“SHOW-1”の名前で活動するショウイチさん(35)は、トランスジェンダーとして葛藤やつらい経験をしてきました。現在は苦難を乗り越え、InstagramやTikTokで「元女子」として発信活動をしています。
今回はショウイチさんに、幼少期の苦労や、怖かったというお父様へのカミングアウト、そして世の中に対して思うことを伺いました。
幼少期~思春期までの苦労
ーー女子時代の幼少期から思春期あたりまでのお話を伺えますか。ショウイチさん:僕は1990年に生まれ、三重県伊勢市で育ちました。女の子で生まれましたが、物心がついた頃から自覚は男の子で、大人になったら男の子になると何の疑問もなく思っていました。
でも、男の子の遊びをしたり、好きな色である黒や青のものを身につけたりすると、周りの反応がいまいちよくありませんでした。
ーー具体的に、どのような反応をされたのでしょうか。
ショウイチさん:男子と男の子の遊びをしたかったんですけど「あいつ女なのに男と遊んどる」と噂をされるんです。それがいやで女子と遊ぶようにしていましたが、絵を描いたり、おしゃべりしたりしても楽しくなくて。
ガールズトークでは好きな人の話題になったときに嘘をつけなくて、正直に女の子の名前を挙げて驚かれることもありました。
ーー周囲との居心地の悪さを感じていたのですね。
ショウイチさん:男っぽいということでついたニックネームは「オトコオンナ」「メスゴリラ」。
ーー普段は仲がいい子たちから付けられたのですね。おちゃらけた感じで、度が過ぎてしまったのでしょうか。
ショウイチさん:そうです。仲がいいからこそ言っちゃったんやろなって思います。
ただ、今になって思うのは、親しき仲にも礼儀ありってやっぱり大事だなってことです。親しいからといって「アホ」「バカ」みたいに度が過ぎた言葉を投げかけていいわけじゃない。
ーー子どもだけの話ではなく、大人同士でも大切なことですよね。
ショウイチさん:本当にそうです。そのときの経験があるから、ちゃんとお礼や挨拶をしようって、今でもすごく意識しています。
体の変化が大きなストレスに
生きてて何が楽しいのか分からなくなり、小4ぐらいから毎日自由学習帳に「死にたい」となぐり書き。バレないように、細かくちぎってぐしゃぐしゃにしてゴミ箱の底に捨てていました。
ーー苦しみを一人で消化するしかなかったのですね。
ショウイチさん:それでも発散できなければ、自分や壁を殴る。拳から血が出ることもありました。
とくに体が変化する時期はつらくて、お風呂に入ると鏡があるからいやでも自分の体が見えます。
胸が膨らんできたときは、剥がそうとして手で掴んであざができることもありました。体は自分から離れないので、死んだら体から魂が外れるんじゃないかと思い、小学校卒業前にリストカットと飛び降り自殺未遂をしました。
小学校のときが一番きつかったです。
中2の時に出会った「LGBT」という言葉
ショウイチさん:周りに「元気なさそうけどなんかあったの」と声をかけてくれる人が現れたんです。
親しくてもいやなあだ名で呼んでくる人もいれば、気にかけてくれる人もいるんだってことに気づいて。中学生あたりからは死のうと思わないようになりました。
また、中2のときにLGBTという言葉をNHKの番組で知りました。
中でも、身体的には女性として生まれたが、自身には男性との自認があるFTM(Female to Male)というキーワードにしっくり来ました。
美容専門学校での意外な反応
ーー高校卒業後はどのような道を歩まれたのですか。ショウイチさん:美容専門学校に入り、18歳から男性ホルモン注射の接種もスタートしました。
ただ、男性ホルモン注射を打ち始めると、ひげが生え声が低くなってきます。学生生活の途中から男性化するので、周りが混乱しないよう男子学生として入学できないか理事長に相談しました。
すると「過去にお前みたいな生徒おったぞ」と言われて。田舎の学校やったので、なおさら衝撃でした。「いたの!?」みたいな。「親も理解しとるんやったら別にええぞ」と言ってもらえて、男子学生として入学しました。
ーー2008年あたりの時代背景を考えると、かなり理解のある専門学校だったのではないでしょうか。
ショウイチさん:美容業界ってなぜかゲイが多くて、そういうのもあってか理解してもらえて嬉しかったです。でも逆に「トランスジェンダーといっても悩みは人それぞれ違うから、どういう対応をしてほしいかは自分から言ってほしい」とも言われました。
本名のエリという名前で入学しましたが、名札を男子名に変えてもらったり、男子女子で分かれる授業にも配慮がありました。
性別適合手術をするために怖い父へカミングアウト
ショウイチさん:親父は、怒らせたらまずいって近所で有名になるくらい怖いおっちゃんで。すぐ怒鳴るし見た目もいかついし、男は男らしくみたいな固定観念がある人でした。
でも、唯一無二の親だし、勘当されたら家を出ていく覚悟で伝えようと決意しました。男性ホルモン注射を打っていたこともあり、見た目が明らか男っぽくなりかけていた頃でした。
ーーカミングアウトしたときのことは覚えていますか。
