―[誰が為にか書く~北関東の山の上から~]―

都市部の生活に疲れ、人間らしい暮らしをしたい人の地方への関心が高まっている。そんななか猟師免許を持ち、北関東の山間部で狩猟生活をしながら役者業をし「山の中で楽しく遊んで暮らしているだけ」と話す東出昌大のもとには、山の生活に憧れ、彼の生き方に共感した仲間が集まる。
ここでは、東出昌大の実体験をもとに綴ったSPA!の人気連載を公開。今回は東出昌大本人が「この土地に恩返しがしたい」と考え、開催した“山の学校”の様子をお伝えする(以下、東出昌大氏による寄稿)

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「子供の怪我をする権利を保障すべき」という主張に共感

 独り山の中で楽しく遊び暮らしていた私だったが、怪訝な表情で「何がそんなに面白いんですか?」と訪ねて来た友人たちもこの土地にすっかり魅了され、ワラワラと移住者が増えた。

 田舎暮らしは東京と比較すれば極端に家賃が安いのも魅力の一つだが、やはり土地の方々にこれでもかと親切にして頂いたことが大きかったのだろう。家賃がタダor1万円くらいの住み処をそれぞれ構え、各々の田舎暮らしを満喫している。同時に私が「猟師になれば焼き肉食い放題」と能天気な発言を繰り返していたために皆一様に狩猟免許の取得も志し、ここ数年、猟友会の会員数は右肩上がり、今年は8人も新規で加入する。

 仲間が増えると人は不思議なもんで、何か出来る気がするし、何かしたい欲求が生まれるようだ。「せっかくだからこの土地に恩返しが出来て、あわよくば明るい未来にも繋がることをしたいね」ってな話し合いの結果、恩人の営むキャンプ場で「山の学校」を開催するようになった。

「危ないからダメ」は“子供のため”か?山の学校で教えたナイフの危険性と使い方/東出昌大
参加者さんが描いてくれた似顔絵
 学校と銘打つだけあって、参加者の中心は子供。以前、公園で花壇に手を伸ばす子供に向かって「汚いから触っちゃダメ!」、コンクリートの縁石に足をかける子供に向かって「危ないから登っちゃダメ!」と親が声掛けする状況を私が都会で度々見たことがあり、胸がキューッとなった経験があった。そんな時ヨーロッパの幼児教育で「子供の怪我をする権利を保障すべき」という声が上がっていると知り、これは大事だと深く頷いた。

 子供たちにはナイフを配って使い方と危険性を教える。親には「子供のやることにすぐ口を出すのをちょっと我慢して」とお願いをする。
ある場所では猟友がその日の朝に獲ってきた獣の解体をし、一方では釣り名人が教える渓流魚の締め方と串打ち講座。春は山菜、秋はキノコを探しに行くグループが山に向かい、夏はキャンプ場の目の前を流れる川で遊んだり。どこにフワッと属しても良いし、独りで物思いに耽っても良し。狩猟採集民のコロニーのように、皆で生命維持をしている集団が理想とするところで、腹が減った子がうろついてたら誰ともなくご飯を差し出し、あの人は喉が渇いてそうだと気付ければコップに汲んだ水を差し出すような、自主自立と共生が目標の催しだ。

 朝の受付を終えたばかりの子供たちは人見知りを発揮しモジモジしているが、午前中には気の合いそうなお友達を見つけ、午後にはみんなで走り回っている。大人のほうが「何をすれば良いですか?」と命令や決まりごとを求める発言をするのが興味深く、きっと今まで社会で頑張って来たからなんだろうなぁと考えたりする。だから「何もしなくても良いし、しても良いですよぉ」とお伝えすると、急にその場に立ち尽くし、遠い山並みを眺め、やっと空の広さを感じていたりする。現代は、日常の中で空を眺める無為な時間が少ないのかもしれない。

 応募は私のYouTubeチャンネルの投稿欄で告知をし、参加者さんは北は北海道、南は沖縄まで、全国からご参加頂いた。今まで4回開催し、ご応募のリピート率も高く、ご好評頂けていると思う。

 だが、やってみて分かった事だが、悩みもある。次回は山の学校についての心の内を書かせて頂きます。


<文/東出昌大>

―[誰が為にか書く~北関東の山の上から~]―

【東出昌大】
1988年、埼玉県生まれ。’04年「第19回メンズノンノ専属モデルオーディション」でグランプリを獲得。’12年、映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビュー。現在は北関東の山間部で狩猟生活をしながら役者業をしている
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