慶應義塾大学文学部を卒業した才媛であり、子役経験もあるタレントで、現在は実業家として活動する大門遥(芸名:水瀬はるか)さん(29歳、haruka_jbmir)。その手中に何もかもを収めたかに思える彼女は、「とんでもない、コンプレックスをバネにここまできた」と昔を振り返る。
その源泉を辿った。
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輝かしいキャリアも「人生に絶望した」時期が

――大門さんは浦和一女(県立浦和第一女子高校)から慶應義塾大学、そしてその美貌と、成功者のイメージが強いですが、かなり悩んだ過去があるとか。

大門遥:そうですね。メンタルがしんどくなり、人生に絶望して半年くらい働けなかった時期もあるほどです。

 私が卒業した高校は埼玉県の県立で、いわゆる進学校です。アルバイトは原則禁止で、ほとんどの生徒が勉学に向かう雰囲気があったと思います。アルバイトが禁止ということは、親からもらうお小遣いに依拠しないといけないので、実は結構露骨な経済格差が出たりするんです。高校生までは、私はサラリーマン家庭ながら裕福な部類で、駅前に新しくできたお店に毎日いれるような、ちょっと恵まれた生徒でした。成績も良好でしたし。ただ、慶應に入学してみると、「自分はぜんぜん主人公なんかじゃなかったんだ」って気づいてしまったんです。

大学の同級生に日テレ岩田アナが「あまりの可愛さに…」

「慶応卒の29歳女性起業家」が抱いた、同級生(日テレの人気女性アナウンサー)に対する複雑な感情「肩を並べるには“東大”に行くしかないと思った」
高校時代の大門さん
――興味深いです。大学入学後、何にそこまで打ちひしがれたのでしょうか。

大門遥:端的に言えば、附属から上がってきた学生や都内私立中高から受験して入ってきた学生たちの眩しさに驚かされたんです。私は所詮はサラリーマン家庭のなかで、たまたま普通の人よりも経済的には恵まれていて、容姿も少し良くて、勉強に対する努力もできただけなんだとわかったんですよね。
スタートラインがまったく違う子が慶應にはゴロゴロしていたんです。「家にエレベーターがあるけど4人乗りの小さいやつだよ」「日本の平均年収って、1500万円くらい?」みたいなことを素で言う子もいて、生きている世界が違うと感じました。

 そのなかに際立って印象的なひとりの女の子がいました。岩田絵里奈という子です。たまたま語学のクラスが一緒になったのですが、出会いが大学のガイダンスでした。そこで隣に座った彼女を見て、あまりの可愛さに稲妻が走りました。「青天の霹靂とはこういうことを言うのだろう」と思ったのは、後にも先にもこれだけです。運がいいことに私は彼女と親友になれて、尊敬しつつも憧れていました。

 ご承知のように、彼女はそのあと日本テレビのアナウンサーとなり、現在でもテレビで見ない日はない人気アナウンサーになりました。一方で、私は大卒後、大手通信系の企業に内定しました。

――有名な方ですね。ただ、大門さんが新卒で入った会社は日本で知らぬ者のいない大企業で、立派だと思いますけどね。


大門遥:安定志向の両親は、特にそのように喜んでくれました。けれども、かつての親友が朝の番組に出演し続けるのを見ながら、地味な仕事をし続けるのは結構苦痛でした。「私、何をやってるんだろう」という思いが募ってきましたね。

岩田アナと自分を比較してしまい…

――かつて肩を並べていた親友がどんどん世間で影響力を持つのに対して、一介の会社員であるご自身が矮小に思えたということでしょうか。

大門遥:きらびやかなテレビの世界にいる彼女と、OL姿の自分を比較してしまって、落胆する日々でしたね。私の様子を見かねた周囲の友人が、「もうテレビ見ないほうがいい」と助言をくれても、当時の私はそれが逃げに思えて、情報を遮断することができませんでした。

 他方で、生来の真面目さと負けず嫌いがあって、仕事でも成果を出したいとかなり無理をしていたと思います。社会人4年目のとき、仕事を頑張りつつ、東大の大学院受験を目指したんです。

“東大”に行くしかないと思い立つ

「慶応卒の29歳女性起業家」が抱いた、同級生(日テレの人気女性アナウンサー)に対する複雑な感情「肩を並べるには“東大”に行くしかないと思った」
岩田アナと一緒に撮った一枚
――東大の大学院を志したのはどういう理由でしょうか。

大門遥:簡単に言うと、勲章が欲しかったんです。当時は東大生がメディアでもてはやされていた時期だったので、「親友に比肩できるようになるためには“東大”に行くしかない」と思ったんです。けれども人並み以上に仕事をしながら勉強時間を確保するのはかなり厳しくて、半年くらい2、3時間睡眠を続けました。研究室めぐりなどの根回しさえしていなかった私はあっけなく受験に失敗して、人生に絶望しました。その後、不眠症を発症してしまい、休職をすることになりました。


――岩田アナとの思い出を教えてください。

大門遥:本当に2人でいると楽しくて、たとえば語学の授業ではうるさすぎて先生に死ぬほど怒られた記憶があります。サークルのダンス練習を2人でついついサボってしまって、そのまま本番に臨もうとして先輩に叱られたこともありましたね。大学の中庭で2人でポージングをして写真撮影をしたり、私にとって気のおけない親友です。

