飛び散った汁を放置する男性
平日の昼時で新幹線の車内は空いていた。中田実さん(仮名)の斜め前の席に座っていた若い男性が駅弁を開けると、その勢いで横に置いてあった汁が飛び散った。
「床にポタポタと落ちているのですが、男性はまったく気にする様子もなく、何事もなかったように弁当を持って立ち上がりました」
驚くべきことに、男性は飛び散った汁を拭くこともせず、通路を挟んだ向かい側の空いている席へ移動。そのまま食事を始めたのだという。こぼした汁には目もくれず、その平然とした態度に中田さんは思わず「え……?」と声を上げた。
飛び散った汁はそこそこの量があり、放置すれば、次に座る人が汚れる可能性もある。周囲の乗客は気づいていない様子で、最も近い位置にいた中田さんは対応に迷った。
「見て見ぬふりをするか、声をかけるか……。ただ、やはり、見て見ぬふりをするには汁の範囲が広すぎました」
結局、意を決して声をかけることにした中田さん。果たして、どうなるのか……。
注意されて明らかに「面倒くさい」
「すみません……ここ、こぼれてますよ。拭かれます?」男性は食事の途中で手を止め、中田さんをちらっと見た。
それでも声をかけられて無視はできなかったのか、少し間を置いてから「……ああ、はい」と短く返し、ゆっくり立ち上がった。
いったんデッキに向かい、備え付けのティッシュを手に戻ってきた男性は、“仕方なく”という感じで床を拭き始めた。ゴシゴシと丁寧に、ではなく、軽くなぞる程度だったが、少なくとも汚れた部分は目立たなくなったという。
「終わると男性は私の方を見向きもせず、また向かい側の席に戻って、静かに食事を再開しました」
その後は特にトラブルになることもなかったという。
「他人から注意されて嫌な顔をする前に、最初から自分で少し拭けばいいのにって。ただ、声をかけて良かったと思いました。あのまま放置されていたら、次の乗客や清掃の方が困るのは目に見えていたので。
こうした小さなマナー違反は、周囲に気づかれないだけで、日々起きているのかもしれませんね」
<構成・文/藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。
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