「新幹線」の車内では、さまざまな人が乗り合わせるだけに、お互いに配慮することが重要だ。しかしながら、他人の“マナー違反”が目につくこともあるかもしれない。
注意したくもなるが、相手が逆上してしまう可能性もあるため、その判断は難しいところである。

車内で堂々と通話「いま新幹線、いや、もう出た出た!」

「今から東京行きよるけん!」新幹線で大声でビデオ通話する男性...の画像はこちら >>
 佐伯奈央さん(仮名)は先日、東京から名古屋へ向かう新幹線に乗車した。

 指定席に着席してほっとしたのも束の間、隣席の男性が発車と同時にスマートフォンで通話を始めたのだ。

「いま新幹線、いや、もう出た出た!」

 男性の声は普通の会話レベルだったが、車内の静けさの中では際立っていた。周囲の乗客がチラチラと視線を向けるなか、車内アナウンスで「通話はご遠慮ください」と伝えられたにもかかわらず、男性は気にする様子もなく会話を続けた。

イヤホンなしで動画を再生

 通話だけでも迷惑な状況だったが、さらに男性はノートパソコンを開き、イヤホンを使用せずに動画再生を始めた。

 音量は大きくなかったので佐伯さんは注意しようか迷ったが、トラブルに発展する可能性もある。結局、声をかけることはできなかったという。同じ車両の乗客の中には、不快感から別の車両へ移動する人も現れた。佐伯さん自身も指定席料金を払っていたが、途中で静かな自由席へ移らざるを得なくなった。

「指定席代を払っているのに、こうして気をつかうはめになるのは残念でした」

 その後、車掌が巡回してきたタイミングで、佐伯さんは指定席の状況を伝えた。車掌の注意が功を奏したのか、ようやく車内は静かになったのだった。

 こうした注意するか迷うレベルの“小さなマナー違反”ほど、じつは厄介だったりする。

「今から東京行きよるけん!」ビデオ通話に固まる乗客たち

 中田実さん(仮名)は博多から東京行きの「のぞみ」に乗車。夕方の便で車内は静かな雰囲気に包まれていた。
出張資料に目を通そうとしたその時、隣席から衝撃的な大声が響き渡った。

「おーい、聞こえる? 見える? 今から東京行きよるけん!」

 隣の中年男性がスマホでビデオ通話を始めたのだ。画面には相手の顔が大きく映し出され、男性は周囲の状況を気にする様子もなく、そのまま会話を続けた。

 画面には、自分の顔まで映り込んでいた。だが、注意したくても声をかけられない。もしかすると、録画されているかもしれないという不安も相まって、簡単に動くことができなかったのだ。

「いや、今日も課長がさ、意味わからんこと言い出して……マジで無理っちゃけど!」

 ビデオ通話では会社の愚痴が繰り広げられていたが、次第に内容がエスカレートし、声は大きくなっていった。

「ほんと頭固いんよ。なんで俺だけ怒られないかんのか分からん!」

 相手も「それマジ?」「ひどいねえ!」と大きな声で返すため、二人の会話はほぼ車両全体に響いている状態だった。中田さんは資料を読むことができず、ただ前を向き、会話が早く終わることを祈るばかりだった。

 周囲の乗客たちも中田さん同様に困惑している様子で、視線を向ける人はいるものの、誰も注意する人はいなかった。ビデオ通話という性質上、注意した人まで画面に映ってしまう可能性があり、躊躇していたのだろう。


車掌の注意「恐れ入ります、お客様……」

 会話が10分ほど続いた頃、車掌が巡回でこの車両に入ってきた。男性の声は相変わらず大きく、愚痴の盛り上がりは最高潮に達していた。車掌は状況を一瞬で把握し、小さく会釈してから男性に近づくと、落ち着いた声でこう言った。

「恐れ入ります、お客様。車内での通話はデッキをご利用いただけますか」

 男性は自分が注意されるとは思っていなかったようで、「え? あ、ああ……はいはい」と不満そうに返事をすると、通話を切らずにスマホを持ったままデッキへと向かった。

 席を離れた瞬間、車内は静寂を取り戻した。中田さんは、ようやく深い息をつくことができた。男性はその後もデッキで話し続け、しばらく席に戻ってこなかった。

 中田さんは「注意したくても注意できない状況って、本当にあるんだな」と実感したという。そんなときに頼りになるのは、やはり車掌という立場の人なのかもしれない。

<構成・文/藤山ムツキ>

【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。
著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo
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