本音が剥き出しで渦巻く婚活の世界。いかにも誠実で真面目なヨシオさんが絶望しなかったのは、現実を受け入れる謙虚さがあったからではないか。自らの足りない部分と向き合う作業は愉快ではないが、その忍耐の先にしか見えない光景もある。現在奥様と結婚6年目、お子さんも2歳になるというヨシオさんの笑顔を見ると、そう思えてくる。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。
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