―[経済レポーター×銀座No.1ホステス・山崎みほ]―

3万円の予算でコートを買いにいくと、ショーウィンドウに10万円のコートが展示されていた。
「あれ?予算足りるかな…」

ドキドキしながら店に入ると、6万円のコートがあったので、ほっとして試着してしまった。
冷静に考えたら、当初の予算の2倍もするのに…。

こんな経験はありませんか?

実はこれ、店側の“仕掛け”にまんまとハマっているかもしれません。

今回は、昼は経済レポーター・営業職として上場企業の社長たちと、夜は銀座ホステスとして多くのお客様と接してきた私が現場で学んだ「買わせるための仕掛け」と、意外な応用方法についてお話しします。

銀座No.1ホステスが暴露する「20万円のシャンパンを“お得...の画像はこちら >>

知らないうちにハマっている“お得感”の罠

人は、最初に高い値段を見せられると、それが基準点になって、その後に見た値段を安く感じてしまうーーこれは行動経済学の「アンカリング効果」という心理です。

アンカリング効果は、冒頭のコートの例のように、店頭でとてもよく使われています。

高い商品を用意して他を安く見せる。値下げ品には値下げ前の定価も表示しておくーー様々な形で、お得感をあおって物を買わせる罠が仕掛けられています。

20万円のシャンパンが安く見えるテクニック

夜の世界でも、アンカリング効果は売上を上げるテクニックとして使えます。

たとえば、お客様にシャンパンを入れていただく場面。

20万円のシャンパンを入れていただきたければ、最初に30万円のシャンパンを振ってみるのです。

高いシャンパンを勧めるときの注意点

銀座No.1ホステスが暴露する「20万円のシャンパンを“お得に思わせる”」心理術。あざといけれど「自分は良い子のまま」
画像はイメージです
ただし、高いシャンパンの振り方には注意点があります。

「これ(30万円)をいただいてもいいですか?」と本気にも聞こえるトーンで言ってしまうのは絶対にNGです。

お客様が断りたくても断りにくくなってしまいますし、断ったときに微妙な空気になってしまいます。男性のプライドも傷つけてしまうので、良いことがありません。

“とことん冗談っぽく言うこと”が鉄則です。
お客様が笑って断れる、コントのような楽しい雰囲気をつくるのです。あくまで本命をお得に見せるための役割なので、本気で狙いにいってはいけません。

また、大前提として、必ず席が最高に盛り上がったタイミングで行います。そこまで場の空気をあたためるのがホステスの仕事です。

もしそういう空気でない日はシャンパンを勧めたりはせず、純粋にお客様に楽しんでいただくことに徹します。

自分の手を汚さない、あざとい使い方

また、これは少し計算高いのですが、黒服スタッフに手伝ってもらう手もあります。

お客様のお気に入りの黒服から「今日はこちら(30万円)のシャンパンどうですか!」とノリよく勧めてもらい、自分はすかさず「そんなに高いの申し訳ないから、こっち(20万円)がいいな」と言うのです。

すると、お客様はほっとして20万円の方を入れてくださりやすくなるだけでなく、自分の印象は「良い子」になります。売上を上げつつも自分の手は汚さない、あざとい方法ですね。

“最悪のケース”を伝えてクレーム防止

ここまで聞くと、「アンカリング効果=“買わせる”ためのテクニック」に見えるかもしれません。

でも実は、この効果が使えるのは値段の話に限ったことではありません。

ビジネスシーンでは、ネガティブな状況でのトラブル回避のためにも使うこともできます。

たとえば、お客様を20分ほど待たせてしまいそうなときは「30分程度お待たせしてしまうかもしれません」と伝えておく。結果、20分で案内することができたら、お客様は「思ったより早かった」と感じられ、ストレスが減ります。


テーマパークやレストランの待ち時間も、この心理を利用して、クレームが出ないように長めに提示されています。

“最悪のケース“を伝えることで、相手の心理的な負担を軽くする。これも立派なアンカリングです。

アンカリング効果は優しいテクニックにもなる

アンカリング効果は、恋愛でも相手のために使うことができます。

仕事が忙しくデートの時間がとれるかわからないとき。「今週は会えないかもしれない」と前もって伝えておけば、たった2時間だけ会えることになっただけでも「忙しいのに調整してくれたんだな」という気持ちになり、嬉しさが何倍にもなります。

よくないことは先に少し重めに伝えておくことで、逆に相手を喜ばせることさえできるのです。

アンカリング効果は「買わせるためのテクニック」として使われることが多いものですが、このように、使い方次第で「相手の気持ちの負担を和らげるクッション」にもなるものです。

相手の気持ちを先読みして、優しい使い方ができたら素敵ですね。

<文/山崎みほ>

―[経済レポーター×銀座No.1ホステス・山崎みほ]―

【山崎みほ】
経済レポーター。証券外務員一種/行動心理士。
株式投資情報のレポーターとして、上場企業の取材記事や経済ニュースを執筆。
Yahoo!ファイナンス、YouTube等メディアでは上場企業社長のインタビューも行う。また、銀座の高級クラブでホステスとしても勤務、心理学と行動経済学の知識を基にNo.1を獲得。経済レポーターの深い洞察力と人気ホステスとして培った対人関係術を融合し、夜の世界では1日40組、昼間の営業職では成約率90%の成績を上げるなど、昼夜問わず結果を出すスタイルを築いている。Xアカウント:@mihoy001
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