 実は絵里奈について語るのは、この記事が初めてなんです。知名度で劣る私が絵里奈のことをメディアで語れば、多くの人は「売名行為だ」と思うでしょう。だから黙っていたんです。けれども、絵里奈にこのインタビューの話をしたら、「公表していいよ」と快諾してくれました。そして「そんなふうに遥が私を思っていたなんて気づかなかったし、私は遥を格好良いと思っているよ」とも。人気アナウンサーになっても気さくに応じてくれる彼女の懐の深さが尊敬できるし、ずっと背中を追い続けたいと思わせてくれる女性だなと改めて感じます。

岩田アナは「嫌いになれる要素がない」

「慶応卒の29歳女性起業家」が抱いた、同級生(日テレの人気女性アナウンサー)に対する複雑な感情「肩を並べるには“東大”に行くしかないと思った」
複雑な感情を抱きつつも、岩田アナの存在があったからこそ現在の自分があるともいう
――かつて、親友である岩田アナに対して執着し続けたとのことですが、当時は辛くなかったですか。どのあたりから、その執着は消えていくのでしょう。

大門遥:辛かったです。
いっそのこと嫌いになれればいいのでしょうけど、絵里奈は容姿や肩書が素晴らしいだけではなく、性格も本当によくて、嫌いになれる要素がないんです。結局、恵まれて育ってきているから、人に対して汚い感情を持たないし、努力をまっすぐに信じられるから魅力的なんですよね。そんな彼女に向き合うのは、人間として自分のダメなところを直視させられているようで、きつい時間でした。

 休職後は、自身でペット関連事業を立ち上げるなどを経て、世界的コンサルとして名高いアクセンチュアに就職しました。アクセンチュアでの働き方にも数年のあいだ対応することができて、結果としてよい評価を受けたことにより、これまでの自分の過程を肯定的に捉えられるようになりました。

 また、自身の容姿へのコンプレックスについて、真摯に向き合えたことも大きかったと思います。ダイエットや美容医療・矯正などによって欠点を解消し、自分の課題や弱点から目をそらすことなく、全方位に努力を続けられました。そうした経験によって、自分で自分を認めてあげることができました。

「私は突然変異」起業したことに対して両親は…

――現在はそのアクセンチュアも離れて、ご自身でコンサルタント業をされていますよね。

大門遥:はい。自身のコンサルティング経験と美容医療が好きだったことを生かして、株式会社日本美容医療総合研究所という会社を立ち上げました。起業したばかりでHPが準備中で見せられないのが悔しいのですが、美容医療や再生医療などの自由診療のクリニックの経営コンサル・事業再生や、SNS運用などのマーケティング事業、またインバウンド事業を展開しています。共同経営の弁護士と、自社でデューデリジェンスを完結できるだけでなく、その後の立ち上げまで支援できる、M&A事業も展開しています。


――ご両親は現在のご活躍をどのようにおっしゃっていますか。

大門遥:私の家は「父親が企業に勤め、母親は家庭に入って家を支える」という古くからの日本にありがちな価値観です。起業をするという発想すら持たない両親にとって、私は突然変異みたいなものですから、「大丈夫なのか」とすごく最初は心配していました。けれども最近は、会社が順調に行っていることを理解してくれたようで、応援してくれています。

いつか「恋愛リアリティショーに出演したい」

「慶応卒の29歳女性起業家」が抱いた、同級生(日テレの人気女性アナウンサー)に対する複雑な感情「肩を並べるには“東大”に行くしかないと思った」
岩田アナとの関係は現在も進行形で続いている
――収入のほうもかなり良さそうですね。

大門遥:収入はまだまだですが、担当させていただいている全院の売上が伸びているので、美容医療業界では口コミが広がって新規のお問合せを結構いただきます。今の時期はむやみに事業を拡大しようとせず、目の前のお客様を確実に成功させることだけを考えています。

――今後の目標を教えてください。

大門遥:目の前のクライアントを確実に成功させていきたいと考えています。あと、結婚もしたいなと最近は思っているので、恋愛リアリティショーに出演したいなぁとおぼろげに考えています。もちろん、両親が知ったら驚きでひっくり返ってしまうかもしれませんけど(笑)。

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 大門さんと対峙すると、正直さとは何かを考えさせられる。
都合のいい言葉で取り繕わず、自分のなかにある醜い感情も目を背けたくなる悪態も受け入れて、さらけ出せる潔さ。彼女の魅力はその一点にこそある。

 そしてその魅力は、栄華を極めてなお偉ぶることのない岩田絵里奈アナの人間性との化学反応によって醸成されたものかもしれない。

 目指した栄光に手が届かなかったとしても、人生は続く。だからこそ思い通り生きられない時間を消化試合にせず、いびつで不格好なまま、別の何者かになれるまで、大門さんは挑戦をやめない。

<取材・文/黒島暁生>

「慶応卒の29歳女性起業家」が抱いた、同級生(日テレの人気女性アナウンサー)に対する複雑な感情「肩を並べるには“東大”に行くしかないと思った」
大門遥


「慶応卒の29歳女性起業家」が抱いた、同級生(日テレの人気女性アナウンサー)に対する複雑な感情「肩を並べるには“東大”に行くしかないと思った」
大門遥


「慶応卒の29歳女性起業家」が抱いた、同級生(日テレの人気女性アナウンサー)に対する複雑な感情「肩を並べるには“東大”に行くしかないと思った」
大門遥


【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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