15分間以上もトイレを占拠する女性
黒崎さんは、大学の友人と二人で旅行に出掛けた。新幹線の車内は比較的空いており、黒崎さんたちは写真を見返したり、お菓子をつまんだりしながらのんびりと過ごしていた。そんなとき、黒崎さんはメイク崩れに気づき、トイレに向かった。トイレは車両ごとに数が限られている。女性専用の洋式トイレの前には、すでに2人ほどが順番待ちをしていた。黒崎さんも列に加わり、やがて前の女性が個室に入った。
しかし、ここからが長かった。
「5分、10分、15分……。前の女性はいっこうに出てくる気配がありません。後ろにも列が伸び始めました」
列で待っている人たちは、困った表情で時間を気にしていた。ようやく個室から物音が聞こえてきたかと思うと、次に聞こえたのは「カシャッ、カシャッ」というスマホのシャッター音だったのだ。
「まさかとは思いましたが……」
個室から出てきた女性の姿を見て、黒崎さんは驚いた。その女性はしっかりとメイクを終え、髪型まで整えたうえで、自撮りをしていたのだ。
トイレの中はひどい有様で…
黒崎さんが個室に入ると、ファンデーションの粉が飛び散り、コンタクトケースやコットンが軽く濡れたまま放置されていた。まるで「化粧台」のように使われた後で、とても清潔とは言えない状態だったという。黒崎さんは長蛇の列を気にしながら、急いでメイク直しを済ませて個室を後にした。
席に戻った黒崎さんに、友人は「遅かったね、どうしたの?」と尋ねた。トイレでの出来事を話すと、友人もうなずいた。
「メイクを直したい気持ちは分かるけど、長時間占領されると困るよね……」
新幹線のトイレは単なる「トイレ」ではないのだ。
「トイレは新幹線の限られた空間における、重要な公共スペースです。利用者が譲り合わなければすぐに混雑し、誰かが困る状況になってしまいます。急を要する人や、体調が優れない人もいるかもしれません。メイク直しや着替えなどの時間のかかる行為は、トイレ以外の場所で済ませるべきなんだろうと思いましたね」
<構成・文/藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。
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