―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは2026年のツアーで出される予定の『三陸豪華弁当』(試作品)。
果たして、お味はいかに?

試作品だけど食すチャンスが到来!『三陸豪華弁当』<人生最後に...の画像はこちら >>


孤独のファイナル弁当 vol.16 「三陸の試作品豪華弁当を試食!」

 岩手の三陸鉄道沿線取材の仕事をした。

 15年前の東日本大震災後、サンテツにはたびたび乗っている。ぜひ残してほしいラヴリーな鉄道なので、微力ながら応援している。

 旅の途中で、旅行代理店が考えている2026年のツアーの三陸豪華弁当、というのを食べさせていただくチャンスに恵まれた。

 まだ制作途中で、これで決定ではないし、弁当箱もとりあえずのものだという。

 そこが逆に嬉しい。食べ物の試作品とか、レストランの厨房のまかないごはんは、なぜこうも魅力的なんだろう。

 写真をご覧あれ。弁当箱が飾り気なく地味なので、気持ちが無防備になる。食うとその心の隙に旨さが容赦なくズゴンとぶっ刺さってくる。

 まず右手真ん中。岩手和牛のすき焼き。
これがもうめちゃくちゃウマイ! 肉柔らかく味付け上品。冷えていても全く問題ない。ものすごいツカミだ。瞬間幸せ沸騰おかず。

 その上、隅のところに、ぎゅっと入ってるのが刺し身、真鱈、赤貝、スルメイカ、帆立。醤油をピッとかけて食べたが、全部最高に新鮮。こんな隅っこに押し込まれてる方々ではない。本来、高級陶器皿の上で何種ものツマをはべらせてゆったりと寛いでいる御仁たちであられる。日本酒欲しい。すき焼きの下が牡蠣グラタン。牡蠣がぶりぶり入ってる。クソうまい。
失礼、思わず下品な言葉が出た。お里が知れる。

 誌面の都合で細かいオカズを飛ばすが、小物も全部ピンで立てる芸を持っている。で左側の大物がタラフライ。鱈は三陸の名産。ソースをちょいと垂らして食べたが、ドうまい! ごめん。言葉がない。鱈そのものが超ド級のうまさなのである。これとライスだけでもういい、という一品。

 そこに宮古トラウトサーモンハラス焼き、とくりゃあもうノックアウトでしょう。レモンを絞って食べてごらんよ。お大名か殿様か、貴族か大悪党かっていう、民草の口にゃ入らないようなお宝味でさぁ。


 上等なだし巻き卵ののった二色ごはん。米がうまい。ああそうだった、岩手は米も有名だった。そこに鶏そぼろと海苔。ここだけ妙に懐かしいお弁当になってて、気取りのない岩手人の性格を表している。岩手が生んだスーパースター大谷翔平の謙虚さと微笑だ。いやー、どこをとっても死角なし。これが野球なら俺のチームは打てばオール三球三振、守れば全員にホームラン打たれて、100対0負けだよ(計算が合わねえぞ)。

 しかしこれ、いったいいくらの弁当になるんだろう? 教えてもらえませんでした。そりゃそうか。売ってたら値段見てビビって買えないかも。この一箱で3食分くらいのご馳走濃度。
読者の皆さん、すまぬ。たまにはいいでしょ? 

 これがファイナル弁当だとしても、この試作段階のをこの器で試食としていただきたいものです。

試作品だけど食すチャンスが到来!『三陸豪華弁当』<人生最後に食べたい弁当は?>/久住昌之
三陸ツアーの三陸豪華弁当の試作品。主役級の逸品がところせましと飾り気のないお弁当箱に詰められている。特大ホームランの連続に食べた後は放心状態だ。


試作品だけど食すチャンスが到来!『三陸豪華弁当』<人生最後に食べたい弁当は?>/久住昌之
孤独のファイナル弁当


―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi
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