2025年シーズンは、まさに「巨人が弱くなった」と感じた人が多かったのではないだろうか。1年前の優勝が脳裏から消え去ってしまいそうな、情けないほどの負けっぷりだった。
阪神、広島に対しては言うまでもなく、交流戦も6勝11敗1分と大きく負け越した。
 なぜここまで調子を落としたのか。それは、「岡本和真の故障による離脱」が引き金になっている。岡本は開幕から32試合(故障をした試合を含む)続けて4番で出場し続けた。その間のチームの勝敗数は、17勝14敗1分だ。

 ところが、5月6日に岡本が負傷してからの巨人打線は迷走を重ねることになる。

※本記事は、江本孟紀著『長嶋亡きあとの巨人軍』より適宜抜粋したものです。

【江本孟紀】岡本和真の故障は巨人首脳陣による「人災」である。...の画像はこちら >>

岡本の故障は巨人首脳陣による「人災」

 
 岡本の離脱は防ごうと思えば防げたはずだ。言ってみれば、巨人首脳陣の判断ミスがもたらした人災といっていい。

 この試合、サードに起用されたのはルーキーの浦田俊輔。長崎海星、九州産業大学を経て2024年にドラフト2位で指名を受け入団した内野手である。2025年シーズンは開幕一軍入りしたうえ、開幕戦のヤクルト戦に代打でプロ初出場を果たす。その後、二軍落ちはしたものの、5月5日に再登録されて、翌日の阪神戦に「8番・サード」のスタメンで出場した。


 その試合で、一塁に向けた浦田の送球が逸れてしまう。ファーストの岡本が捕球しに行ったところで、打者走者の中野と交錯するのだ。岡本は左ひじの靭帯を損傷して二軍でのリハビリを余儀なくされた。

なぜ浦田をサードで起用したのか

 浦田がプロの世界で経験しているポジションはショートだけだった。なぜそんな浦田を、いきなりサードで起用したのだろうか。

 まず、ショートとサードでは飛んでくる打球の質感が違う。「ボテボテのゴロ」といっても、打球の速さや飛び跳ね方が違う。ショートよりもサードのほうがクセのある打球が飛んでくる。

 捕球するだけなら違和感は少ないかもしれないが、問題は送球である。それぞれの守備位置で景色がまるで違うのだ。打球を捕ってからファーストに送球する際、ショートの場合は、ななめ左を見ることになる。

 一方、サードの場合は、捕ってから真横、あるいは左後ろを見ながらになる。このとき、ファーストを目がけて投げてしまうと、左右のどちらかにボールが逸れてしまうことがある。
浦田の場合は、サードから見て右側、つまり打者走者の走塁進路の方向に逸れてしまったことで、岡本の負傷につながる不幸な事故が起こってしまったというわけだ。

“複数ポジション制”の問題点

 
 複数のポジションを守れる選手がいれば、戦術や作戦を練るうえで手駒が増えたように監督は感じる。起用したい選手のポジションが被っていたら、「今日はほかのポジションを守らせてみよう」と考えたくもなるだろう。浦田については、二軍の試合でサードを試すべきだったが、その形跡はない。「ショートを守れるんだから、サードだってそつなくこなせるはずだ」とでも首脳陣は考えていたのだろうか。もしそうだとしたら考えが甘い。

 たとえば坂本勇人である。本格的にショートからサードにコンバートされた2024年シーズン、さっそく結果を残してゴールデングラブ賞を受賞した。これは守備能力が抜群に高い坂本だから成せたわけであって、すべての内野手に当てはまるものではない。坂本の成功体験があったからこそ、巨人の首脳陣は見誤ったのかもしれない。

 結果的に、ショートが本職である浦田の送球によって、主軸の岡本が負傷。その後のチーム構成に大きな悪影響を与えてしまった。
単にスランプで調子を落としているのなら、体調を万全にさせ、復調するのを待てばいいが、故障は違う。選手生命にもかかわる事態を招いてしまえば、それこそ取り返しがつかないこともありえる。

 このように本来のポジション以外での選手起用は、リスクと隣り合わせなのである。岡本の長期離脱は、見通しの甘さが招いた悲劇といっても過言ではない。
 
<談/江本孟紀>

【江本孟紀】
1947年高知県生まれ。高知商業高校、法政大学、熊谷組(社会人野球)を経て、71年東映フライヤーズ(現・北海道日本ハムファイターズ)入団。その年、南海ホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)移籍、76年阪神タイガースに移籍し、81年現役引退。プロ通算成績は113勝126敗19セーブ。防御率3.52、開幕投手6回、オールスター選出5回、ボーク日本記録。92年参議院議員初当選。2001年1月参議院初代内閣委員長就任。2期12年務め、04年参議院議員離職。
現在はサンケイスポーツ、フジテレビ、ニッポン放送を中心にプロ野球解説者として活動。2017年秋の叙勲で旭日中綬章受章。アメリカ独立リーグ初の日本人チーム・サムライベアーズ副コミッショナー・総監督、クラブチーム・京都ファイアーバーズを立ち上げ総監督、タイ王国ナショナルベースボールチーム総監督として北京五輪アジア予選出場など球界の底辺拡大・発展に努めてきた。ベストセラーとなった『プロ野球を10倍楽しく見る方法』(ベストセラーズ)、『阪神タイガースぶっちゃけ話』(清談社Publico)をはじめ著書は80冊を超える。
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