ショウイチさん:怖すぎて泣きじゃくって、なんて言ったのかまったく覚えていないんですけど、一言目に言われたのが「我が子には変わりないけどな」でした。否定から入らずに「娘とか息子とかじゃなく、我が子には変わりないやろ」と言ってくれて。
二言目が「性別を変えるってことは手術するのか」と。そのつもりだと言ったら「分かった。健康には気をつけろよ」と。
ーー反対されなかったのですね。
ショウイチさん:反対せえへんのって聞いたんですよ。
「確かに」って思った瞬間に、親父が三つ目の言葉を言いました。「とにかくお前の人生なんやから、後悔ないように生きろ」と。
「俺は俺、お前はお前の人生やから、人様に迷惑かけんように生きればいい。苦しかったやろうし我慢してきたやろうから、自分のしたいことをこれからしていけ」と。
父親が変えてくれたこと
ショウイチさん:僕の中ではかなり宝物の言葉になりました。
それまで自分のことが大嫌いだったし、顔出ししてポジティブに発信するような人ではなかったので、考え方が変わったのは親父のおかげです。
ハタチで専門学校を卒業後、すぐにタイのバンコクで性別適合手術を受けました。性別変更の手続きを経て、21歳頃に名前をエリからしょういちに変えました。
性別適合手術の内容や金額
ショウイチさん:僕は胸の乳腺と脂肪を取り、同時に、当時の戸籍変更条件が生殖能力を欠かすことだったので、卵巣と子宮も取りました。
現在はホルモンバランスや免疫力、自律神経を整えるためにも、月に1回は男性ホルモン注射を打っています。
ーー手術にはどれくらいのお金がかかりましたか。
ショウイチさん:僕が手術した2010年はまだ安くて、渡航費や宿泊費すべて込みで70万ぐらいでした。
ーー思ったより安いですね。100万円はするものだと思っていました。
ショウイチさん:今はそれくらいしますね。ただ、厳しい条件はありますが、今は保険適応で手術することも可能になりました。
性別変更を経たからこそ、経験したこと
ーー性別変更を経たからこそ、経験したことは何かありますか?ショウイチさん:学生向けの講演会やインスタのコメントで「お風呂やトイレは男性用・女性用どっちに入りますか」とよく聞かれます。僕は今は男湯、男子トイレを使っています。
女子学生時代は女湯、女子トイレを使用していましたが、中3の頃から見た目が男性っぽくなってきて、女性トイレに行ったら中から出てきた女性に「ちょっとボク!ここ女子トイレ!男の子あっち!」と言われ。
ーー男の子として認識されるようになったのですね。でも、同時に複雑な心境にもなりそうです。
ショウイチさん:「嬉しいような、でもトイレはしたいし…」の葛藤経験がよくありました。
お母さんと銭湯に行っても「男の子はあちらですよ」と言われるようになったので、中3の頃から女性専用の場所は使いにくくなっていました。
女湯は視線が気になって行かなくなりましたし、女子トイレも行かないようになって、トイレはよく我慢してましたね。
ーー外出先では、多目的トイレの利用は考えられたのでしょうか?
ショウイチさん:多目的トイレは、車椅子やオストメイトなど身体的に必要な方が優先だと考えていたので、使いませんでした。コンビニに男女共用トイレがあったので、それは気兼ねなく使っていました。
自分自身をたくさん見つめてほしい
ーー同じお悩みを持つ方へのアドバイスをいただけますか。ショウイチさん:悩みを抱えているときはぶっちゃけきついですが、弱みは強みにもなります。
僕の場合、トランスジェンダーは弱みやったけど、誰かの悩みに寄り添えたり、お仕事になったりもしています。悩みごとは誰にでもあるし、必ず乗り越えられるときが来るから、どんどん自分を見つけていってほしいです。
ーー自分らしさって、大人になっても難しい課題だと思います。
ショウイチさん:たとえば「ピンクは好きなほうですか」「博物館は好きなほうですか」みたいな、簡単な質問を自分に投げかけるだけでも自己理解につながると思います。
僕、男の子の友だちがいて、トランスジェンダーではないんですけど小さい頃からピンク色やスカート、キラキラしたものが好きな子でした。
バカにされても好きなものは好きって言い切る強い子で。今なにをしているかというと、めちゃめちゃ有名な歌手たちのファッションデザインをやっています。
時間は無限にないし、明日死ぬかもしれません。自分が何を好きで、どういうものに興味があるか、何を経験したことがないのかを思い起こして、自分をどんどん見つめてほしいです。
<取材・文/松浦さとみ>
【松浦さとみ】
韓国のじめっとしたアングラ情報を嗅ぎ回ることに生きがいを感じるライター。新卒入社した会社を4年で辞め、コロナ禍で唯一国境が開かれていた韓国へ留学し、韓国の魅力に気づく。珍スポットやオタク文化、韓国のリアルを探るのが趣味。ギャルやゴスロリなどのサブカルチャーにも関心があり、日本文化の逆輸入現象は見逃せないテーマのひとつ。X:@bleu_perfume
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